第9話 参上! 氷華の舞姫
冒険者ギルドに到着した俺は、足早に受付へ向かった。
「こんにちは。ロゼッタさん、訓練場を使いたいのですが、空いていますか?」
「空いていますけど――ランバートさんとの模擬戦は控えてくださいね」
「大丈夫。今日は魔法の訓練だから」
軽く答えて、ギルド地下の訓練場へ向かう。
魔法専用の訓練部屋を探し、人気の少ない最奥の部屋へ足を進めた。
「この前は目立ちすぎたし、今日は一番奥でやるか」
部屋に誰もいないのを確認してから、ドアの札を『使用中』に裏返し、入室する。
内部には薄い膜のような光のベールが訓練場全体に広がっており、奥には的が整然と並んでいた。
「この膜……魔法防護壁か」
(マスター、その通りです。本に記載されていました)
ステラの声が脳内に響く。
「なるほど。よし、魔法の練習開始だな。ステラ、サポートを頼む」
(了解しました。マスターの意識にリンクし、魔法関連データをダウンロードします)
「魔法は……魔素をイメージで具現化して発動するのか」
(その通りです。マスターはVRゲーム経験でイメージ形成も得意です)
「まあな。ただイメージだけじゃなく、科学的な構造を加えた方が安定しそうだ。《ファイアボール》なら――空気中の酸素と水素、それに魔素を圧縮して高温にすれば発火……そんな理屈でいけるか」
(面白いですね。マスターの演算能力なら実現可能です。『高速演算』『並列演算』で無詠唱・複数同時発動も対応できます)
「じゃあ……やってみるか」
意識を集中し、魔素を掴むイメージを形成。
手のひらに、赤く光る球体が生まれた。
「いけっ、《ファイアボール》!」
――ドンッ!
火球は飛び出したものの、途中で失速し、的に届く前に爆ぜた。
「うーん、放出が弱いな」
(魔素圧縮は成功。しかし温度と圧力が不足していました)
「よし、もっと圧をかけて――《ファイアボール》!」
――ドゴォンッ!
今度の火球は一直線に飛び、的へ激突。
爆炎が舞い上がり、熱気が防護壁に叩きつけられる。
「いい感じだな」
(威力は十分ですが、さらに効率化が可能です。解析結果をダウンロードします)
「ありがとう……ふむ、燃焼素材と圧力のバランスか。じゃあ次は――」
「《ファイアボール》!」
――ドガァーンッ!!
先ほどよりもはるかに巨大な火球が唸りを上げて飛ぶ。
衝撃で的が揺れ、防護壁が重々しい音を響かせた。
「ちょっとやりすぎたか?」
(はい。威力は十分すぎます。ただ魔素の消費効率が荒いですね)
「この世界の魔法、他にはどんな属性がある?」
(火・氷・風・土・雷・水・光・闇の八属性です)
「なら、基本は応用できるな」
そこからは連続で魔法を試していく。
氷の槍が床を凍らせ、風刃が空気を裂き、土砲が鈍い衝撃を響かせる。
雷撃は閃光を走らせ、水弾は高速で飛び散り、光と闇は相反する力を叩きつけた。
さらに、回復魔法《メガ・ヒール》まで習得を確認。
「はぁ……はぁ……。途中で休憩したけど、魔素が尽きかけたな……」
(それでもマスターの魔素回復速度は平均より高いです。『自動再生』が働いていますから)
「そうか……それでもキツいな」
ふと小窓を見ると、外に人だかりができていた。
ざわつく声が聞こえてくる。
「おい、あいつ、ずっと魔法使ってるぞ。何者だ?」
「ランバートさんとやり合った新人じゃないか?」
「パーティー未所属らしいぜ。狙い目だな」
(マスター、目立ちすぎましたね)
「うん、調子に乗った」
(撤退を推奨します)
片付けをし、使用中の札を外そうとした、その瞬間――。
「ちょっと、いいかな」
振り向くと、一人の女性が立っていた。
銀髪に涼やかな瞳、整った顔立ち。だが何より、その瞳は鋭くまっすぐ俺を射抜いてくる。
「見ていたけど、君、とっても筋がいいわね」
「そ、そうですか?」
彼女は俺の手を取って言う。
興奮気味の顔は、どこか無邪気さすらあった。
「私はセリーナ。君、その若さであれだけ魔法を連発できるなんてすごいわ。ほとんど休憩なしで……ランクは、そうね。Cランクの上ってところかしら?」
「いや、まだDランクで……」
「えっ!? 冗談でしょ?」
プレートを見せると、セリーナの目が大きく見開かれた。
「本当にDランク……君、一体何者なの?」
沈黙の後、彼女の目が何かを思い出したように輝く。
「もしかして……名のある魔導士や賢者様の弟子だったり?」
「いやいや、そんな立派な師匠がいるなら自主訓練なんてしてないよ」
「ふふ、それもそうね。でも――君、面白いわ。ねぇ、私と模擬戦してみない?」
(ステラ、どう思う?)
(彼女から強い魔素の波動を検知。Bランク以上の実力者、力試しに最適です)
「ぜひ、お願いしたい。俺はテルト。よろしく」
「テルトくんね、よろしく!」
握手を交わした瞬間、外でざわめきが上がる。
「おい、あれ……『氷華の舞姫』じゃないか?」
「あいつ、大丈夫か……?」
『氷華の舞姫』。
その異名が耳に届いた瞬間、背筋にひやりと冷たいものが走った。
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氷華の舞姫との魔法対決! 追い詰められたテルトは……
よろしければ次話もお楽しみください。




