最終話 そして、物語は未来へ
翌日――王宮から通知が届いた。
「事態が収束したため、陛下との謁見を行う」
そう簡潔に記されていた。
胸の奥にわずかな緊張を抱えながら、俺たちは荘厳な扉を押し開き、謁見の間へと足を踏み入れる。
昨日の審議に参加していた貴族たち、そして王国騎士団がずらりと並び、その視線が一斉にこちらへ向けられた。
空気は重い。
張り詰めた沈黙が、胸を圧迫するほどだ。
玉座に座る陛下は、ゆっくりと息を吐き、威厳を湛えた口調で宣言を始めた。
「この度の一件、皆も知る通り――カナンベール公爵による謀反である。また、ワグナート家襲撃事件の首謀者であることも判明した。王族からこのような者を出したこと、誠に遺憾である」
その声には、怒りでも悲しみでもない。
もっと深い、自責と覚悟が滲んでいた。
「ゆえに我は、王族を戒めとし、二度とこのような事態が起きぬよう――この国を変革することを、ここに宣言する」
静まり返った謁見の間に、その言葉が重く響き渡る。
続いて読み上げられた“変革条項”。
王族と貴族の権限は削がれ、領民の地位向上が明確に掲げられる。
多くの貴族がざわめき、恐れ、あるいは憤りの色を浮かべた。
だが――陛下が鋭い眼光で一喝した。
「従わぬ者あらば、王族であろうと罰する」
その一言で、場の空気が凍りつく。
――本気だ。
この国を変える覚悟を、陛下は本当に決めたのだ。
やがて陛下は玉座を降り、静かに歩みを進め、ロゼッタの前で立ち止まった。
「ロゼッタ譲。王家……いや、我が弟が起こしたこの一件、誠に申し訳なかった」
その瞬間――王が、深く頭を下げた。
謁見の間に、言葉を失うほどの衝撃が走る。
驚愕の視線が、一斉に突き刺さった。
ロゼッタは戸惑いと痛みを滲ませながら、かすかに震える声で応じる。
「陛下……どうかお顔をお上げください。ロゼッタは、陛下のお悲しみをよくわかっております。だからこそ、平民である私に頭を下げては……なりません」
「よいのだ」
陛下は柔らかく、しかし揺るぎない声で答えた。
「先ほど我が宣言した変革を、自ら示したまで。我が変わらずして、誰が後に続いて変わるというのだ」
その言葉に、ロゼッタは深く息を飲み、胸に手を当てて頭を垂れた。
「……陛下のご厚意、確かに承りました」
陛下は静かに玉座へと戻り、声を張り上げる。
「皆の者、よく聞け!この一件、我が変革の意思と共に、領民へ発表する!」
貴族たちは膝をつき、声を揃えた。
「陛下の仰せのままに!」
その声を聞きながら、俺は感じていた。
ひとつの時代が終わり、新たな時代が始まったのだと。
やがて陛下は、俺とロゼッタに視線を向ける。
「この度の功労者である冒険者テルトに褒美を与える。其方がロゼッタ譲と婚姻を結ぶと聞いておる。
これに我も出席し、祝福を与えよう。また、ワグナート家再建のため、テルトをワグナート家の養子とし、王国厩舎の運営を任せる。よって――侯爵位を授ける」
謁見の間が、どよめきに包まれた。
意識が一瞬、白くなるほどの衝撃だった。
「冒険者テルト、よいな?」
陛下の声で、俺は我に返る。
「恐れながら申し上げます」
「うむ、申してみよ」
深く息を吸い、俺ははっきりと告げた。
「条件がございます。私はSランク冒険者であり、先日クランを創設しました。 ――ゆえに、兼業であればお受けいたします」
ロゼッタ、そして仲間たちの方を見る。
全員が、迷いのない眼差しでうなずいてくれた。
胸の奥が、熱くなった。
陛下はその様子を見て、わずかに微笑む。
「良き仲間を得たようだな。その申し出、受け入れよう」
謁見を終え、王宮の回廊を歩く。
高い天井から差し込む光が、やけに眩しく感じられた。
「……終わったな」
思わず、そう呟く。
(マスター)
ステラの声が、静かに意識に響いた。
(長い旅でしたね。数多の戦い、選択、犠牲……すべてが、ここへ繋がっています)
(ああ。正直、少し肩の力が抜けた)
(それは正常です。マスターは、背負うべきものを背負い、守るべきものを守りました)
俺は足を止め、窓の外に広がる王都を見下ろす。
人々が行き交い、いつも通りの生活を送っている。
(なぁ、ステラ」
(はい、マスター)
(もし、あの時……俺が関わらなければ、この国はどうなっていたと思う?)
一瞬の沈黙。
(――計算結果をお伝えします)
その声は、いつになく静かだった。
(ワグナート家の真実は闇に葬られ、カナンベール公爵は権力を拡大。やがて王権は腐敗し、この国は内側から崩壊していた可能性が高いです)
(……そうか)
(ですが)
ステラは続けた。
(マスターは選びました。逃げず、見捨てず、手を伸ばすことを)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
(それなら――後悔はないな)
(はい。ステラも、誇りに思います)
少し照れたような声音だった。
俺は空を仰ぐ。
高く、どこまでも澄んだ青空。
(これで終わり……いや、始まりか」
(物語が終わるのではありません)
ステラが、はっきりと言った。
(これは、“テルトという男が選び続けた物語”の一区切りです)
俺は笑った。
(なら、次の物語も――一緒に来てくれるか?)
(当然です、マスター)
(ステラは、あなたの相棒ですから)
(ああ、共に行こう!)
(はい、マスター。全てはステラにお任せを!)
こうして――
ロゼッタの両親の無念は晴れ、ワグナート家は再建され、王国は新たな一歩を踏み出した。
そして俺は――
仲間と共に、愛する人と共に、未来へ歩き出す。
剣を携え、意志を胸に。
この世界で生きると、そう決めたのだから。
至らぬ点ばかりの拙作でしたが、最後まで読んでくださり感謝いたします。
次回作に繋げられるよう、これからも精進して参ります。
ありがとうございました。




