第6話 診療室での再会と、予期せぬ昇格
気がつくと、柔らかな布の感触に包まれていた。
視界に映るのは白い天井。どうやらベッドに寝かされているらしい。ここは……診療室か。
上体を起こそうとした瞬間、全身を鈍痛が駆け抜けた。特に左腕は、鋭く裂かれるような痛みが走る。
(マスター、意識が戻られましたね。無理に動かないでください。左腕、骨折しています)
ステラの落ち着いた声が頭の中に響き、状況が一気に現実味を帯びた。
その時、扉が静かに開き、ローブ姿の女性が入ってきた。
柔らかい目をした、聖職者のような雰囲気だ。
「気づかれたようですね。すぐに回復魔法をかけますので、安心してください」
促されるままに力を抜き、横になる。
「癒しの光よ、深き傷を包みたまえ――《メガ・ヒール》」
手元から放たれた光が、温泉のようにじんわりと身体を包み込む。
骨を締め付けていた痛みがほどけ、筋肉の悲鳴すら静かに消えていく。
数秒のうちに、左腕の激痛もまるで幻だったかのようだ。
「はい、治療は完了です。お大事にね」
「ありがとう」
彼女はにこりと微笑み、診療室を後にした。
残された静寂の中、そっと腕を動かしてみる。痛みはまったくない。
本当に、完全に治っていた。
(回復魔法ってすごい……まじで習得したい)
(了解しました。先ほどの《メガ・ヒール》の解析を開始します)
ステラが淡々と答えるが、その声がなんだか頼もしい。
診療室を出ると、向かいの部屋の扉が開いており、中にはランバートとロゼッタがいた。
俺を見るなり、ロゼッタが鋭い目を向け、手招きする。
「テルトさん、ちょうどよかった。こちらへどうぞ」
言われるまま席につくと、真正面のランバートは冷や汗を浮かべ、妙に居心地悪そうにしている。
ただならぬ空気を察した瞬間、ロゼッタが怒りを爆発させた。
「あなたね……いったい何度同じ注意を受ければ気が済むんですか!」
ランバートは歯を食いしばり、反論もせずうつむいている。
その姿に、彼女の怒気はさらに加速した。
「いいですか? あなたは元Bランクの冒険者。対してテルトさんは討伐経験もない初心者なんです!
その初心者相手に戦技を使うなんて、正気の沙汰ではありません! 納得のいく説明をしてください!」
(ロゼッタさん、怒るとマジで怖い……)
(マスター、ここは静観一択です)
ランバートはしぶしぶ口を開いた。
「そ、それが……テルトが明らかに異常だったんだ。今日初めて剣を握ったって言っていたのに、俺の真空斬をかわし、同じ技で反撃してきた……その……面白くなってしまってだな」
「“面白くなった”で済ませないでください! 初心者がBランク相当の《重破斬》を受けたら、死ぬこともあるんですよ! 万が一のことがあったらどうするつもりだったんですか!」
「い、いや……それは……」
ランバートが言葉を詰まらせたその時、部屋の入口から静かな声が響いた。
「その辺で許してやってくれ。ランバートも悪気があったわけじゃない」
入ってきたのは、長い耳を持つエルフの男性――気品と威厳を兼ね備えた人物だ。
「……わかりました。ギルドマスターのクリフトさんがそうおっしゃるなら」
ロゼッタは不満げにしながらも、徐々に怒気を収めていく。
クリフトと名乗った男性は、落ち着いた微笑を向けて俺に頭を下げた。
「テルトさん。私は冒険者ギルドのギルドマスター、クリフト。このたびは本当に申し訳なかった。ギルドを代表して謝罪する」
「クリフトさん、そこまで気にしなくても。怪我も回復魔法で治りましたし、大丈夫です」
クリフトはしばし考え、そして真摯な目で言葉を続けた。
「……そう言ってくれると助かる。君は礼儀正しいな。二十五歳とは思えないほど落ち着いている。長年ギルドマスターをしているが、君のような若者は珍しい」
(いや、中身五十五歳だし……)
(マスター、絶対に言ってはいけません)
「いえ、そんな……」
「ははは、謙遜もできるか。気に入った。謝罪の証として、ギルドから防具一式を支給しよう。
そして――私の権限で君をDランクに認定する」
「えっ……!」
ロゼッタが思わず声をあげる。
「テルトさん、すごいですよ! 本来ならFランクから始まるんです。いきなり二段階も昇格なんて!」
「そうなのか……なんか申し訳ないな」
「ははっ、相変わらず謙虚だな。遠慮はいらない。受け取ってくれ」
「……わかった」
クリフトは満足そうに頷き、ランバートへ視線を移す。
「ランバート、あとで私の部屋へ来い」
「……了解しました」
ああ……ランバート、ご愁傷様だ。
あれは絶対、長い説教コースだ。
受付に戻ると、ロゼッタが防具一式を丁寧に手渡してくれた。
「こちらがDランク登録の証と、防具になります。どうぞ」
防具を装備してみると、身体に吸い付くようにフィットする。
「とても似合っていますよ。その防具は動きやすくて、それでいて防御力も高いです。胸当てにはミスリル合金も使われています」
(ステラ、ミスリルだ――ほんとにゲームみたいだな)
(ミスリル合金は軽量・高防御・魔法耐性あり。品質はBランク相当です)
(……すごいものをもらったな)
(はい、非常に幸運です)
「ところで、宿屋を紹介してもらえますか?」
「それなら『森の木漏れ日』がいいですよ。治安もよく、食事が美味しくて利用者の評判も高いです」
「ありがとう。さっそく行ってみるよ」
ロゼッタに礼を言い、俺は教えられた宿へと向かった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
棚から牡丹餅的に防具をゲット。でも、武器はどうなるのか?
よろしければ次話もお楽しみください。




