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第十四話 皇太子と皇女の内輪話

今年の収穫祭では、エウヘニア皇女がルナ・レイナの代わりをつとめる

と、後宮中に告げられた二日後の午後。


アルフォンソ皇太子は、東後宮エステ・デ・レベルソ内の、百合宮パレス・デ・リリオにいた。

いまだここに住まう、姉のエウヘニア皇女の元を訪れたのだ。



東後宮エステ・デ・レベルソは、花園フロルガルデンとも呼ばれるように、后妃や妾妃、皇女たちが住まう館には、全て植物の名前が付けられている。

また、一般的に樹木の名前が付けられている館・・・パレスは、『 レイナ 』の称号を賜った后妃たちが。

草花の名前が付けられている館・・・パレスは、『 ムヘル 』の称号を賜った妾妃や、未婚 ( もしくは25歳未満 ) の皇女たちが。

同じく、草花の名前が付けられているが、パレスではなくマンシオンと呼ばれる屋敷は、皇帝の夜のお召しにあずかり、『 セニョーラ 』の称号を賜った夫人たちが。

それぞれ賜ることが慣例となっていた。


もっとも、夫人セニョーラの称号は、決して卑下されるものではない。

確かに、皇帝の寵愛が深くとも、身分など様々な理由から后妃や妾妃の称号を賜ることが出来ない女性たちに与えられることが多いのだが、

いずれ后妃や妾妃の称号を賜る者が、正式にそれらの称号を授かる前、『 皇帝の寵愛を賜った者 』 と、言う意味合いで、一時的にこの称号を賜ることもあるからだった。



さて、それはともかく。

パレス・デ・リリオの中庭を見渡せる部屋で、皇太子はエウヘニア皇女と話していた。

季節の話や、収穫祭の話など、通り一遍の話を行った後。

皇太子は急に、いたずらっ子のような表情になるとこう切り出した。


「 で・・・姉上。 后妃候補の令嬢の中に、姉上のお眼鏡にかなう女人はいましたか? 」


と。


エウヘニア皇女は、紅茶を一口、飲んでから、クスリと笑う。


「 まぁね。 しかし・・・アル。 貴方の后妃候補たちは、どれもこれも強いアクがある方ばかりね。

特に、あのアデーラ嬢。 私を見下すような目で見たのよ。 一帯自分を何様と思っているのかしら? あの令嬢は 」

「 私もあの令嬢には、目をつけていたんですよ 」

「 まさか・・・アル!! アデーラ嬢をソル・レイナにしよう・・・なんてつもりじゃあ・・・許さないわよ!! 私は!! 」

「 とんでもない!! その逆ですよ、姉上 」


皇太子は、片手を数度、横に振ると、テーブルの上に肘をついた。


「 どこから洩れたのかはわかりませんが、アデーラ嬢の父上のウエルパ侯爵から、私が早くアデーラ嬢を抱くように・・・と、催促する手紙が届いているんです。それも、数日置きに何通も 」

「 何ですって??? 」

「 姉上もご存知でしょう? 后妃や妾妃の親族は、表・裏ともに国の政に関わってはならない。口出ししてはならない と、いう決まりを。 ウエルバ侯爵は、その決まりを破ったも同然の事をしている。 ゆえに私は、あの令嬢だけは寝所に呼ぶまいと決めているのです 」

「 それなら安心ね 」


エウヘニア皇女は立ち上がると、おもむろに窓際の方に歩いていった。


窓際からは、バルコニー越しに中庭の様子が見える。

色づきはじめた公孫樹並木の中を、幼い男の子が一人の女性の前を走っていくのが見えた。

男の子は、おそらく皇太子やエウヘニア皇女の異母弟・・・現在の末弟のファン皇子だろう。


皇女は、その様子を微笑みながら見ていたが、


「 そういえばアル。 私ね、貴方の后妃候補の中に、ちょっと面白い令嬢を見つけたのよ。 それも、二人も 」


と、言って。

皇太子の方を振り返った。


「 奇遇ですね、姉上。 私も気になっている后妃候補が二人、いるのですよ。 勿論、アデーラ嬢とは別の意味でのね 」

「 まぁ・・・( 笑 ) 。アル、それは、おてんば娘と・・・ 」

「 人嫌い 」

「 奇遇ね。私もその二人が気になって 」

「 そこで姉上に相談なのですが、その二人の一方を、収穫祭の最後のダンスの相手に。 もう一人を、秘め事の儀式の相手に。 それぞれしようかと思っているのですが・・・ 」

「 依存はないわ。 あの二人ならば、他の令嬢などよりもよほど立派に、ソル・レイナとルナ・レイナをつとめられるでしょうから。でも・・・ 」


皇女は笑いながら花瓶の前に立ち、生けてあった遅咲きのバラの花を一本。

手に取ると、皇太子に向かって差し出しながらこういった。


「 私が見たところ、あの二人は 命じれば応じてくれるでしょう。 けれど・・・ かなり手ごわいはずよ 」

「 覚悟の上ですよ 」


皇太子は、差し出されたバラを受け取った。

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