ひまわり畑の秘密
※コミティア156で出した本に掲載した作品の全文です。
まるで黄色の絨毯を敷いたような、辺り一面にひまわり畑が広がっている。
子どもの私たちよりも背は高く、中へ踏み入ると方角も分からなくなってしまう。
夏の間だけ出現する迷宮。
誰も知らない、私と彼だけの秘密の場所。
私たちのはしゃぐ声は青空に吸い込まれ、誰にも聞かれることはない。
このままずっと二人だけでいられたらなんて素敵なことだろう。
そんな考えに囚われてしまったのはきっと夏のせいだ。
私の気持ちを伝えると彼も笑って頷いてくれた。
私たちの心はぴったりと寄り添っていた。
ひぐらしの鳴き声が寂しげに響く夕暮れ、彼が行方不明だと大人たちが騒ぎ出した。
あちこちを探し回るけれど何の手掛かりも見つからない。
神隠しのようだと誰かが言った。そんなわけはないのに。
私だけが、彼がどこにいるのか知っている。その優越感が私の心を満たしていた。
みんなが寝静まった真夜中、こっそり家を抜け出した。
月明かりを頼りに鼻歌混じりにあの場所へ向かう。彼が私を待っている。
二人だけの秘密。甘美な響きに自然と笑みが溢れた。
風が黄色の絨毯を撫でつけてさらさらと鳴った。
薄闇に浮かぶ無数のひまわりは、星空を観察するように思い思いの方向を見上げている。
夏の夜の静けさを虫の音が引き立てる。
目を凝らすと、ひまわり畑の中でぼんやりと光る白い手が飛び出ていて、位置を知らせるようにゆっくりと振られているのが見えた。彼がここだよと、私に教えてくれている。
ひまわりをかき分けて、彼の元へ向かう。
辿り着くと足元の土の色が他の場所と比べて違っていて、少し盛り上がっている。
「おまたせ」私が声をかけても、彼の返事はない。
それでも全く構わない。だって彼はここにいるのだから。
誰にも教えない。私と彼だけの秘密。




