第8話 赤熱の鋼亭と火精鋼の刀
翌朝。
女将の作る絶品の朝食で腹を満たしたあと、装備を整え、紹介された武器防具屋へと向かう。
――ここが『赤熱の鋼亭』か。
看板には、赤く焼けた鉄槌と炎の紋章。
焼き焦げたような文字は重厚な質感を帯び、店構えからは職人の矜持と“一見さんお断り”の圧がひしひしと伝わってくる。
扉を押し開けると、むっと熱気が迫った。
溶鉱炉の余熱がまだ残っているのか、店内には鉄と油の匂いが漂い、壁にはぎっしりと武器と防具。
奥の棚には、装飾が施された高級武具が鎮座していた。
「店主、武器を見ていいか?」
カウンターの奥にいたドワーフの男が、ぶっきらぼうに頷く。
無愛想だが、その目は熟練の鍛冶士の鋭さを宿していた。
(ステラ、どの武器がいいと思う?)
(マスターの性格と戦闘傾向から判断し、刀が最適です。MMORPG時代の行動データと、書庫室にあった戦術書から過去の戦闘パターンを解析しました)
(相変わらず抜かりないな。俺も刀がいいと思っていた。刀には漢のロマンが詰まっているからな――探してくれ)
(了解しました。五感にリンクします――ありました。左奥です)
ステラの誘導に従い、店内の一角へ向かうと、壺の中や壁の棚に数本の刀がひっそりと置かれていた。
この世界では珍しい武器らしく、扱いに迷った結果“とりあえずしまった”感が否めない。
(ステラ、“鑑定”を使うから支援を)
(はい、解析モードに移行します)
「ご主人、この刀を鞘から抜いて、刀身を見てもいいか?」
ドワーフは無言で頷いた。
俺は布を取り出し、息がかからないように注意しながら一本ずつ刀身を確かめていく。
冷たい光が刀身を走り、刃紋がゆらりと揺れた。
(解析完了。壺の中にあったこの刀が良品です。火精鋼製――魔鉄に火属性魔石を融合させた高耐熱金属。技術も仕上げも極めて高品質)
(火精鋼……!)
胸が高鳴るのを抑えつつ、俺は刀を手に取って店主の前へ差し出した。
「ご主人、この刀はいくらだ?」
ドワーフは俺の顔をまじまじと見つめ、それから視線をゆっくりと全身へ移した。
「ふむ。その防具……確かクリフトに渡したはずだが、なぜお前さんが持っている?」
「ギルドでいろいろあってな。クリフトさんから譲ってもらった」
「そうか。まあいい。この防具、お前さんにはまだ馴染んでいないようだ。あとで調整してやろう」
「それは助かる」
恐縮する俺を見て、店主はさらに目を細めた。
「ところで、なぜこの店を選んだ?」
「『森の木漏れ日』の女将さんに武器を買いたいと言ったら、ここを紹介された」
「ジョナサンか。なら良い。……だが、なぜその刀を選んだ? 片手剣、両手剣、斧、槍といろいろあるだろう」
「ああ。俺は刀が欲しくてな」
その言葉で、ドワーフの表情が変わった。
驚きと、わずかな興味。それが入り混じる。
「ほう……刀を知っている者がいたとは。それに、刀身に息がかからないように扱っていたな。扱い方にも慣れているようだ。なぜだ?」
(ステラ、まずい。異世界人だってバレたら……)
(任せてください。意識にリンクして最適回答をダウンロードします)
「親父が使っていたんだ。森で暮らしてたが、出稼ぎのときはいつも刀だった。だから少し知識がある」
「――なるほどな」
少しの間、ドワーフは考え込んだが――やがて頷いた。
(マスター、ごまかし成功です)
(助かった)
「それで、その刀を選んだ理由は?」
「波紋が綺麗だった。それに、他の刀と素材が違う。これは火精鋼だろ? 精鉄や魔鉄じゃない。壺に放り込まれてたけど、手触りと重みでわかった」
ドワーフの顔が一気に破顔する。
「はっはっは! いいぞ、その目。鑑定スキル持ちかと思ったが、それだけじゃないな。目利きも確かだ。波紋の美しさまで言うとは、ますます気に入った! わしは鍛冶士のバイセンだ!」
「俺はテルト。よろしく」
がっしりとした手と握手を交わすと、鍛冶屋らしい熱のこもった力が伝わってきた。
「その刀はな、わしが師匠の技を受け継いで打った一振りだ。完璧ではないが、自信作だ。しかし――価値がわかる者がいなかった」
「そうだったのか……」
「よし決めた! 刀も防具の調整も、今日は全部無料でやってやる。その代わり、今後なにか必要になったら素材を持ってこい。わしが作ってやる!」
「本当にいいのか?」
「ああ、当然だ。わしは職人だ。惚れ込んだ相手には全力を尽くす。それから――その刀に魔素を流してみろ。面白いことが起こるぞ」
「面白いこと?」
「まあ、魔素制御が難しいだろうが……やってみろ」
バイセンにすっかり気に入られ、刀と防具の調整を受けた俺は、すっかり気分を高揚させながら冒険者ギルドへ向かう。
魔素という言葉に心が弾む。魔法を使える日が近い――
そんな予感が、胸の奥で確かな熱を生み始めていた。
火精鋼の刀が、その予感を静かに震わせる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
いい武器が手に入ったぞ。次は魔法だ。
よろしければ次話もお楽しみください。




