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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第4話 異界で始まる俺の一歩

 二週間の時が過ぎた。


 左肩に残っていたはずの深い傷は、まるで夢だったかのように跡形もない。

 ぐっと腕を回してみても痛みひとつ感じない。……我ながら回復力が異常だ。


 部屋でくつろいでいると、控えめな気配とともに扉がきしみ、カトリーナがそっと顔を覗かせた。

 彼女の気配は薄く、物音ひとつ立てない。治療師として鍛えられた所作なのだろう。


「テルトさん、左肩……完全に治ったようですね。後遺症も残らず、傷跡もないなんて、本当に驚きました」


 柔らかな微笑み。

 彼女の献身的な看護を思い出し、自然と頭が下がる。


「カトリーナさんのおかげです。本当に、ありがとうございました」


 そう言うと、彼女はぱっと頬を染め、視線をそらす。


「そ、そんな……恐縮です」


 その仕草が妙に初々しくて、思わず表情が緩んだ。


「それから――今日でここを出る日ですね。救済金があるうちに、どうかお仕事を見つけてくださいね」


「ええ、わかりました」


 荷物をまとめ、部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした――瞬間。


「バキッ!」


 ……え?


「すみません。ドアノブが取れました」


「いえいえ、古い建物ですから。きっと前から緩んでいたんですよ」


 いや、これ絶対俺だろ……

 ほとんど力を入れていなかったのに。ステラの強化の影響か。


 そんなことを考えていると、カトリーナが小さな袋を差し出してきた。


「これ、ささやかですが……着替えや日用品が入っています。冒険を始めるテルトさんのお役に立てばと思って」


「ありがとう。カトリーナさんには、本当に世話になった。この恩は必ず返すよ」


 深く頭を下げると、彼女はくすっと笑う。


「丁寧なのは素敵ですけど、冒険者ギルドでは“友達口調”のほうが好まれますよ? あまり丁寧だと、逆に舐められてしまいますから」


「なるほど、気をつけるよ」


 そう言って外へ踏み出す。



 ――扉の先に広がった景色。

 視界いっぱいに満ちるのは、石畳、木と石の建物、往来を行き交う人々。それだけではない。

 猫耳の獣人、長耳のエルフ、髭をたっぷり蓄えたドワーフたち……。


「……異世界だ」


 胸の奥がじんわりと熱くなる。これが現実。俺が生きていく新しい世界。


 未知への不安。それを上回る期待と昂揚。


 ――よし。ここで、生きる。


 こうして、俺の冒険は一歩目を踏み出した。



 教会を出て、おもむろに歩き出すと、やがて大通りに出た。

 街は活気に満ち、人々の声や馬車の車輪が石畳を叩く音が入り混じり、生命の奔流のように耳を満たす。


 だが、周囲を見回しても、自分がどこにいるのかさっぱりわからない。

 地名も道の構造も、なにもかもが初めて見るものだ。


「ステラ、今どこにいるのかわかるか?」


(マスター、お任せください。教会の書庫にあった地図をデータとして蓄積済みです。今からマスターの意識にリンクし、ダウンロードします)


「頼むよ」


 次の瞬間、視界が変わった。

 まるでAR(拡張現実)のように、目の前の景色に地名や建物名が重ねて表示される。

 現実と仮想マップが融合したような、不思議な感覚だ。


「すごい! こんな機能まであるのか」


 右下に円形のインターフェースが浮かび、自分を中心に青い点がいくつか表示されている。


「ステラ、この右下の青い点はなんだ?」


(マスターのスキル『気配察知』を応用したレーダー機能です。敵意のない存在は青、敵意のある存在は赤で表示されます)


「それはすごいな」


 体内のどこかに眠っていた“戦いの勘”がふっと刺激される。

 戦闘の気配を視覚化する機能……使いこなせば、間違いなく武器になる。


 心強さを覚えつつも、次はどこへ向かえばいいのか考える。


「ステラ、これからどうするべきだと思う?」


(まずは冒険者ギルドを訪れることを推奨します。登録することで依頼や情報、安定した収入の確保が可能になります)


「だな。金貨三枚……日本円にして三十万円くらいの資金があるけど、あっという間になくなるだろうしな」


 決意を固め、ギルドを目指して歩き出す。


 やがて、立派な石造りの建物が視界に入った。

 木製の看板には剣と盾の紋章――これが冒険者ギルドか。


 扉を押し開けると、内部にいた数人の冒険者がこちらを振り向く。

 その視線にはわずかな敵意……いや、値踏みするような空気が混じっていた。


(ステラ、視線が痛いな)


(マスター、ここではナメられないように振る舞うことが重要です)


 頷き、受付カウンターに向かうと、前に立っていた女性に声をかけた。


「すみません。冒険者になりたいんだけど」


 女性は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。私は受付のロゼッタと申します。冒険者登録をご希望ですね?」


「ああ。俺はテルト。よろしく頼むよ」


 名乗った瞬間、なぜか彼女の頬がわずかに赤く染まった。

 ……何か気になることでも言っただろうか?


「ええと、住民プレートはお持ちですか?」


 差し出すと、ロゼッタはそれを手に取り、奥へと下がる。


 しばらくして戻ってきた彼女は、銅色のギルドプレートと水晶玉を手にしていた。


「登録手続きが完了しました。では、テルトさん、このプレートの上に手をかざしてください」


 言われた通りに手をかざすと、水晶玉が淡く光を放ち、プレートに光が流れ込む。


「はい、これで冒険者登録が完了です。このプレートには、討伐履歴やランク、試験結果などが記録されます」


「ありがとう、助かった」


「それと、依頼を受けるには訓練場での試験を受けていただく必要があります。今から説明しますね」


「わかった。よろしく」


 俺は、冒険者としての第一歩を踏み出すため、訓練場へ向かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話は、初めての戦闘シーンになります。

よろしければ次話もお楽しみください。

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