第60話 暴かれる真実
「我は残念だ。まさかカナンベール公爵が不正に手を染めていたとは……。それ以上に、ワグナート家の襲撃に関わっていたとは許し難い!」
陛下の言葉に、カナンベール公爵が声を張り上げて反論する。
「恐れながら申し上げます。襲撃の件に、私は一切関与しておりません。確かに収支に不正はございましたが、それは王国財政を考慮し、不測の事態に備えたもの。それに、コカトリスを要求したのはノックス侯爵ご本人からの依頼です」
「依頼だと? 何故、そのような判断をした」
「ノックス侯爵は万一に備え、キャンプ地へコカトリスを向かわせてほしいと申されました。その命を受け、従魔使いのキグナスが動いたのです。加えて、賊に襲撃を依頼した事実もございません」
陛下は審議官へ視線を向ける。
「審議官。カナンベール公爵の言葉は誠か」
審議官の眼が淡く光り、公爵を見据える。
「陛下。虚偽は見受けられません」
「……ならば、誰がコカトリスを使い、ワグナート家を襲撃したのだ」
陛下の問いに、審議室はざわめき、誰も答えられずにいた。
「恐れながら申し上げます」
陛下がゆっくりとうなずく。
「うむ、テルトよ。申してみよ」
「はい。では――今一度、《記憶の旋律》による映像をご覧ください」
空中に映像が浮かび上がり、審議室中の視線が一点に集まる。
「注目していただきたいのは、ここです。コカトリスの瞳」
俺は魔素を流し込み、映像を拡大した。
次の瞬間、審議室にどよめきが走る。
「こ、これは……! 映っているのは、カナンベール公爵ではないか!」
「その通りです。瞳に映っているのは、紛れもなく公爵本人。つまり、公爵はキャンプ地にいた。そして――賊に直接依頼したのは別人。ですが、襲撃を指示したのはカナンベール公爵です」
陛下の声が鋭く響く。
「テルトの言葉は誠か。カナンベール公爵、答えよ」
公爵は一瞬沈黙し、やがて低く笑い出した。
「フハハハ……まさか、ここまで追い詰められるとはな。まぁいい。時期が早まっただけのこと」
「カナンベール公爵。ここは陛下の御前だ。無礼が過ぎるぞ」
「どうでもよい。……おい!」
公爵が合図すると、奥の扉が開き、複数のコカトリスが姿を現した。
歪んだ笑みを浮かべ、公爵は陛下へ向き直る。
「言うことを聞かぬ兄上が悪いのですぞ。貴族、それも王族であれば、もっと優雅に、もっと贅沢してよい。それを兄上は拒み続けた」
「当然だ。我が政を行えるのも、領民が血税を納めてくれるからだ。其方には、それが理解できぬのだな」
「フッ……水掛け論だ。もう終わりにしよう。ワグナート家の復活を企む者たちが、かつて従事していたコカトリスを使い、陛下を殺害した――そして私がそれを鎮圧した。そんな筋書きで十分だろう」
「早まるな、カナンベール!」
「黙れ。……さぁ、やれ!」
合図とともに、コカトリスたちが邪眼の準備を始める。
貴族たちは恐慌状態となり出口へ殺到するが――
扉が開いた瞬間、さらにコカトリスの群れが立ちはだかった。
「キュエェェェ!」
邪眼が放たれ、出口付近の貴族たちは次々と硬直し、倒れていく。
「さすがは邪眼……次は、お前たちだ」
後方のコカトリスが鳴き声を上げようとした、その瞬間――
「させるか!――《龍の咆哮》!」
「グオォォォォーーー!!」
咆哮が審議室を揺らし、コカトリスたちは凍りついたように動きを止めた。
互いに顔を見合わせ――次の瞬間、揃って俺へ頭を垂れた。
「な、何をしている! 早く邪眼を使え!」
従魔使いたちが叫ぶが、コカトリスは一切動かない。
セリーナが静かに告げる。
「無駄よ。コカトリスはAランク魔獣の中でも特に賢い。《龍の咆哮》はファイアドラゴンと同格。勝てないと悟った相手には、服従を選ぶの」
「黙れ!なら、これでどうだ!」
公爵は短刀を抜き、目の前のコカトリスの胸に突き立てた。
「ギュエェェェ――!」
魔獣は痙攣し、やがて崩れ落ちる。
「フハハ! この短剣には従魔の契りを歪める呪いが込められている! さぁ、生きたければ邪眼を使え!」
ひときわ大きなコカトリスが、公爵を静かに見据える。
仲間たちへ、わずかに視線を送った。
次の瞬間――邪眼が、公爵へ向けて放たれた。
「な……っ!?」
カナンベール公爵は一瞬で石と化す。
「クェェェェーー!」
コカトリスたちは雄叫びを上げ、残る従者たちへ視線を向ける。
「待て! これ以上、血を重ねる必要はない!」
俺の言葉に、コカトリスたちは再び頭を垂れ、動きを止めた。
従者たちは剣を落とし、床へ伏す。
その時、扉が勢いよく開いた。
「陛下はご無事か!」
王国騎士団隊長ドルガンが飛び込んでくる。
「ドルガンよ。もう終わった」
陛下の言葉に、ドルガンは周囲を見回し、
石化したカナンベールを見て目を見開いた。
「陛下……これは……」
「公爵の件は後だ。倒れている貴族と、賊をすべて拘束し連行せよ」
「はっ! ……全員、取り掛かれ!」
王国騎士団が一斉に動き出し、
審議室を覆っていた混乱は、ついに収束へ向かった。
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