第一話 変わり者の伯爵令嬢
ブランカはこの国・・・ロルカ帝国の海岸地方を治める貴族 ウエスカ伯爵の長女だ。
八人兄弟の一番上で、下に、三人の弟と四人の妹がいる。
兄弟が多いこともあって、両親はブランカの事をあまりかまわなかった。
愛されなかったわけではない。
欲しいものは大抵与えられたし、望めば大抵の事は ( 時間はかかったが ) かなえられた
家庭教師から、貴婦人として必要なきちんとした教育も受けることが出来た。
絵が趣味だった父は、ブランカに絵の描き方や色に寄って違う絵の具の特徴を。
母は、刺繍の技法を教わってはいた。
が・・・
何故か、ブランカの心は覚めていた。
弟たちや妹達のように、両親に甘える事もあまりなく・・・
どたらかと言えば、ブランカを育ててくれたのは、一緒に住んでいた母方の祖母・カルビア伯爵夫人だったかも知れない。
祖母は、ブランカに、色々なことを教えてくれた。
ドレスの縫い方
編み物やレース編みのやり方
公式行事の時の調度品の選び方から、テーブルウェアの選び方
旅行に行く時の、トランクのつめ方まで。
妹達が知らないことまで、一通り教えてくれた。
そのこともあって、ブランカは、貴婦人としてのたしなみは備えていたのだが・・・
年を経るに従って、大勢の人と交わることを拒むようになっていったのだ。
幼い頃に暮らした屋敷の近くに、ブランカの遊び相手となるような年頃の貴族令嬢がいなかった事も原因のひとつだろうが
いつも屋敷の中で、召使をも遠ざけて。
一人、刺繍をしたり、歴史物語を読んだり、気が向けばハープを奏でたりして日々をすごした。
たまに出かけることもある。
が、両氏の許可をもらってはいるものの、供一人連れず・・・
まるで召使か下働きのような姿で辻馬車を乗り継ぎ、帝国内の旧跡や古い神殿に詣でるのだ。
女の一人旅が安全でないことはわかりきってはいるのだが、ロルカ帝国の国内は割りと治安がよくて。
ここ数年、豊作も続いていることもあり、今までこれといった危険にさらされたことはなかった。
マントから顔をひょこんと出し、
「 どこそこの神殿への巡礼に行くのですが・・・ 」
といえば、民も笑顔で話しかけてきたり、ブランカの質問に応じたりしてくれる。
そんな一回限りの会話が、ブランカは好きだった。
自他共に認める
変わり者の伯爵令嬢・ブランカ
両親は、苦々しく思っているようだが・・・
ブランカ自身は全く気にしてはいなかった。