表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

                         

「はぁ……。今日もお昼がこんな時間になっちゃったよー。ターラさん、何か残ってるー??」


私は王宮で秘書官補佐をしている、一応伯爵令嬢。


今日も午前中の仕事が押して、お昼を二時間ほど過ぎて、王宮にある職員専用食堂にやってきた。


「あんたも大変だねぇ。あんな男ばっかのところにずっと居て、お昼も遅くなって……。ほんとに可哀想だよ……」


食堂のターラさんとは10年来の付き合いで、私もここに来て12年のベテランだ。


だいたい女性は侍女になる人が多いなか、私は男ばかりの文官一筋。


最初は事務官補佐、試験に合格して、事務官になり8年後さらに昇進して秘書官補佐になった。


女性で秘書官補佐になったのは、私で二人目だ。


私が特別優秀……というわけではなく、ほとんどの女性は結婚して辞めてしまうからなのだ。


実家の伯爵家へ仕送りしながら、領地再建に向けて王立図書館で調べた事も、父に手紙で送っていた。


父の努力もあり、領地は再建し、屋敷の使用人も増やすことが出来た。


事務官の仕事も休まず、残業代欲しさに多くの仕事を買って出て、仕事の鬼とまで言われるようになった。


……と、無我夢中で走り抜けたら28歳になっていた……。

 

私の容姿はいたって平凡。少し変わっているとしたら、シルバーグレーの髪色くらいだ。この髪は母譲りで目立つため、仕事の時は茶色に染めている。瞳の色は父と同じ茶色だ。


忙しさをいいわけに容姿に気遣うこともなく、長いストレートの髪は伸び放題。化粧もほぼしていない。


服装も動きやすさ重視で、ズボンとブラウスで寒い時は黒いカーディガンを着て勤務している。


おかげで男性の同僚からも、ほぼ同性のように扱われている。


まぁ、私にはそのくらいが丁度いい。


今更、ドレスを着てお茶会や社交会など考えられない。



「はいよ。ありあわせだけど、栄養はあるから」


ターラさんがまかない丼を出してくれた。


お肉も野菜も入っていて、栄養満点だ。


おいしそうな香りに、自分がどれだけ空腹だったのか思い知らされた。


「わぁ、おいしそう!ありがとうターラさん。いただきます!」


あつあつのご飯と、ジューシーなお肉、野菜の甘味に身も心も癒されていく……。


「オリビアちゃん、あんたもいい加減結婚とか考えないのかい? もう実家の問題も解決したんだろ?」


私の食事の手が止まった。


そういえば、そんな話題最近振られなくなったな。


20代前半まではまだ紹介しようか?と声がかかったが、25歳を過ぎてからは1年ごとに声をかけられることもなくなり……。


最近では心配されることもなくなった。


……そう。もう完全に行き遅れ、【終わった令嬢】として烙印を押されたのだ。


こんな風に心配してくれるのも、ターラさんだけだ。


私は口元に笑みを浮かべた。


 「もう、やだなぁターラさんたら。私みたいに女っぽくないし、年増の女なんて誰も結婚したがらないですよ。私はいいんです。今は仕事にやりがいも感じていますし。結婚は……、来世でしようかな」


私はわざと大きく笑ってみせた。


ターラさんの眉毛は八の字になり、笑ってはくれなかった。


 「また、そんなこと言って……。あんたがこれまでどれほど頑張ってきたか……。私はそばで見てきたつもりだよ。誰かそばであんたを支えてくれる伴侶がいたって、バチは当たらないさ。あんたには苦労した分、幸せになる権利があるんだよ?」


思わず私は下を向いた。口の中のご飯がしょっぱく、鼻先がツンとした。ふいに頭に優しいぬくもりを感じた。


「あんたは私の娘みたいなもんさ。ここまでよく頑張ったね。ここからは、自分の幸せをみつけな? ね?」


ターラさんの手のぬくもりが、第二の母のように感じた。


 「はい、ターラさん。ありがとうございます!」


私たちは微笑みあった。


その時、だれも来るはずのない食堂に足音が近づいてきた。


「何か面白い話でもしているのかな?私もまぜてくれるとうれしいな」


私は聞きなれた声にはっとして、急いで涙を拭いた。


「秘書官、お疲れ様です!」


私は立ち上がり、一礼した。


そこに立っていたのは、私が二年前から仕えている秘書官。公爵家のマティアス様だった。


年は私より3歳年下。18歳で王立学校を首席で卒業し、王族の秘書官として活躍している。


彼の事は入った頃から知っていて、見かけると目で追っていた。


金色でサラサラ髪の毛が美しく、文官なのに騎士団で稽古も怠らず、体も鍛え抜かれている。


スカイブルーの瞳の色は目が合ったものを虜にしていく。


フェイスラインも彫刻の様で、すべてのパーツが完璧だった。


男女問わず、皆彼に見とれてしまう。

 

私もすっかりマティアス様の虜になっていた。


辛い生活の中のオアシスといったところだ。


そんな彼の部下になる日が来るとは……。


私は二年たった今でも、目を合わすことができない。いい年をした行き遅れが、恥ずかしい限りだ。


彼への憧れや恋心は、部下になった日に宝箱にいれてカギをしめ、心の奥底に沈めた。


誰にも気づかれてはいけないから。


だから、仕事以外はなるべく避けるようにしている。そんな憧れの彼が今近くにいる。


私は仕事モードの仮面をかぶる。


「秘書官、何か不備でもありましたでしょうか……?一応休憩の許可は先輩に頂いております」


マティアス様は美しく微笑んだ。


 「仕事のことではないよ。ただ、通りかかったら2人の楽しそうな声が聞こえたから」

 

 「それで、何を話していたんですか?」


マティアス様がターラさんに尋ねた。


 「マティアス様もなんとか言ってやって下さいよ。この子ったら、結婚はあきらめるなんて言うんですよ?誰か良い人紹介して頂けませんか?」


私はたまらず、ターラさんの腕を引いた。

 

 「タ、ターラさん!秘書官に失礼ですよ!」

 

 「秘書官……、忘れてください!それに、私は仕事に人生をささげる覚悟ですから!」

 

「……そう」


マティアス様は含みを持たせた笑みを浮かべた。なんだか、少し怒ってる?? 不真面目だと思われたかな……。


 「ターラさん、私にも何か食べるものあるかな?」


 「はいよ!今作るから待っていてくださいな」


ターラさんは急いで調理場に向かった。その後姿を、私たちは見つめ、見えなくなった所で目が合った。


そして、マティアス様が歩み寄ってきた。


一歩二歩と私たちの距離は近づき、私はその美しい瞳に囚われてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ