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第十話  后妃の条件

アルフォンソ皇太子が考える、皇后・・・第一后妃の条件とは

夜。

アルフォンソ皇太子は、本日の執務を終えた後、いつものように侍従長のアランフェス子爵から翌日の予定を聞いていた。


「 殿下に置かれましては・・・・昼過ぎ、農務大臣と会談。

その後、神祇大臣と工部大臣、大蔵大臣のお三方を交えまして、先日の風水害によって破損しました某聖地の神殿の修復工事に関する会合が予定されております。

夕刻からは・・・ 」


何度か頷き、時にはグチも交えながら、予定を確かめていく。


最後まで予定を聞き終わった時。

それを見計らったかのように、ノックの音が聞こえてきて、女官長のクエンカ侯爵夫人が入って来た。


女官長が、いつになく渋い顔をしているのを見て、アランフェス子爵が

「 何事かございましたかな? 」

と、小声で尋ねる。

すると、女官長は、額に手を当て、何度かため息をついた後


「 参りましたわ・・・ 」


と、つぶやいた。


「 クエンカ侯爵夫人、どうした? 」

「 殿下・・・私が選んでベアトリス嬢につけました、近習の女1名と召使が2名、今日限りでお暇を頂きたいと、さっき申して参りましたの 」

「 ベアトリス嬢と申せば・・・リナーレス子爵のご長女でございましたな? 」

「 左様でございますわ、アランフェス子爵 」

「 しかし・・・ 」


信じられないという顔をするアランフェス子爵。


「 辞めたいと申している召使の話では、ベアトリス嬢はわがままで、少しでも機嫌を損ねると、すぐに使用人に手を上げるそうですの。

二日前に暇乞いをした召使などは、お茶の温度が熱すぎたとかで、そのお茶を頭からかけられたそうでして。

挙句、謝り方が悪いと言って、近くにあった暖炉の火掻き棒でぶたれたとか 」

「 それは酷ぅございますな。

で、ベアトリス嬢付きの女官は、いさめなかったのですかな? 」

「 いさめたそうなのでございますが・・・火に油を注ぐ結果になってしまったらしくて。

ベアトリス嬢付き女官のバンプローナ侯爵夫人をも、火掻き棒で打ち据えたとか。

それ以来、バンプローナ侯爵夫人はすっかり怯えてしまいまして。

出来ることなら女官を辞めて、領地に引きこもりたい・・・と、私に訴えておりますの 」


女官長は、言い終わると、

はぁ・・・

と、大げさな溜息をついた。

皇太子は知らないふりをしていたのだが、実はベアトリス嬢付きの召使や近習の女性が暇乞いをするのは、これで3度目。

8人目だからだ。


「 クエンカ侯爵夫人、苦労をかけるな 」


皇太子は、女官長を労わった。

アランフェス子爵もまた、同情の目を向けている。

が、子爵はおもむろに上着の内ポケットから、一通の封書を取り出すと、皇太子の方に向かって差し出した。


「 殿下、后妃候補のご令嬢方と申せば、本日、后妃候補のお一人、アデーラ嬢のお父上であらされるウエルバ侯爵より、私宛にこのような手紙が届きました 」

「 私が読んでも構わないのか? 」


尋ねる皇太子に、子爵は大きく頷く。

それを見た皇太子は、手紙を取り出すと読み始めたのだが・・・数行も読まないうちに、手がぶるぶると震え始めた。



我娘アデーラは、未だ皇太子殿下の夜のお相手を勤めていないようだ。

家柄・身分などのどれもが、他の后妃候補の令嬢達よりも勝っている我娘が、夜のお相手を勤められないことは心外である。

ゆえに、早急に我娘が皇太子殿下の夜のお相手が出来るよう、アランフェス子爵から皇太子に口ぞえして欲しい



そんな内容の手紙だったからである。


皇太子は読み終わった手紙を女官長に渡し、読むように告げる。

手紙を読む女官長の手もまた、驚きと興奮で震え始めた。



女官長が手紙を読み終わるのを待っていたかのように、皇太子は毅然とした声でこう言った。


「 アランフェス子爵、クエンカ侯爵夫人、両人に命ずる。

リナーレス子爵令嬢と、ウエルバ侯爵令嬢の二人を、第一后妃候補・・・いや、后妃候補からすぐに外せ!! 」


御意ぎょい!! 」


「 召使の身分とは言え、宮内庁から付けられた使用人は私の使用人と同じ。

その私の使用人に、ささいな事で手を上げるような女人を、后妃にするわけにはいかない。

后妃たるもの、身分にかかわらず慈しみの心を持っていなければならないからな。

それから、后妃候補の身内が、後宮内の事を知っているのも驚くが、そのことに関して一々口出しをしてくるのも気に食わない。

もし、このような令嬢を后妃にしたならば、后妃の身内として事あるごとに口出ししてくるに決まっているからな。

后妃の身内は・・・あくまでも驕らず、威張らず、つつましい者でないと 」



子爵と女官長は、何度も頷いている。


「 殿下、それではベアトリス嬢付きの召使と近習の女の事はいかが致しましょう? 」

「 ん??? 」


皇太子は、目を閉じ腕を組んで少し考えていたが、やがて目を開けると、やさしい瞳でこういった。


「 去るものは追わず・・・暇乞いをする者たちには、十分な金子を与えてやれ。

それから、新たにベアトリス嬢付きとなる召使と近習の選定は、侯爵夫人に任せる。

ただし、ベアトリス嬢には、次はないと申しつけよ。

また使用人に手を上げるようならば、直ちにベアトリス嬢を後宮から追い出せ!!

それと、明後日に行われる私主催の茶会の事だが・・・

アデーラ嬢とベアトリス嬢の女官には茶会がある事を伝えるな。

二令嬢の茶会への参加、まかりならん」



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