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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第55話 ワグナート家の真実

 

 その時は突然訪れた。


 使用人が慌てて扉を開け放つ。


「テルトさん、大変です。門の前に人が倒れています!」


 俺とロゼッタは顔を見合わせ、急いで駆け寄った。


 倒れていたのは、身なりの良くない老人だった。

 右腕がなく、顔には火傷の跡。衣服はぼろぼろで、今にも息絶えそうだ。


「ロゼッタ、行き倒れかもしれない。急いで運ぶぞ。ダニエルさんたちを呼んできてくれ」


 老人を部屋に運び、料理人に温かいスープを用意させる。


「ロゼッタ、下がって。《ギガ・ヒール》」


 魔力が淡く光り、老人の身体に広がっていく。

 頬に赤みが戻り、微かに息が整った。


 やがて、老人はゆっくりと目を開け――ロゼッタを見て、掠れた声を漏らす。


「お嬢様……やっと会えました。爺は……うれしゅうございます」


 ロゼッタは息を呑み、顔を見つめた。


「そ、そんな……ネクロス? ネクロスなの?」


「お嬢様……ネクロスでございます」


 ロゼッタは震える声で俺に向き直る。


「テルトさん、この人は……父上に仕えていたネクロスです」


「お嬢様、大変申し訳ございません。私は……ご家族をお守りすることができませんでした。従者として、失格です」


「そんなことはないわ。貴方は我が家に十分仕えてくれたわ。生きていてくれただけでも、よかった……」


 ネクロスは、わずかに笑みを浮かべてから、ベッドの縁に腰を下ろす。


「お嬢様……私は恥ずかしい。これまで真実を話さず、生きながらえてきました。しかし、最近になって――お嬢様がSランクの冒険者とご結婚されると聞き、真実を隠したままでは、この老いぼれの魂が安らげぬと思いまして……」


 俺は一歩前に出て問う。


「真実とは?」


 ネクロスは、俺をじっと見つめた。


(マスター、ネクロスさんよりスキル《鑑定》による干渉を受けています)


(ああ、わかっている)


 俺は阻害せず、あえて鑑定を受け入れる。


「な、なんと……これほどのお方であるとは――お嬢様、この方は信頼に値します。私の《鑑定》を受ける心の広さ、それに絶大な力を持ちながら控えめな御性格……。この爺や、長く生きておりますが、これほどの人物に会ったのは久しぶりです」


 ロゼッタは静かに頷き、スープを手に取る。


「さぁ、温かいスープを」


 ネクロスはゆっくり立ち上がり、一口、二口と飲み干す。

 やがて食欲が戻ったのか、用意された食事を綺麗に平らげた。


「お嬢様……話がございます」


「爺や、急がなくていいのです。まずは休んで、明日話しましょう」


 ネクロスはロゼッタに支えられながらベッドに横たわると、安堵の表情を浮かべたまま、静かに眠りについた。


 翌朝。


 朝食のために食堂に向かうと、昨日とは見違えるほど精悍なネクロスがそこにいた。

 背筋を伸ばし、立ち居振る舞いに品がある。さすがは侯爵家に仕えていた執事――その一挙手一投足から、長年の気品が滲み出ていた。


「テルト様、おはようございます」


「ネクロスさん、おはようございます。元気になってよかったです」


「これも皆さま方のお陰です。衣服をお借りできたおかげで、ようやく人の姿に戻れました」


 朝食が終わると、ロゼッタが皆を呼び集めた。


「皆さん、集まってくれてありがとう。私はこのクランを“家族”のような存在にしたいと思っています。だから――私の家、ワグナート家に起こった“真実”を、皆にも知ってほしいの」


 静まり返る空間で、ロゼッタがネクロスに合図を送る。


「お嬢様……お話ししましょう。あれは、王都からロンダリアに向かう道中のことです。旦那様を乗せた馬車が魔獣に襲われ、皆が犠牲になった――そう語られていますが、あれは“策略”でした」


 皆が息を呑んだ。


「ワグナート家は、王都の厩舎を預かり、馬や魔獣を育ててきた名家。しかし、それを快く思わない一派がいた。“従魔使い”としての地位を奪うために、旦那様たちは――犠牲にされたのです」


「そ、そんな……」


 ロゼッタの膝が崩れ落ちる。


 俺は静かに問う。


「ネクロスさん、その話は……本当なのですか」


「真実です。私は右腕を失い、顔に火傷を負いながらも、どうにか森へ逃げ込みました。廃れた狩猟小屋で命をつなぎ……ですが、あの光景は今も焼きついて離れません。私たちを襲った魔獣――それは、“コカトリス”でした」


「こ、コカトリスですって?」


 ロゼッタの表情が凍る。


 俺は不思議に思い尋ねた。


「ロゼッタ、なぜそんなに驚く?」


「コカトリスはAランクの魔獣で、まず街道沿いには出てこないの。それに……“コカトリス”といえば王家の血筋を象徴する家紋。つまり――カナンベール家のものよ」


「なっ……!」


 場がざわつく中、バックスが声を上げた。


「ってことは、ワグナート家を襲った賊はカナンベール家の人間……?でも、証拠がなけりゃ、不敬罪で首が飛ぶぞ」


「その通りです。あの場を生き延びたのは、私だけ。そして唯一の証拠は――」


 ネクロスは懐から、古びた認識票を取り出す。


「この紋章です。コカトリスの意匠……カナンベール家のもの」


 ロゼッタがそれを受け取り、見つめた。


「確かに、これはカナンベール家の紋章……でも、これだけじゃ不十分。父上たちを襲った“その時の物”である証拠が必要だわ」


 沈黙が落ちる。皆がどうすれば良いか考え込む。


(ステラ、何か方法はあるか?)


(マスター。禁書庫の記録に“物の記憶を映す魔道具”があるとありました)


(そんなものが……! 手に入るのか?)


(残念ながら市販されていません。**“記憶の旋律”**と呼ばれ、一度使うと失われる希少な魔道具。入手できるのは――ダンジョンのみです)


「“記憶の旋律”……」


 俺が思わず呟くと、テレロナが口を挟んだ。


「あたい、それ聞いたことあるよ。カプリアーナの海底ダンジョン――**“虚潮の回廊”**の最奥にあるって」


「本当か?」


「闇賭博の連中の噂だけどね。でも、手がかりはそれしかない」


「……よし、行ってみよう」


 俺の言葉に、ロゼッタが慌てて立ち上がる。


「待って! “虚潮の回廊”はBランクのダンジョンよ。しかも、パーティーで入るとトラップが発動する……ソロで挑むしかない危険地帯なの」


「それなら、俺にうってつけだ。心配いらない。


 心配なのは、ロゼッタとネクロスさんの方だ」


「……私が万全ならお嬢様を守れたのですが、この体では……」


 ネクロスが目を伏せる。


「それなら、問題ない」


 俺は立ち上がり、右手を掲げた。


「《オメガ・パーフェクトヒール》!」


 神々しい光が広がり、全員を包み込む。


「な、なんと……! 私の右腕が……それに顔の火傷が……!」


 ネクロスは震える手を見つめる。


「まさか……“完全回復魔法”を扱えるとは。王都でも数名の宮廷魔導士しか使えぬ奇跡の術――それを、テルト様が……」


 皆が息を呑む中、テレロナが笑う。


「ははっ、懐かしい光景だね。あたいの腕と顔を治した時と同じだ。いや……あの時より、ずっと余裕があるじゃないか」


「鍛錬は怠ってないからな」


 俺は笑い、仲間を見渡した。


「さあ――それぞれ、できることをやろう」


「おおおっ!」


 クランの仲間たちの声が、朝の光に響き渡った。



もし少しでも楽しんでいただけたら、リアクションや★、ブックマークで

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皆さんの反応が、次話を書く原動力です。

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