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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第54話 新たな決意

 クラン名が決まった翌日、俺たちは冒険者ギルド本部を訪れていた。


 正面玄関をくぐると、いつものざわめきが一瞬だけ静まる。

 視線が集まる中、受付へ向かう。


 ロゼッタが静かに書類を差し出す。


「クラン《無冠の栄光》、正式登録の申請ですね。こちらに代表者の署名をお願いします」


「はい。代表、テルト・アークライトです」


 Sランクになった時、貴族相当の地位を得るために、アークライトの名を名乗った。

 意味は「光弧アークライト」――異界の技術と魔導を併せ持つ者。

 科学と魔法、両方を操る異世界の技師としての決意の印だ。


 俺はペンを取り、署名欄に名を書き込む。

 わずかに手が震える。――責任の重さを、改めて感じた。


 背後でテレロナが小声で囁く。


「いよいよだね、テルト」


 バックスとダニエルも無言でうなずき、セリーナは静かに微笑んでいた。


 ロゼッタが書類を確認し、印章を押す。

 その音が、やけに大きく響く。


「確認完了。クラン《無冠の栄光》、本日をもって正式にギルドへ登録されました」


 その瞬間、胸の奥が熱くなる。

 皆が顔を見合わせ、自然と笑みが広がった。


「……これで、本当に始まったな」


 ロゼッタが少しだけ柔らかく微笑む。


 俺は真剣な顔でロゼッタに向き直る。


「ロゼッタさん、話があります。クリフトさんのところに行きましょう」


 ロゼッタは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにうなずき、俺とともにクリフトの執務室へ向かう。


 部屋に入ると、ロゼッタが告げた。


「クリフトさん、テルトさんからお話があります」


 俺は姿勢を正し、深く頭を下げる。


「クリフトさん、先ほどクランを登録しました。これからもよろしくお願いします」


「おいおい、ずいぶん改まった挨拶だな」


「はい。クランを立ち上げ、覚悟を決めました。俺はSランク冒険者であり、クランの代表として責任を負います。……だからこそ、もう逃げずに伝えたい。俺にロゼッタをください」


 クリフトは一瞬目を見張ったが、すぐにロゼッタを見つめる。


「ロゼッタ。君のご家族が亡くなってから、私は君の親代わりをしてきた。テルトくんのことは認めている。だが――君の気持ちはどうなんだ」


 ロゼッタの瞳が潤み、静かに涙がこぼれた。


「父上や母上を失ってから、私にはもう明るい未来なんてないと思っていました。でも、テルトさんと出会ってから、毎日が変わりました。私は……テルトさんの申し受けを、受けます」


「そうか……幸せになりなさい」


 クリフトはそっとロゼッタを抱きしめる。


「テルトくん、ロゼッタを頼むぞ」


「はい。必ず幸せにします」


 その時、廊下の向こうからドアの隙間がわずかに開いた。


「それから――廊下で聞いている者たちも、頼んだぞ」


 ドアが勢いよく開き、テレロナたちが飛び込んできた。


「やったわね、ロゼッタさん!」

「漢を見せたな、テルト!」


 笑いと祝福の声が部屋いっぱいに広がる。


 テレロナは言う。


「早速、みんなにも知らせなきゃ」


 クラン《無冠の栄光》の始まりとともに、俺とロゼッタの新しい物語も静かに動き出していた。


 ロゼッタはギルドを辞め、正式にクラン《無冠の栄光》の事務・依頼調整担当として加わることになった。

 今はクランの建物内で、俺と一緒に暮らしている。


 木漏れ日の宿の女将さんやシーナに報告すると、二人とも心から喜んでくれた。


「まぁまぁ、おめでとうございます!」「ロゼッタさんなら安心ですね」

 笑顔に見送られ、胸が温かくなる。


 クランに戻ると、早速いくつかの依頼が舞い込んでいた。

 その中でも、最初にセリーナが受け取ったのは――貴族の護衛任務だった。


「もう、依頼が来たのは嬉しいけど、よりによって護衛任務よ……」


 セリーナが残念そうに眉をひそめる。


「よかったじゃないか」


「よくないわよ、テルトくん!」


「ここにいれば、トイレはウオシュレット。お風呂はジャグジーで泡まみれ。サウナで整えて、食事はテレロナさんが紹介により雇った元高級レストランの料理人が作る料理よ。それが護衛任務になったら、野宿よ? 野宿!」


「ああ、それなら心配ないぞ。トロイダルさんに頼んで、特注の移動用宿泊馬車を用意してある」


「ええっ、そんな資金どこから出てくるの!?」


「実はジャグジーの販売権を、トロイダル商会とジメント商会に譲ったんだ。おかげで、ウオシュレットに続いて貴族たちからの注文が殺到してるらしいぞ」


「ちょうど護衛任務は二週間後だろ? そのときには新型の馬車が届く。見れば気に入ると思う」


「やったー! でも……テルトくんのことだから、またやり過ぎてない?」


「ははは、まさかそんなことはないさ」


(――いや、ちょっとはあるかもしれない)


 二週間後、約束どおりトロイダルさんがクランを訪れ、特注の馬車を届けてくれた。


「テルトさん、ご注文の馬車をお持ちしましたぞ。いやはや、この建物には驚かされました。設備も見事ですが、何より全体が洗練されていますな」


「ありがとうございます。皆のおかげですよ」


 そう言ってから、俺はロゼッタと顔を見合わせ、結婚することを伝えた。


 トロイダルは目を丸くし、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「これはおめでたい! 我が商会とジメント商会で、盛大に祝わねばなりませんな!」


「いえ……ロゼッタとも話したのですが、式はここで、身内だけで挙げようと思います」


「そうですか。それがよいでしょう。ならば、私どもは陰ながら支度をお手伝いさせていただけませんか」


「ありがとうございます」


 ロゼッタが嬉しそうに微笑む。


 翌朝、完成した馬車を確認する。

 予想以上の出来栄えだった。


 外見こそ質素だが、一歩中へ入ると別世界のようだ。

 魔道具による拡張空間が広がり、二段ベッドが二つ、ソファーとテーブル、さらに――トイレとユニットバスまで完備されていた。


「トロイダルさん、ユニットバス、よく作ってくれましたね」


「苦労しましたが、なかなか面白い構造ですな。狭いながらも湯船に入れるよう設計し、空間を最大限活用しました。それにしても……この発想、これが異世界文明。テルトさん、このユニットバスの販売権も、我が商会とジメント商会で扱わせていただけませんか」


「もちろんです。どうぞ、よろしくお願いします」


 トロイダルと固く握手を交わす。

 その様子を見ていたセリーナが、勢いよく馬車の中を見回した。


「なにこれ!? ベッドが四つ? ソファーもふかふか。しかもお風呂まであるなんて……王族でも持ってない設備よ!」


 俺は少しだけ苦笑する。


「あれ? やっぱり、ちょっとやり過ぎたかな」


 後ろから、呆れたような声が飛んできた。


「やり過ぎです」


 ロゼッタが腰に手を当て、ため息をつく。

 だが、その口元は、少しだけ笑っていた。


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