第53話 集え! 仲間たち
振り返れば、あっという間の出来事だった。
スラム街はもう、以前のような薄暗い場所ではない。
今や平民街と遜色のない光景が広がり、通りには笑い声が満ちている。
その中でもひときわ目を引く建物――それが俺たちのクランだ。
「あれ? しばらく見ない間に、建物の設備や装飾品がグレードアップしているような……」
隣にいたインダクトが、どこか得意げに言った。
「はい、ウォシュレットの販売が好調でして。その利益を少し使わせてもらいました。今やこのスラム街――いや、平民街は移住者も増え、新たな街として生まれ変わっています」
「そうなんですか。それはよかった」
完成間近の建物に入ると、オーナーである俺に皆が丁寧に挨拶してくる。
「あっ、テレロナさん。人選は進んでいますか?」
「まぁ、大体の人選はできたけど、クランのメンバーはあたいには無理だよ」
「あっ……そうだった。すっかり忘れてたよ」
「あはは、最高だよ、テルト」
笑うテレロナを背に、俺は冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入ると、俺の姿を見た冒険者たちが一斉に押し寄せてきた。
「テルトさん、自分、結構やります! ぜひクランに入れてください!」
「私は治癒士。きっと役に立ちます!」
次々に声をかけられ、前に進むこともできない。
その様子を見たロゼットが、一歩前に出て言った。
「はい、皆さん、そこまでです! 時期を見てテルトさんから正式な募集があります。今日のところはお引き取りを」
ロゼットのおかげで、冒険者たちは渋々ながらも散っていった。
「すみません、ロゼットさん。助かりました」
「テルトさん、そろそろ募集を始めた方がいいですよ。私の方にも問い合わせが殺到しています」
「わかった」
(ステラ、何かいい方法はないかな?)
(マスター、大勢の志願者が来ると予想されます。一人ずつ対応するのは非効率です。一度にふるいにかける方式を推奨します)
(そうだな……それなら、いい方法を思いついたぞ)
俺は冒険者ギルドの掲示板に、クラン参加者募集の案内を張り出した。
その知らせを聞きつけた多くの冒険者たちが、クランの建物に集まってくる。
ロゼットが前に立ち、混乱しないよう手際よく場をまとめてくれている。
そんな中、一人の男が声をかけてきた。
「久しぶりだな」
「バックスさん! 本当に久しぶりです。元気でしたか?」
「ああ。噂は聞いてるぞ。俺たち《深緑の牙》も応募するからな」
かつての貴族然とした高慢さは消え、今では精悍な顔つきの冒険者になっている。
どうやら最近、Bランクに昇格したらしい。
周りを見渡すと――
ダニエル率いる《白竜の翼》、氷華の舞姫セリーナたちの姿もあった。
「よし、皆、聞いてくれ」
俺の呼びかけに、場にいた冒険者たち全員の視線が集まる。
「これからクラン募集者の選抜を行う。方法は至ってシンプルだ。俺の《威圧》に耐えた者は合格だ」
その言葉を聞いた冒険者たちは、どよめきながらざわつき始めた。
「それなら簡単だ」と言わんばかりの顔が、あちこちに見える。
そんな中、セリーナが浮かない顔で俺のそばに来た。
「テルトくん……君のことだから、普通じゃないよね」
「うーん、普通がどこまでか分からないけど、これでやるよ」
俺はアイテムボックスから装備を取り出し、一瞬で身につけた。
焔神刀・不知火を抜刀した瞬間、紅蓮胴具の竜鱗が淡く光を放ち、動きに合わせて火花が舞う。
刀身から蒼炎が立ち上り、その姿はまるで炎神が降臨したかのようだった。
「テルトくん……その装備、かなりヤバいわね」
「あっ、分かりますか。さすがセリーナさんです」
「でも、その装備での《威圧》は……」
セリーナの心配をよそに、俺は準備を整える。
「よし、皆、いくぞ!」
《威圧》発動。
「グオォォォーーーッ!」
大地が震えるような轟音。まるでファイアドラゴンの雄たけびのような音と共に、衝撃波が広場を包んだ。
(あれ? 《威圧》って、こんなんだっけ?)
(マスター、装備効果によりエキストラスキル《龍の咆哮》が発動しています)
(おい、先に言えよ……!)
セリーナ、ダニエル、バックスたちは何事もなかったように立っている。
その後ろのパーティーも怯みこそしたが、なんとか耐えているようだ。
問題はその他の冒険者たちだった。
足をガクガク震わせ、地面にへたり込む者までいる。
「テルトさん、やりすぎです!」
ロゼッタが怒り気味の声を上げる。
「ははは、これは面白い」
声の方を振り返ると、カーチスが腕を組んで立っていた。
「気になって来てみれば、面白いものが見れた。少なくともDランク以下は全滅だな。それにしても、今の威圧……アースドラゴンの咆哮と同じだぞ。試験で使うとは、君は本当に面白い」
カーチスは笑いをこらえながら後ろへ下がっていった。
「ああ、皆、大丈夫か? 俺の《威圧》に怯んだ者は不合格だ。
この場から解散してくれ」
その言葉を聞いた冒険者たちは、肩を落としながら、ある者は足早に、ある者は悔しそうにその場を去っていった。
威圧の余韻がまだ残る中、俺は辺りを見渡す。
地面に立っているのは、ほんのわずか。
セリーナ、ダニエル、バックス、それに数人の冒険者たちだけだった。
「……なるほど。これが、残ったか」
俺がそう呟くと、セリーナが小さく笑う。
「テルトくん、やっぱりね。普通の試験じゃないと思ってた」
バックスが肩をすくめる。
「まったく、とんでもねぇ選抜方法だな。でも、これくらいじゃなきゃ、テルトの仲間は務まらねぇか」
ダニエルがうなずく。
「同感だ。これだけの威圧に耐えられるなら、どんな戦場でも動ける」
皆の言葉を聞きながら、胸の奥が熱くなる。
「ありがとう。これでようやく、クランを名乗れる」
俺は手を前に出した。
出来上がったばかりの建物内に、セリーナたちを招き入れる。
「さぁ、入ってくれ」
皆を席に座らせ、クランについて説明する。
「ここに、新しいクランを結成する。名は――《無冠の栄光》だ」
セリーナが目を丸くする。
「どういう意味かしら」
「皆、よく聞いてくれ。俺は渡り人だ。この世界に来て、色々な人たちに手助けしてもらってSランクの冒険者になることができた。だが、人は地位や金を得ると助けられたことを忘れ、自分より弱い立場にあるものを見下す。このクラン名はそれを戒め、決して人を見下さず、助け合うことを活動方針とした」
その言葉に感銘を受けたテレロナが、勢いよく立ち上がる。
「流石、テルト! あたいはスラム街のボスだったけど、今や新たな市民街のリーダーになりつつある。
この心がけ、気に入ったよ」
皆がそれぞれ手を重ねる。
「俺はダニエル。白竜の翼代表として、全力で協力する」
「深緑の牙、バックスだ。昔は色々あったが、今はただの仲間として頼む」
「氷華の舞姫、セリーナ。ま、困った時は任せなさい」
「……よし、行こう。ここからが、本当の始まりだ」
手を離すと、ロゼッタがゆっくりと歩み寄ってくる。
「クラン《焔竜の翼》。正式にギルドへ登録申請をします」
その言葉と同時に、皆が笑顔になる。
「テルトさん、やりましたね」
「ああ、みんなのおかげだ」
夕焼けが街を照らし、スラム街――いや、新しい街の上に赤い光が広がっていた。
その中心で、俺たちのクラン《無冠の栄光》が、静かに始動した。
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