第50話 Sランクの重み、クラウンの始まり
俺たちは宿へ戻り、それぞれの部屋でしばし休憩を取ることになった。
扉を閉めた途端、張りつめていた緊張が一気に抜ける。
(ステラ、謁見では色々あったが……俺がSランク冒険者で、クラウンを設立、か)
(マスターであれば当然の結果です。しかし……これからが大変になるかと)
(だよな。Bランクから一気にSランク。ファイアドラゴンを単独討伐。そのうえクラウン設立……そりゃ、噂が広まらないわけがない)
(はい。しかし、それ以上に重大な点があります)
(重大な点?)
(マスターはSランクに昇格したことで、男爵と同等の地位が与えられます)
(……えええっ!? 本当か?)
(はい。領地はありませんが、名誉貴族としての扱いになります)
名誉貴族、か。
正直、喜ぶ余裕なんてない。
参ったな……今さら断れる話でもないし、
なんだか陛下に上手く“はめられた”気分だ。
それに、勢いで
「クラウンを設立します」
なんて言ってしまったものの――
実際、何から始めればいいんだ?
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされ、皆が揃って訪ねてきた。
最初に口を開いたのはクリフトだ。
「君のことだ。これからのことで悩んでいるだろうと思ってね。皆で様子を見に来たんだ」
「……はい。まさに、その通りです」
俺がそう切り出すと、自然と全員の視線が集まる。
「陛下からクラウン設立の許可はもらいました。でも正直……どう動けばいいのか、さっぱりで」
セリーナが、くすりと笑う。
「テルトくんらしいわね。Sランクになっても、そこは全然変わらないんだから」
「クラウンってのはな――」
ヤナックが腕を組み、低い声で続ける。
「冒険者の組織みたいなもんだ。依頼をまとめて受けられるし、ギルドや領主とも直接取引できる。だが、運営には金と人手が必要だ。気軽に作れるもんじゃねぇ」
「なるほど……拠点と、仲間を集める必要があるってことか」
「そういうことだ」
――この感覚、どこか懐かしい。
元の世界でやっていたゲームと、よく似ている。
クリフトが頷きながら、改めて口を開いた。
「だが、テルトくん。君ほどの冒険者がクラウンを立ち上げるなら、ギルドとしても全面的に支援しよう。資金の手配や登録手続きは、私が引き受ける」
「……ありがとうございます」
クリフトは穏やかな笑みを浮かべる。
「クラウンは、信頼で成り立つ組織だ。君のような人物が率いるなら、多くの冒険者が自然と集まるだろう。焦らず、まずは形を整えるといい」
ロゼッタが、そっと微笑んだ。
「テルトさんなら、きっと――誰もが安心して身を預けられる、素敵なクラウンになりますよ」
「……ありがとう。みんながいてくれるなら、なんとかやれそうな気がする」
クリフトとカーチスが、同時に頷いた。
俺たちは王宮を出たあと、それぞれ別行動を取ることになった。
俺とロゼッタは、王都でも名高いトロイダル商会へ向かう。
店に足を踏み入れると、店主のトロイダルと、ジメント商会のジメントが揃って出迎えてくれた。
トロイダルが、いつものにこやかな笑みで口を開く。
「聞きましたぞ、テルトさん。Sランク昇格、まことにおめでとうございます」
「ありがとうございます。……相変わらず、情報が早いですね」
「商人にとって情報は命ですからな」
俺はアイテムボックスから、社交界用のドレスコード一式とアクセサリーを取り出し、二人の前に差し出した。
「トロイダルさん、ジメントさん。お借りしていた品を返しに来ました」
トロイダルは楽しそうに目を細める。
「社交界は大成功だったそうですな。洋服店の店主が、わざわざ礼を言いに来ましたぞ。陛下から直々にお褒めの言葉を頂いたとかで、今や貴族からの注文が殺到しているそうです」
「そうなんですか……」
「そこで店主からです。このドレスは、礼を兼ねてテルトさんに差し上げたいとのこと。必ずお伝えするよう頼まれましたので、どうぞお受け取りください」
「えっ!? これ、相当高価な品では……」
「お気になさらず。テルトさんは、もはやSランク冒険者。王都のみならず、各地の社交界へ招かれる立場です。その際、このドレスが話題になれば――宣伝効果は計り知れません。損して得を取る。それが商人の心得ですな」
俺とロゼッタは思わず顔を見合わせ、同時に苦笑した。
トロイダルとの話が一段落したところで、ジメントが一歩前に出る。
「テルトさん。アクセサリーについても同じです。我がジメント商会にも、すでに注文が殺到しております」
「いや……こちらはドレス以上に高価でしょう。
さすがに受け取れません」
「確かに高価です。ですが、我々が受けた恩は、その比ではありません。どうか、遠慮なさらずお納めください」
しばらく押し問答が続いたが――相手は百戦錬磨の商人。結局、俺が根負けした。
「……参りました。そこまで言われたら、大切に使わせてもらいます」
ジメントは満面の笑みで頷いた。
そしてトロイダルが、ふと思い出したように切り出す。
「ところでテルトさん。クラウンを設立されると伺いましたが、資金のご予定は?もしお困りでしたら、我々が力になりますぞ」
「それなら、ぜひ我がジメント商会にも」
(ステラ、確かにクラウン設立には金がかかるな。元の世界のMMORPGでも、ギルド拠点を作るのは大変だった。白金貨十枚じゃ、正直心もとない)
(マスター、ファイアドラゴンの素材はどうでしょう)
(……ああ、そうか。その手があったな)
「それなら――これを売れば問題なさそうですね」
俺はアイテムボックスから、ファイアドラゴンの素材を次々とテーブルに並べていく。
火竜の瞳石――溶岩のような深紅の輝きを放つ宝石。
サラマンドライト
――火精霊を宿した宝石。炎耐性装備の加工に最適。
フレイムクリスタル
――体内で生成された炎の結晶。魔道具の核に用いられる。
火竜の骨粉
――薬品触媒。生命力を活性化させる効果を持つ。
竜焔の爪
――火口をも切り裂く硬度。刀剣・槍の穂先素材に最適。
灼熱竜翼膜
――魔力を通すと発火する特殊な翼膜。飛竜装備や高級マントの素材。
素材を並べ終えた瞬間、ロゼッタが息を呑む。
「テルトさん……ちょっと待ってください。この素材……まさか……」
「ああ、ファイアドラゴンの素材だよ。他にもあるけど、装備用だから、売るのはこれくらいかな」
「これくらい、じゃありません!全部オメガ級――いえ、物によってはエターナル級、伝説級です!」
「さすがロゼッタさん。俺の鑑定でも同じ結果だった。……よかった」
「よくありません!それだけファイアドラゴンが脅威だった証拠なんですよ!?それを単独で討伐するなんて……本当に無茶するんですから!」
「す、すみません……」
トロイダルが朗らかに笑う。
「まぁまぁ、ロゼッタさん。テルトさんの性格と実力を考えれば、成し遂げられない話ではありませんぞ。それにしても……これほどの最上級素材が次々と出てくるとは、実にテルトさんらしい」
「それで……売れますか?」
「もちろんです。火竜の骨粉、竜焔の爪、灼熱竜翼膜は我がトロイダル商会が。鉱石類――火竜の瞳石、サラマンドライト、フレイムクリスタルはジメント商会さんが扱うのが最善でしょう」
二人は素材を一つずつ鑑定し、何度も頷き合う。
やがて、トロイダルが満足げに告げた。
「トロイダル商会分で白金貨百枚。ジメント商会さんからは白金貨百五十枚ですな」
「……白金貨二百五十枚?二十五億円相当、ってことですか?」
「その通り。市場価格での提示です。オークションにかければ、さらに跳ね上がるでしょう。この手の素材は、欲しくてもまず手に入りませんからな」
確かに――ファイアドラゴンを討伐できる冒険者など、滅多にいない。
素材が希少になるのも当然だ。
「……わかりました」
「では、代金は冒険者ギルドの口座へ振り込みましょう。……ジメントさん、これから忙しくなりますな」
「ええ。お互いの息子に、この取引を任せましょう」
「うむ。これほどの素材、商人人生でも滅多に扱えません。良い経験になるでしょうな」
二人は固く握手を交わした。
俺はロゼッタに視線を向ける。
「ロゼッタさん。カナンベールへ戻ろう」
「はい、テルトさん」
――こうして、クラウン設立に必要な資金は、一気に現実のものとなった。
次に待つのは、拠点と仲間集めだ。
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