第43話 決戦! ファイアドラゴンとアースドラゴン
「《絶影》、《ペガサスウィング》」
俺は誰にも気づかれぬよう木の陰に身を潜め、気配を完全に断ったまま翼を展開し、空へと舞い上がった。
狙うは――ファイアドラゴン。
一直線に進むその巨体を追い、カナンベールと第二防衛線の中間地点で追いつく。
幸い、まだ俺の存在には気付いていない。絶好の不意打ちの機会だ。
だが――どこを攻めるべきか。
(マスター、悩まれていますね)
(巨大なドラゴンに不意打ち……絶好のチャンスなのだが、どこを攻めればよいのか……)
(これまでの戦歴データを解析した結果、この世界でも、かつてのMMORPGにおける攻略法が通用する可能性が高いと推測します)
(……よし、ならここだ)
俺は刀の鞘に闘気と魔素を込める。
その圧に気づいたのか、ファイアドラゴンが空中で身を止め、周囲を見回した。
しかし、俺の姿を捉えることはできない。
「《不意打ち》――魔法剣・戦技《斬極・紅雪嵐》!」
解き放たれた斬撃が紅蓮の光球を纏い、ファイアドラゴンの翼を豪炎で焼き裂く。
続けざまに《氷結一閃》がその炎を凍てつかせ、極端な温度差が大気を爆ぜさせた。
刹那、さらに風刃が重なる。
《旋嵐翔刃》――。
紅と白の竜巻が渦を巻き、翼を粉砕していく。
「ギャオオオーーーッ!」
絶叫をあげ、ファイアドラゴンは片翼を失った。
巨体がバランスを崩し、空を裂きながら落下――地響きを伴って大地に叩きつけられる。
(マスター、不意打ち成功です)
(よし、《不意打ち》の効果でダメージは二倍。あの状態では、もう飛べない!)
俺はその足元に降り立つ。
――ここからが本番だ。
かつてのゲーム世界で培った攻略法。
ドラゴンと戦うなら、足元が最適解だ。
ブレスも、暴風を巻き起こす翼も届かない。
注意すべきは――尻尾のテイルスパイク。
だが、足元に張り付けばそれも無効化できる。
残る脅威は、鈍重な爪だけだ。
(ステラ、解析は?)
(マスター、やはり有効です。翼を破壊したことで間合いを取れず、ブレスは不発。テイルスパイクも発動不可。弱点を一方的に攻められます)
(やはりな……なら、あとは逆鱗を――!)
俺は幾度も斬撃を浴びせ、顎下の逆鱗を削り取っていく。
竜が吠えるたびに大地が震え、爪が叩きつけられるが、見切りでかわし続けた。
そして――決着の時。
「ここだ。エキストラスキル《限界突破》、戦技《終撃覇斬》」
世界が軋む。
空気そのものが断裂し、覇道の斬撃が一直線に走った。
逆鱗を砕き、急所を貫く。
「グォオオオオオオッ!」
絶叫と共に、ファイアドラゴンは崩れ落ち――やがて光の粒子となって消滅し、残滓と共にアイテムが地に散らばった。
(マスター……完璧な勝利です)
(ありがとう、ステラ。時間はかかったが、討ち取った……さあ、急いで合流するぞ)
俺はアイテムをすべてアイテムボックスに収め、再び空へ舞い上がった。
仲間たちが待つ戦場へと――。
皆に気づかれないよう、息を潜めて木陰から出た。
戦場の喧騒を背に受けながら、急いでアースドラゴンの方へ向かうと、予想外の光景が目に飛び込んできた。
なんと、カーチスがその背に乗っていたのだ。
「これで――とどめだ!」
カーチスが闘気を高め、渾身の一撃を叩き込む。
刃がアースドラゴンの胴を貫いた瞬間、巨体は大きくうねり、天を震わせる咆哮を上げた。
そして次の瞬間、その身体は光の粒子となって崩れ消える。
あとに残ったのは、地面に散らばるアイテムだけだった。
「おおおおおっ!」
周りの冒険者たちが歓声をあげる。
だが、その熱気を切り裂くように、すぐさまクリフトの声が飛んだ。
「気を抜くな! Cランク以下はここに残り、残った魔獣の討伐だ! Bランク以上はカーチスを先頭に、ファイアドラゴンを追うぞ!」
冒険者たちが慌ただしく準備する中、残りの魔獣たちはまるで潮が引くように一斉にダンジョンへと引き返していった。
「カーチス、これはどういうことだ?」
クリフトが問いかける。
カーチスは仲間を呼び寄せて状況を確認すると、鏡のような魔道具を差し出した。
「これを見てください。……ファイアドラゴンの印が消えています」
「なに?」
「これは魔獣探知機です。Aランク以上の魔獣の魔素を感知し、地図上に印を示す道具です。監視していた仲間の報告によると、アースドラゴンを倒す少し前に、ファイアドラゴンの反応が消えました」
「つまり……ファイアドラゴンが死んだ、ということか」
「原因はわかりませんが、間違いないはずです。その証拠に、魔獣たちが撤退しています」
クリフトがしばし黙り込み、ゆっくりと俺の方を見る。
「まさか……」
続けて、カーチスも俺を見て言った。
「テルトくん、その血……すごいな」
(ステラ、頼む)
(マスター、了解しました。マスターの意識にリンクし、ダウンロードを開始します)
「ああ、これか。
森で魔獣を一人で倒していたんだ。アースドラゴンの戦いに邪魔が入らないようにな。
返り血なんて気にしていられなかった。
それより、本当にファイアドラゴンが倒れて、カナンベールまで来ていないのか、確認した方がいいんじゃないか?」
「……そうだな」
(ステラ、助かったよ)
カーチスは仲間に指示を出し、伝令用の使役魔獣に魔道具を付けて飛ばした。
その間も、クリフトは声を張り上げ続ける。
「魔獣は撤退しているが油断するな!
Cランク以下は第二防衛線を守れ!
Bランク以上は、すぐにカナンベールへ向かうぞ!」
俺たちは仮眠を取りながら進み、中間地点に着いた頃、使役魔獣が戻ってきた。
カーチスが魔道具を確認し、張り詰めていた表情を緩めて息をつく。
「クリフトさん。安心してください。ファイアドラゴンは、カナンベールには現れていません」
「そうか……助かった」
クリフトは深くうなずき、全員に告げた。
「よし、ここで野営してから、第二防衛線へ戻るぞ!」
戻った防衛線には、もう魔獣の影は一つもなかった。
冒険者たちの間に、張りつめていた緊張がほどけるように安堵の空気が広がっていく。
「聞け!
ファイアドラゴンは消えた!
理由はわからないが、俺たちはダンジョンラッシュを乗り切ったんだ!
皆、よくやった!」
「おおおおおおっ!」
歓声が、夜空高く響き渡った。
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