第5話 訓練場の初陣
説明を受けて教会の階段を下りると、地下とは到底思えない広大な空間が広がっていた。
中央には広場――いや、闘技場と言っていい規模のスペースがあり、その外周にはトラックのような円形の通路。
そして両端の区画では、剣士たちが剣を振り、魔法使いが的に向かって魔法を放っている。
(おお……本物の魔法だ。すごいぞ、ステラ)
(マスター、初観測です。あれは《ファイアボール》と推定。解析を開始します)
火球が弧を描くたび、空気が波打つ。その光景に胸が高鳴った。
近くには武器棚があり、剣や防具が整然と並べられている。傍らの男性に声をかけた。
「すみません。この訓練用って書いてある剣、借りてもいいですか?」
「ああ、好きに使ってくれ」
一本の剣を手に取る。ずしりとした重みがあるのに、不思議と嫌な感覚はなかった。
少し奥まった、人の少ないスペースへ向かう。
(よし、ここなら周りの目も少ない。存分に試せる)
(異世界転生もののテンプレ展開ですね、マスター。剣技と武術データはダウンロード済みです)
(んじゃ、ちょっと振ってみるか)
構えた瞬間――剣が、自分の手の一部になったように馴染んだ。
一振りすると風を裂き、腕が吸い付くように動く。
(なにこれ、ヤバい……。まともに運動してこなかったのに、身体がついてくる)
(筋力・反応速度ともに、転移後に上昇しています。その調子です)
剣を振り続けていると、影のような巨体が近づいてきた。
「新人か? 俺は訓練場の教官――ランバートだ。その剣筋、中々いい腕だ」
「どうも」
「どうだ、俺と模擬戦をしてみないか?」
(うわ、いきなりきた。今日、剣握ったばっかりなんだが……)
(マスター、実戦経験の獲得は最優先です)
「今日初めて剣を持ったんだけど……それでも?」
「初めてだと? 嘘だろう。まあいい、軽くやるから安心しろ」
「それなら……お願いします」
中央の闘技場に移動すると、周囲の視線が集まる。
木剣と胸当てを装着し、深く息を吸った。
「準備はいいか? 多少は怪我しても回復魔法がある。遠慮はいらん!」
構えた瞬間――ランバートの呼吸、足の角度、筋肉の膨らみ、全部が見えた。
「今だ!」
振り下ろした一撃をランバートが受け止め、驚愕の表情を浮かべる。
「なに!? 本当に剣が初めてだと!?――なら、俺も本気でいく!」
轟音のような剣撃が襲いかかる。しかし、不思議と見える。
刃の軌道、次に踏み込む位置、その全てが頭に浮かぶ。
木剣が幾度も打ち合い、火花のような衝撃音が響く。
周囲の訓練生たちが次々と集まってきた。
「やるな……だが、この技は受けられるか。戦技《真空斬》!」
ランバートの剣が風を裂き、圧縮された空気が斬撃となって飛ぶ。
(マスター! 身体強化を発動、緊急回避!)
反射的に跳んだ。斬撃が頬をかすめ、背後の地面を抉る。
「初見でかわすとは……やはり只者じゃないな!」
再開された攻防は、さらに激しさを増した。
木剣とは思えぬ衝撃が腕を痺れさせる。
(だめだ、このままじゃジリ貧……ステラ、なにか手は!?)
(解析中。少々お待ちを)
ランバートの声が響く。
「そろそろ終わりだ――戦技《真空斬》!」
二度目の斬撃。避けきれず、左脚をかすめた瞬間、熱い痛みが走る。
「当たったか。まだ続けるか?」
(マスター、解析完了! マスターの意識にリンクし、戦技《真空斬》をダウンロードします)
(よし……!)
「当然! まだ終わらない!」
「ははは、いい度胸だ。近頃の若い者は少し傷を負ったくらいで、直ぐに根を上げるのに、俺が見込んだ通りだ」
ランバートが攻撃を畳みかける。
息が荒くなり、腕の感覚も鈍ってくる。
そして三度目の構え――
「そこだ! 戦技《真空斬》!」
空間が歪むほどの斬撃。俺は恐れを押し殺し、剣を構え直した。
――見える。
斬撃の起点、風の流れ、力の向き。すべてが一本の線に繋がる。
「――っ!」
剣を逆角度で合わせ、斬撃を後方へ受け流した。
「な……!」
ランバートの目が見開く。
「今度は俺の番だ――戦技《真空斬》!」
俺の放った斬撃がランバートの胸当てを正面から叩き、巨体がぐらついた。
「よし、決める!」
踏み込んだその瞬間――
「戦技《鉄壁》!」
ランバートは淡い光の防御膜を展開し、俺の一撃が弾かれた。
「これで終わりだ! 戦技《重破斬》!」
振り下ろされた瞬間、地面がたわむような圧。
直撃した衝撃が胸を貫き、視界が白く弾けた。
壁に叩きつけられ、息ができない……
(マスター! マスター!!)
ステラの声は次第に遠ざかり、俺は意識を失った……
もし少しでも楽しんでいただけたら、リアクションや★、ブックマークで
応援してもらえると励みになります。
皆さんの反応が、次話を書く原動力です。




