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風のアモール~氷雪の大陸にて~  作者: 葉月奈津・男


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22/23

第22話 それぞれの明日へ ④エピローグ その三 ~十年後~

あの日から、十年。

シレーネとボルガンの宿には、笑顔と花が咲き、子どもたちの声が響いていた。

そしてある日、懐かしい風が、再び扉を叩く。

今回は、再会と未来を描く、物語の最後の一歩です。

 



 あの日から、十年の歳月が流れた。



 シレーネとボルガンは、村に戻ってすぐに結婚式を挙げた。

 誰もが望んでいたことだったし、煮え切らないボルガンに対して、そろそろ決断しろという空気が村中に満ちていた頃だった。


 ボルガンの母がこの日のために縫っていた純白のドレスは、飾り気のない、どこか地味なものだった。

 けれど、それがかえってシレーネの慎ましさを引き立てていた。


 ボルガンも一張羅で挑んだ晴れ舞台——だったはずが、緊張のあまり手と足が同時に出るという失態を演じ、村人たちの笑いを誘った。


 でも、結婚式の主役は花嫁。

 花婿は、あくまで引き立て役なのだ。

 彼ほど、その役目を完璧にこなした者はいないだろう。


 宿屋も完成し、今ではしっかり営業している。

 木の温もりが伝わる、小さくて居心地の良い宿。

 シレーネの優しさが、そこかしこににじみ出ていた。


 店を切り盛りするのはシレーネ。

 ボルガンは今も山に入り、木こりと狩人を兼ねて、シレーネの料理に使う食材を集めている。


 二人の間には、八歳の女の子と五歳の男の子がいる。

 名前はメイムとアル。

 ——そう、メモリーとアモールから取った名前だった。


 宿の前には、小さな花壇がある。

 新婚の頃、ボルガンが山から持ち帰った花を、シレーネが一輪ずつ植え替えて育てたものだ。


 今、その花壇の前で、子どもたちが草むしりを手伝いながら、じゃれ合っている。


 シレーネは、ボルガンのために編んでいたセーターの手を止め、その様子を優しく見守っていた。


「お父さんだ!」


 木々の間から現れたボルガンを見つけ、アルが叫ぶ。


 子どもたちが一斉に駆け出す。

 シレーネも立ち上がり、夫の帰りを迎える。


 だが、子どもたちの足が途中で止まった。


 ボルガンは一人ではなかった。

 見覚えのある顔ぶれを連れていたのだ。


 三〜四歳の子どもを連れた夫婦らしき男女。

 仲の良さそうな姉妹のような女性二人。


「懐かしい客を連れてきたよ」


 ボルガンの声が届くより早く、シレーネの視線は、彼らに釘付けになっていた。


 白鳥の刺繍がまぶしい神官服の女性——サラサ。


 栗色の髪と瞳を持つ、ボーイッシュな娘——マリーナ。


 子どもを抱いた、少し所帯じみたけれど幸せそうな女性——メモリー。


 そして、歴戦の傷跡を刻んだ、屈強な男——アモール。



「わかるだろ? サラサ、マリーナ、アモール、メモリー。そして、シーネちゃんだ」


 ——シーネ。

 きっと、シレーネの名から取ったのだろう。


 そんなことは知らず、シーネはシレーネに手を伸ばして笑った。


 けれど、シレーネはまだ気づいていないようだった。

 驚きと戸惑いで、心ここにあらずの様子。


 それでも、ボルガンの言葉に反射的に頷き、やがて、深く息を吐いて——


 最高の笑顔で、最高の客を迎え入れた。


「いらっしゃいませ」



最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。

十年の時を経て、彼らは再び出会い、笑い合い、未来を語り合いました。

それぞれの明日は、もう“誰かの物語”ではなく、自分たちの手で紡ぐ日々。

この物語が、あなたの心にも小さな灯をともしてくれたなら、嬉しいです。

それでは、またどこかで——風のように。

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