第十一話 皇太子のお茶会 --- 皇太子編 ---
アルフォンソ皇太子視点での、皇太子主催のお茶会です
后妃候補の令嬢達が、入内してから半月目。
今日は、私が令嬢達を招待して行う
お茶会の日
だ。
神殿への朝の拝礼の時以外、顔を見ていない令嬢達と、今日は直接話をすることとなる。
あ・・・約一名とは、一昨日、偶然出会って話を交わしているのだが・・・
それはそれで構わないだろう。
午前中は、いつものように執務を取っていた私は、アランフェス子爵の
「 そろそろお茶会のための、お召し変えの時刻にございます 」
と、言う声に、顔を上げ、自室へと戻った。
この 『 自室 』 と言うのは、表御殿の中にある私自身の私室で。
居間と寝室 ( 後宮で夜を過ごさない時に使う寝室 ) 、バス・トイレ、衣裳部屋など、10近い部屋から成り立っている。
もっとも私はまだ、夜を後宮で過ごしたことがないため、もっぱらここが私的な 『 自宅 』 の、ようなものであるけれどな。
それはともかく。
私が自室に戻ると、部屋付きの侍女が、私に浴室に行くよう告げた。
既に、なみなみとお湯の張ってある浴槽に身を沈めた後、身体と髪を洗う。
浴室から出ると、衣装や結髪など、それぞれの役目を持った近習の男女が数人現れて、てきぱきと私の身支度を整えていく。
その間に、数人の召使が現れ、テーブルの上に軽い昼食を用意した。
軽い昼食も取り終え、身支度もすっかり整った頃、
まるで時間を計っていたかのように、女官長が現れた。
そろそろお茶会の時刻のようだ。
私は、女官長の先導の元、数人の侍従や女官たちと共に後宮へと向かう。
今日のお茶会が行われるのは、後宮内にある皇帝の宮殿
『 天の宮殿 』
そこの音楽室と、付属のテラス。
音楽室前の庭園だ。
「 クエンカ侯爵夫人、令嬢達はそろったのか? 」
「 はい、殿下。
ただ・・・ 」
「 ただ??? 」
「 アデーラ嬢とベアトリス嬢もおいでになられました 」
二令嬢の名前を聞いて、私は眉を曇らせる。
「 あの二人の令嬢は、茶会の出席を禁ずると・・・二人付きの女官には、茶会の事を知らせてはならぬと、申し付けたはずだが? 」
「 確かに、私や殿下付きの女官達には、きつく申しつけてございます。
しかし・・・いったいどこから漏れたのか・・・先ほど二令嬢がそれぞれ女官を連れて音楽室に現れまして。
部屋付きの女官と、押し問答になってしまいましたの 」
「 それで・・・中へ入れたのか? 」
「 滅相もございません。
入室は拒み通しました。
もっとも、殿下からのご命令をお伝えいたしまして、穏便にお引取り願おうとしたのですが・・・
ベアトリス嬢は無理に中へ入ろうといたしまして、警護の姫騎士達に取り押さえられ、キイキイ声を上げながら連れて行かれましたし、
アデーラ嬢はそこまでの事はなかったのでございますが、「 お父上に言いつけてやる!! 」 などと捨てぜりふを残して戻って行かれました 」
歩きながら、片手で眉間を押さえる女官長に同情しつつ
「 茶会の事は、召使あたりから漏れたのだろうな。
人の口には戸は立てられから。
それよりも女官長、身体に気をつけてくれよ 」
と、いたわった。
茶会は、和やかな雰囲気の元、始まった。
もっとも茶会が始まると同時に、私は4人の令嬢達に取り囲まれてしまったのだが。
「 殿下、どこそこの男爵令嬢様が・・・ 」
などと、甘い口調で噂話を語っているのは、パラカルボ侯爵令嬢のカロリーナ殿だろう。
噂好きなだけあって、大人しい装いの中に近頃流行の髪飾りなどを、さりげなく取り入れている。
その噂話に乗っているように見せながら、時折、お金の事を持ち出すのは、ハエン子爵の令嬢のローサ殿。
いくらかかったのか、財力を見せ付けるかのような大きな宝石を身につけてはいるが、衣装自体は取り立てて特徴のない物だ。
生地の質も中の上・・・といったところだろうか。
お・・・おいおい、その衣装は何が何でもひどいだろうと言いたいのは、ヘタフェ男爵令嬢のソフィア殿だ。
仮装舞踏会でも、さすがに誰も身に着けまい・・・と、思わせるほどの、派手な色合いの生地にいくつもの鳥の羽だの造花だのを、これ見よがしにくっつけた衣装をまとっている。
これではまるで、繁華街の飲食店の看板だ。
もう一人、どうしても我慢がならないのは、オリウエラ伯爵令嬢のクリステイネだ。
遠目に見ていたときには気がつかなかったのだが、近くに来るにしたがってわかってきた。
顔が・・・白粉の壁のような顔が、表情を作るたびにひび割れでもして、白粉がパラパラ落ちてくるようではないか。
おまけに、その香水の匂いはなんだ?
お茶の香りを消してしまったではないか。
そんなことを思いながら、ふと遠くに目をやる。
ピアノ前の椅子に腰をかけ、微笑んでいる令嬢と、ピアノに頬杖をついて笑っている令嬢が目に入った。
片方の令嬢は、誰だかすぐにわかった。
二日前に秋の神殿で出会い、言葉を交わした、ウエスカ伯爵令嬢のブランカ殿だ。
シンプルだが、遠目にも飛び切り上等の生地を使っているとわかる衣装と、控えめな装身具を身に着けている。
と、すると、笑いながらブランカ嬢と会話を交わしているように見えるのが、アビレス伯爵令嬢のコンスタシア殿だろう。
ブランカ嬢とよく似た、シンプルな衣装をまとってはいるが、袖飾りや襟飾りなどに狩の女神を思わせる装飾がきらめいていた。
何を話しているのか・・・
二人の令嬢達は、ほんとうに楽しそうで。
私は目が離せなくなっていた。