第41話 第二防衛線、決戦の刻
その夜、俺のテントにクリフトが訪ねてきた。
ランタンの淡い光に照らされたクリフトの顔は、いつになく真剣で、張りつめた空気をまとっていた。
「テルトくん、よく来てくれた」
「カナンベールのみんなには世話になりましたからね。ここで少しでも恩返しができればと思って、駆けつけました」
クリフトは少しだけ表情を緩めるが、すぐに指揮官としての厳しい表情へと戻る。
「テルトくん……今回のダンジョンラッシュは、これまでになく規模が大きい。そこで、君の率直な意見を聞きたい」
「そうですね――」
俺は一度息を整え、頭の中で戦況を整理する。
「第一防衛線は突破されましたが、恐らく想定内でしょう。
この第二防衛線で可能な限り時間を稼ぎ、カナンベールでAランク以上のイレギュラーボスを迎え撃つ。
Aランクが数体なら、この戦力で何とか耐えられますが……
Sランクが複数となると厳しい。
その場合は、無理をせずカナンベールまで撤退し、王都の討伐隊に頼るしかないかと」
クリフトはしばし沈黙し、思案するように視線を伏せてから、深く頷いた。
「全く、君には驚かされる。私の考えと同じだ。ありがとう、助かった」
その声音には、重責を背負う者の安堵がわずかに滲んでいた。
少しだけ安心した顔を見せ、クリフトはテントを後にした。
(マスター、クリフトさん……かなり悩んでおられるようですね)
(だろうな。ギルド長として、ここで多くの命を預かっているんだ。俺たちも、できる限り力になろう)
その夜は、罠の位置や各隊の配置、合図のタイミングを何度も確認し合った。
野営地全体に、静かで重苦しい緊張感が広がっていく。
そして四日目の朝――。
冷たい空気の中、クリフトの声が響く。
「監視隊から報告があった。魔獣は半日で防衛線に到達する。今回の群れには、Bランクだけでなく、Aランクの魔獣も複数混じっているとのことだ。皆、心してかかれ!」
「おおおっ!!」
冒険者たちが雄叫びを上げ、武器を掲げる。
その瞬間、空気が震え、戦場の気配が一気に濃くなった。
昼を迎えるころ、地面を揺らすような地鳴りが近づいてくる。
遠くに土煙、そして獣の咆哮。
(ステラ、いよいよ来たな)
(マスター、まずは遠距離攻撃部隊が支援に入ります)
クリフトが前線で声を張り上げる。
「まだだ、撃つな――引き付けろ」
迫りくる魔獣たちは、冒険者たちの姿を視認すると雄たけびを上げ、突進してくる。
「よし、放て!」
次の瞬間、無数の矢と魔法弾が空を覆い、火花と爆風が魔獣たちを呑み込んだ。
先頭の魔獣たちが次々と倒れ、後ろから押し寄せる群れが転倒していく。
だが魔獣たちは反撃を始めた。
唸りを上げる岩塊や火球が、一直線に飛来する。
「攻撃が来るぞ、物理・魔法障壁を展開!」
張られた障壁に攻撃が弾かれるが、数発が遠距離部隊に届き、冒険者たちが倒れる。
「負傷者だ! 治癒士、前へ!」
「矢が足りない! 補給を急げ!」
野営地は一気に慌ただしくなる。
しかしクリフトが怒鳴ると、場の空気が鋭く引き締まった。
「うろたえるな! まだ始まったばかりだ!」
(ステラ、俺たちも行くぞ)
(マスター、全力でサポートします)
俺は深呼吸して詠唱を開始した。
「みんな、立ち上がれ!
《ギガ・エリアヒール》!
《ギガ・エリア・フルプロテクション》!
《ギガ・エリア・フルブレイク》!」
青白い光が戦場を覆い、負傷者の傷が瞬く間に癒えていく。
同時に、防御と強化の力が全体へと行き渡った。
「助かるぞ! これでまだ戦える!」
「うおおおおおっ!!」
再び戦意が燃え上がり、魔法と戦技の嵐が魔獣たちを押し返していく。
クリフトが隙を逃さず叫んだ。
「よし、魔獣たちが後退し始めた! 罠を発動せよ!」
地面が爆ぜ、落とし穴に落ちた魔獣が爆風で吹き飛ぶ。
前線は一気に混乱し、魔獣たちの隊列が大きく乱れた。
しかし――。
「グォオオオオッ!」
後方からひときわ大きな咆哮が響いた。
次の瞬間、ギガ級の魔法が降り注ぎ、障壁が火花を散らしてきしむ。
「Aランクの魔獣だ!」
クリフトが即座に指示を飛ばす。
「遠距離攻撃部隊は後退し、支援に回れ!
カーチス、中央でクラウンメンバーを率い、マンティコアを倒せ!
氷炎の舞姫は右側でリッチを頼む!
左側は白竜の翼とCランク以上の冒険者でサイクロプスを抑えろ!」
三か所で同時に激しい戦いが始まる。
(ステラ、左側のサイクロプスを仕留めるぞ。あいつの攻撃力は洒落にならん)
(マスター、移動しながら戦技で数を減らすことを推奨します。禁書の効果で魔素と闘気の消費効率が向上しています)
「エキストラスキル《神速》――戦技《居合一閃》!」
視界が閃光に染まり、俺は戦場を一直線に駆け抜けた。
魔獣たちの首が次々と宙を舞い、サイクロプスの巨腕をも斬り裂いた。
(ステラ、禁書の効果は本物だ!)
(マスター、その調子です!)
戦場は、まるで雷鳴と炎が交錯する修羅場と化していた。
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