表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

第八話  それは、秋の神殿で その二

アルフォンソ皇太子殿下視点のお話です

その娘は・・・

夕暮れの光の中、秋の女神が描かれたステンドグラスを見つめていた・・・




后妃候補の娘たちが、後宮に入内してから、十日近くが経った。

私・・・こと、ロルカ帝国 皇太子 アルフォンソ・デ・ロルカ は、召使が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、入内した令嬢達の事を考えていた。


実は、私は、何人かの腹心の女官に召使の格好をさせて、入内してきた令嬢達つきの召使が集まる洗濯場や給湯室に配置していた。

勿論、そこで令嬢達つきの召使が話す、気の置けないおしゃべりを集めさせるためである。


入内してから十日近く経てば、令嬢達はそろそろ後宮にも慣れてきて

最初のお目見えの時に被っていたネコの皮を脱ぎ始める頃だ

あの令嬢達には、どんな素顔が隠れているのやら


と、内心楽しみだったのだが・・・

甘かった。


本当に甘かった。


令嬢達は、私が思っていた以上に、癖のある女性たちだったのだ。



帝国内の聖地の一つを守る ウエルバ侯爵の次女 アデーラは、気位がやたら高くていつもツンツンしており、召使は勿論、侍女にすらろくに声をかけない女性だった


領地内に温泉地を有する パラカルボ侯爵の末娘 カロリーナは、噂話が大好きで、やたら口が軽い


海岸地方の領主 ウエスカ伯爵の長女 ブランカは、人付き合いが苦手で一人でいることを好んでいる


森林地帯を領地に持つ オリウエラ伯爵の養女というか弟の娘 クリステイネは、色が浅黒いのがコンプレックスらしく、どぎついほどの化粧好き


山岳地方の領主 アビレス伯爵の一人娘 コンスタシアは、絵に描いたようなおてんばで口が悪く、人が顔を赤らめるようなことを平気で口走る


交通の要所を守る リナーレス子爵の長女 ベアトリスは、わがままで、召使や侍女に平気で手を上げる


元豪商で、子爵家の一人娘との婚姻で爵位を得たハエン子爵の長女 ローサは、自慢やで、何かにつけて お金 の話を持ち出す


鉱山町の警備を任せている ヘタフェ男爵の三女 ソフィアは、派手好きで衣装の趣味が悪い



どの令嬢も、灰汁が強すぎる


腹心の侍女からの報告を聞くたびに


「 どうして、こう、癖がある令嬢ばかりが後宮に集まったんだ・・・・」


と、つぶやかずにはいられなかった。



そんなことを考えていると、家臣の一人が私を呼びに来た。


今日はこれから、宮殿の西門近くにある

秋の神殿

に、行くことになっていた。


と、いうのも、この神殿では、近々

秋の収穫祭

が、行われる事になっており、私が祭主として祭りを執り行うこととなっていたからだ。


亡き父帝の喪中だから、今年は取りやめるべきだとも思ったのだが、こればかりは中止に出来ない行事だった。


と、言うのも、何百年か前に、似た様な事情で収穫祭を執り行わなかった皇帝がいたらしい。

しかし、翌年から3年の間、帝国内で

日照り

洪水

火山の噴火

地震

疫病の流行

と、いった災害が相次ぎ、民は苦しみ、神官たちは慌て、


これは、喪中だからと収穫祭を執り行わなかった為に、秋の女神がお怒りになられたのだ


と言う結論に達したらしい。


それ以来、たとえどんな事情が起ころうとも、毎年必ず、収穫祭だけは行われることとなっていた。




さて、私が西の神殿に行くと、神殿を守っている巫女たちが、最敬礼して出迎えてくれた。

この神殿を守る神官長が、聖衣の裾を引きながら現れて。

私に最高の礼を取ったのち、神殿の中へと導く。


私は、巫女たちの先導の下、神官長を横に従えて、神殿の中へと入った。


神官長は、神殿中央の奥へと私をいざない、中央祭壇前の数段高く作られた大理石の段を指差しながら


「 収穫祭の時には、あの段の中央に、殿下はひざまずかれる事になります 」

「 ああ・・・確か亡き父上も、そうなさっておいでだったな。

それから、祈りをささげて・・・祭壇の前に・・・」

「 よくご存知で 」

「 亡き父上とともに、幾度も収穫祭には参加してきたからな 」


私はそういうと、次の儀式の説明を受けるために、体の向きを変えたのだが・・・



中央祭壇の左手、祭壇横の柱の陰になって、まっすぐ向いていては見えない位置に、その娘はいた。


シンプルだが質のいい生地を使ったドレスをまとい、頭には神殿に拝礼する時の作法通り白いレースのベールを被っている。

私と神官長が話す姿に、気がつかないのか

じっと・・・

そう、ただじっと・・・

夕暮れの光で輝く、秋の女神が描かれたステンドグラスを見つめていた。


「 神官長、あの娘は?

巫女のようには見えないが 」


小声で私が尋ねると、神官長は軽く髯に手を当てて


「 ああ・・・ウエスカ伯爵のご長女のブランカ様でございますよ。

殿下の后妃候補として、先日入内いたしたと聞いておりますが・・・

お忘れでございますか? 」


そういえば、四季の神殿への見学願いを出してきた后妃候補が一人いたことを、私は思い出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ