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精霊付き遺産相続 3

 なんだか複雑な話を沢山聞かされた末には、面倒で手に負えないようなら放棄もできると言われたんだけれど、そして一瞬はそんな気にもなったんだけれど。

「わたしが相続を放棄したら、このお屋敷をどうされるつもりなのでしょう?」

 わたしは好奇心からきいてみたのだ。

「その場合は、売却することになるでしょう」

 弁護士は当然のことのように教えてくれた。

「ダーバヴィル家が代々所有していたものではありませんし」

 そういわれると、もったいない気持ちになってしまったのだ。せっかくのチャンスなのに。

 つまりわたしは、こんなお屋敷の女主人になれるなんてまるで物語の女主人公になれるような錯覚に負けて、相続を決意したのだ。

 と、今ならわかる。

 仕事を解雇されて、これからどうしたらいいか。住むところだけはあるのが幸いだった。その住むところを手に入れたために解雇されたのだけれど。

 とはいえ荷物をまとめてグレッグソン家を後にし、ペムバリーのアドベリーハウスへ向かう鉄道の二等車の客席で、わたしは時々、屋敷の相続なんて夢だったのではないか、ペムバリーに着いてみたら屋敷は存在しないとか、もうずっと前から由緒正しい貴族か誰かが住んでいるのではないか、という不安に何度か襲われた。相続したのがもっと手頃な家だったならば感じることのない不安だっただろう。

 不安を感じる必要などないわ。わたしは自分に言い聞かせた。ちゃんと正当な所有権を示した書類も持っているんだもの。わたしは不安に駆られるたびに荷物の中に書類があることを確認した。書類はちゃんとそこにあった。

 あのお屋敷はわたしのもの。わたしのものよ。

 同時に、もしもすでに住人がいた場合に備えて、自分の権利を主張する演説の予行練習を頭の中で繰り返した。お屋敷の正当な持ち主にふさわしいと思われる品のある言葉を選んで。それともか弱い女性を演出した方が効果的かもと思い、涙を拭く仕草の説得力をより高めるためハンカチを手に持ったりした。

 はたして、屋敷はちゃんとそこにあった。人は住んでいない。もらった鍵を使うと、ちゃんと入れた。

「夢じゃなかったようね」

 わたしは大きすぎる我が家に足を踏み入れた。

「わたしのお屋敷……」

 広いエントランスホールとゆるやかにカーブする手すりを備えた大階段グレイト・ステアケースがそこにある。天井があきれるほど高い。実用というより装飾性の高いシャンデリアがつり下がっていた。

 わたしはホールを中央まで進んだ。

 メイドとしてお屋敷に住んでいたけれど、主人として足を踏み入れる、となると、気分がずいぶんと違った。はるかに厳かで、少しばかり尊大で、悪くない気分だった。

 そう、いい気分。

 とてもいい気分。

 気が付いたら、わたしは年に数回の使用人たちだけのパーティで踊ったダンスを、軽く数小節分踊っていた。

「素敵素敵! って、喜んでばかりもいられないわね。ぐずぐずしていたら日が暮れちゃう」

 列車の中ではここでどう暮らすか計画をあれこれと考えてもきた。わたしはあらためて感激にひたるのはほどほどにして、新しい生活へ踏み出すべく行動を開始することにした。

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