表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/61

第57話 カナンベール家の野望

 クランの館へと、俺は急ぎ足で戻った。


 扉を開けた瞬間、ロゼッタがはっとしたように立ち上がる。

 その瞳は、安堵と不安が入り混じったように、かすかに潤んでいた。


「テルトさん……無事に、戻ってきたのね」


「ああ。少し潮まみれにはなったけどな」


 俺が軽く笑うと、ロゼッタは胸を撫で下ろし、ほっと息を吐いた。

 その様子を見ていたダニエルとバックスが、無言で頷き合い、俺を部屋へと案内する。


「さぁ、詳しく聞かせてもらおうか」


 テーブルを囲んで腰を下ろし、それぞれの報告を交わすことになった。


「まずはバックス。貴族関係の方はどうだった?」


「ああ……どうにもきな臭い」


 バックスは低く息を吐き、続ける。


「調べたところ、王都の厩舎の管理がカナンベール家に移ってから、予算が倍増していた。それに、事件の直後、コカトリスを二体“処分”している」


「処分、だと?」


「コカトリスは貴重種だぞ? 普通なら処分なんてできない。……つまり、証拠隠滅だ」


「なるほどな」


 俺は腕を組み、静かに頷く。


「金の流れを辿れば、不正の証も掴めそうだな。だが――気づかれないよう、慎重に頼む」


「了解だ」


 次に視線を向ける。


「ダニエルの方は?」


「鍛錬中だ」


 ダニエルは短く答え、口角をわずかに上げる。


「セリーナたちが見てる新人パーティー、なかなか筋がいい。俺たちの呼吸法を取り入れてるからな。力の伸びが早い」


 その言葉に、バックスがうんと頷いた。


「確かに、あの呼吸法はすげぇ。身体の芯から魔素の巡りが良くなる。……まあ、毎日の鍛錬あってこそだがな」


 一瞬、部屋に穏やかな空気が流れた。

 だが――ロゼッタの表情が、きゅっと引き締まる。


「それで、テルトさん……。“記憶の旋律”は……?」


「ああ」


 俺は懐に手を入れ、蒼く淡い光を放つ宝珠を取り出した。


「手に入れた」


 その瞬間、部屋の空気が一変する。

 誰もが息を呑み、宝珠に視線を釘付けにした。


「これで――ワグナート家に起きた真実がわかる」


 ロゼッタは小さく息を呑み、宝珠を見つめる。


「ネクロスさん……この宝珠に、あの日の出来事を思い浮かべてください」


 ネクロスは静かに頷き、“記憶の旋律”を掲げた。


 淡い光がゆっくりと脈打ち、部屋の壁に、幻のような映像が浮かび上がる。


 蒼い光が室内を満たし、空気が震える。

 かすかな旋律のような音が響き、光が波紋のように揺らめいた。


 ――森の中。

 止まった馬車から、数人の人影が降り立つ。


 頭巾で顔を隠した男たち。

 そして、その傍らには――コカトリス。


 焚き火のそばにいる男女と、それを護る騎士たち。

 黒衣の男たちはしばらく様子を窺い、やがて合図を出す。


 一斉に、襲撃。


「あれは……お父様、お母様! 逃げて!」


 ロゼッタの悲痛な叫びが部屋に響く。

 だが、映像の中の二人は――すでに動けなかった。


 石化。


 コカトリスの邪眼を浴び、護衛たちが次々と倒れていく。

 黒衣の男たちは無言で炎を放ち、馬車が激しく燃え上がった。


「そ……そんな……」


 ロゼッタが唇を押さえ、声を震わせる。


 炎の中、コカトリスの首に刻まれた紋章が、はっきりと浮かび上がる。


 ――カナンベール家の紋章。


「やはり……!」


 バックスが拳を強く握りしめ、歯噛みする。


 ロゼッタは耐えきれず、膝をついた。

 俺はそっと、彼女の肩に手を置く。


「お父様……」


 光の中で、父親が最後に振り返る。

 その視線は、まるで時を越えて、ロゼッタ自身を見つめているかのようだった。


 そして――光が、ふっと消えた。


 静寂だけが残る。


 誰も言葉を発せず、ただその余韻の中に立ち尽くす。


 やがて、ロゼッタは震える指で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。


「これが……私の家が滅んだ夜の真実……。カナンベール家が、関わっていたなんて……」


 俺は静かに頷き、心の中で告げる。


(ステラ、映像データの解析を頼む)


(マスター。既にデータを蓄積済みです。現在、解析に着手しています)


(……流石だな)


「これで――カナンベール家のコカトリスが、事件に関わっていたことははっきりした。だが……誰の指示で動いていたのか、そこがまだ見えないな」


 俺がそう口にすると、テレロナが腕を組み、意味ありげに口の端を上げた。


「蛇の道は蛇、ってやつさ。あたいの情報網で洗ってみるよ。……テルト、ギルド口座からいくらか拝借するけど、いい?」


「構わない。確かな証拠が掴めるなら、安いもんだ」


「了解。それじゃ、さっそく動くわ」


 そう言い残し、テレロナは数名の使用人を連れて部屋を出ていった。


 静けさが戻る。

 だが、その分だけ空気は張りつめていた。


 誰もが、真実の核心がすぐそこまで迫っていることを感じていた。


 数時間後。


 屋敷の扉がノックされ、セリーナたちが戻ってくる。


「テルトくん、お待たせ。王都でいくつか情報を掴んできたわ。……これを見て」


 セリーナはそう言って、テーブルの上に分厚い書類の束を広げた。

 インクの匂いが、まだ新しい。


「これは、王都の厩舎で管理されている馬や魔獣の記録よ。ここ――見て。コカトリスが“王都を出た日”と、“処分された日”が記載されているわ」


 俺は書類を手に取り、素早く目を走らせる。

 そこに記された日付は、あの事件の日と完全に一致していた。


「それだけじゃないわ」


 セリーナは別の書類を指で叩く。


「予算と支出の明細よ。カナンベール家に管理が移ってから支出が倍増して……今では三倍以上。どう考えても、不自然よ」


「セリーナ、よくやった」


 俺ははっきりと頷く。


「これで、動機の裏が取れたな」


 その言葉に、セリーナは張りつめていた表情を緩め、ほっとしたように微笑んだ。


 その時、バックスとダニエルがさらに別の書類束を抱えて部屋に入ってくる。


「テルト、こっちもだ」


 バックスは机に書類を置き、低い声で続けた。


「近衛兵の警備記録を手に入れた。事件があった日の欄に、“カナンベール公爵、王都を離れる”って記載がある」


 俺は思わず息をのむ。


「……いいぞ、バックス」


 拳を握り、確信を込めて言い切った。


「これで――カナンベール公爵の“偽りのアリバイ”が崩れた」


 その瞬間、部屋の空気が一変する。

 張りつめていた緊張が、熱を帯びた確信へと変わった。


 誰もが感じていた。


 ようやく、真実の輪郭が、はっきりと姿を現し始めたのだ。



もし少しでも楽しんでいただけたら、リアクションや★、ブックマークで

応援してもらえると励みになります。


皆さんの反応が、次話を書く原動力です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ