1/20
プロローグ
薄暗かった手元が、パッと明るくなった。
その明るさに、ブランカは刺繍をしていた手を止めると、おもむろに頭を上げ、明りを点してくれた世話役の女中に向かって
「 アンナ、もうこんな時刻だったの? 」
と、尋ねた。
明りを点し終えた女中のアンナは、にっこりと笑うと
「 お嬢様は夢中になって刺繍をなさっておいででございましたから・・・」
ブランカは、照れくさそうに微笑むと、テーブルの上に置いてある見知らぬ箱に気づく
「 アンナ、あの箱は? 」
「 お嬢様が後宮入りするときに、お召しになられるドレスが、先ほど届いたのでございますわ。
ご覧になられますか? 」
ブランカは、そっと首を横に振ると、
「 もう暗くなってきているから、明日にするわ。
そっか・・・私、もうすぐ皇太子殿下の後宮に入るのよ・・・ね 」
どこかさばさばとした口調で言うと、再び刺繍を始めた。