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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第48話 新しい決意

 ドルガンは床に置かれた俺の装備をじっと見つめ、やがて何かを確信したように懐から鉱石を取り出した。


「……これが、証拠です」


 そう言って彼がその鉱石を俺の装備に近づけた瞬間――甲高い共鳴音が、広間に響き渡った。


「キィィィィィン――!」


 装備がかすかに震え、まるで意思を持つかのように淡い光を放つ。


「ドルガン殿、これは……装備の共鳴進化か?」


「陛下、その通りであります」


 ドルガンは騎士らしく恭しく頭を下げた。


「この鉱石は“オメガ級ヒイロコガネ”。そしてテルト君が浴びた返り血――それはファイアドラゴンのもの。でなければ、このような共鳴は起きません」


周りがどよめく。


「それ故に装備が主の力を認め、自ら進化を望む……これは“共鳴進化”の証。すなわち、テルト君がファイアドラゴンを討ち取ったという、動かぬ証拠であります」


「なるほど……」


 陛下の視線が俺に注がれる。

 その瞳は、すべてを見透かすかのようだった。


「テルトよ。ドルガン殿の言葉、異論はあるか?」


 ここまで来て、もはや言い逃れはできない。

 俺は小さく息を吐き、静かに答えた。


「……異論は、ありません」


 その瞬間、広間がざわめいた。

 歓声と驚愕が入り混じる中、ドルガンの豪快な笑い声が響く。


「フハハハハ! 愉快だ、実に愉快だ。模擬戦でオルディンの絶対守護陣を破った時も驚いたが、まさかファイアドラゴンを単独で討ち取るとは。テルト、お前、王国騎士団に入る気はないか?」


 場の空気が一気に熱を帯びる。

 だが同時に、俺の背に重圧がのしかかった。


 視線の主は――陛下だ。


(マスター、警告! 陛下よりエキストラスキル《神眼》の照射を感知。遮断完了。さらに別のスキル――おそらく《威圧》の上位版、ユニークスキル級反応を検出しています)


(……ステラ、助かる。だが、これは洒落にならないな)


(はい。解析を継続します)


 空気が張り詰め、誰もが無意識に姿勢を正した。

 陛下の存在そのものが、場を支配している。


 俺は装備を静かにアイテムボックスへ収め、深く一礼した。


「うむ……ドルガン殿の話、虚言ではあるまい。それにしても――我の《神眼》を阻害するとは驚いた。そして、《威風堂々》を受けてもひるまぬ胆力。さて……困ったものよ」


 陛下は顎に手を当て、意味深な笑みを浮かべる。


「ここまでの実力を持ちながら、Bランク冒険者か。しかも地位も財も求めず、目立ちたくないと申すか。まこと、厄介で面白い男よ」


 俺は恐る恐る口を開いた。


「陛下……それならば、いっそこの件、なかったことに――」


「ふっ。テルト、其方はやはり面白いのぅ。だが……まだ隠しておるな?」


 その一言に、背筋が凍りつく。


「率直に問おう。其方――“渡り人”であろう?」


 広間がどよめいた。

 一斉に向けられる視線。

 だが陛下の声は、静かで、それゆえに重かった。


「渡り人……?」


「そう。其方たちの言葉で言えば――“異世界人”だ」


 ……逃げられない。

 俺は覚悟を決め、はっきりと口にした。


「……はい。俺は“日本”という国から、この世界に来ました」


 静寂。

 だが、誰一人として取り乱す者はいなかった。

 むしろ、皆がどこか納得したように頷いている。


「やはり、そうであったか。其方が図書館で禁書を読んだことは、我の耳にも入っておる。その書は、我らには読めぬ古き言葉で綴られておる。試すような真似をして……許せ」


「恐れ多きお言葉です」


「ヤナック」


「はは」


「其方にも嫌な役を演じさせたな。済まぬ」


「陛下のご意向とあらば、いかようにも」


(……ヤナックが、仕掛け人だったのか)


 思わず、苦笑が漏れた。


 陛下は再び俺に向き直る。


「テルトよ。其方の心根は聖人のそれだ。権力を求めず、他者を助けることを惜しまぬ。異界の者とて、この地に生きておるなら、我らの同胞――もっと自由に生きよ。渡り人とて、この世界の一員だ。恐れるな」


 その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。


「……ありがとうございます、陛下。今まで、この世界では目立たぬようにとだけ考えておりました。ですが、いま少し……自分の意思で、生きてみようと思います」


「うむ。それでよい。ファイアドラゴン討伐、見事である。後日、改めて褒美を与えよう」


「ありがたき幸せにございます」


 次の瞬間――

 広間が揺れるほどの拍手が巻き起こった。

 その音が、俺の新しい決意を祝福しているように感じられた。



 謁見が終わり、与えられた客間へと戻った。


 扉を閉めた瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけ、どっと疲れが押し寄せてくる。 体は無事だが、心のほうが先に悲鳴を上げていた。


「さて……困ったな」


 ロゼッタに、なんと説明すればいいのか。 ずっと隠してきた“異世界人”という事実。 今さらどう取り繕っても、格好がつかない。


 そんな俺の沈黙を見透かしたように、ロゼッタが微笑んだ。


「どうしたのかな。――渡り人のテルトさん?」


 その言葉に、胸がちくりと痛む。 だが、彼女の表情には責める色は微塵もなかった。


「その……ロゼッタさん。今まで黙っていて、ごめん」


「ふふっ。何を謝るの?」


 ロゼッタは首をかしげ、ゆっくりと言葉を続ける。


「私にとって、テルトさんはテルトさんよ。どこの世界から来たって、何も変わらないわ」


 そのまっすぐな瞳に、胸に乗っていた重石が、すっと溶けていくのを感じた。


「……ありがとう、ロゼッタさん」


「うん、どういたしまして」


 柔らかな空気が流れた――その時だった。


「おっと、邪魔だったかな?」


 扉の向こうから、聞き慣れた声が響く。 ヤナックがどこか照れくさそうな笑みを浮かべて入ってきた。


「ヤナックさん……」


「テルトさん。これまでの無礼、本当にすまなかった」


 彼は深々と頭を下げる。 そこには、先ほどまでの演技めいた態度はなく、素の彼自身が立っていた。


「いえ、気にしていません。まさかヤナックさんが“仕掛け人”だったとは、思いもしませんでした」


「ふふ、そうだろう? 中々の名演技だったろう?」


「ええ、完璧に騙されましたよ」


「ははは、それは光栄だ」


 ヤナックの笑いには、悪意も打算もない。 そこにあったのは、同じ場を乗り越えた者同士の、素朴な温かさだった。


 窓の外で、夜風が静かにカーテンを揺らす。 張り詰めていた心が、ようやく解けていくのを感じた。


 ――だが、この穏やかな時間の裏で。 陛下が口にした**「他の渡り人」たちの存在**が、頭から離れなかった。


 日が暮れ、窓の外が茜色から群青へと移ろい始めたころ。 社交界の時刻が近づくと、扉が静かに叩かれた。


「間に合いましたな」


 入ってきたのはジメントだった。 相変わらず隙のない笑みを浮かべ、丁寧に一礼する。


 その直後、扉の向こうから、もう一人――ロゼッタが姿を現した。


「ロゼッタさん……これは……お美しい」


 淡い黄色のドレスが、月明かりを受けて柔らかく揺れる。 風にそよぐ白百合のように、しなやかで気品に満ちていた。


 思わず、息をのむ。


「……綺麗だ」


 その一言に、ロゼッタの頬がほんのりと色づく。


「テルトさんまで……もう、からかわないでください」


「からかってなんていない。本当に、そう思っただけだよ」


「ふふ、ありがとう」


 その空気を察したのか、ジメントが軽く咳払いをして口を開いた。


「さて、テルトさん。ロゼッタさんをより美しくするために、我々ジメント商会が用意した品をお持ちしました」


 彼の合図で、数人の使用人が慎重にトレイを運び入れる。 その上には、月光を閉じ込めたような首飾りと、白い光を帯びたイヤリングが並んでいた。


「この首飾りは《聖花の雫》。 月の雫を模して作られ、身に着ける者の心を穏やかに整えるといわれています。そして、こちらは《白聖の雫》。光を受けるたびに、白百合の花びらのような光輪が耳元に浮かぶ逸品です」


「まぁ……」


 ロゼッタが、鏡越しに自分の姿を見つめる。 大きすぎず、けれど確かな存在感を放つ宝飾が、彼女の美しさを一層引き立てていた。


「凄い……こんなに綺麗なの、初めてです」


「ふふ、そう仰っていただけると光栄です。これらはすべて、ジメント商会が総力を挙げてご用意した特別品ですからな」


 ジメントは誇らしげに胸を張る。


「さあ、社交界はまもなく始まります。お二人とも、どうぞ心ゆくまでお楽しみを」


 俺とロゼッタは深く頭を下げ、ジメントに礼を告げて部屋を出た。 静かな廊下を歩きながら、隣を歩くロゼッタの横顔を、ちらりと盗み見る。


 ――これから向かうのは、貴族たちが集う華やかな夜。 だが俺にとっては、彼女と並んで歩けるこの瞬間こそが、何より特別な時間だった。


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