第39話 迫るダンジョンラッシュ
翌朝、俺は宿の裏庭を借り、昨日手に入れた禁書の力を試すことにした。
(ステラ、周囲に人の気配は?)
(マスター、地図捜索を実行。周辺に不審者や観察者はいません)
(よし……昨日の解析結果を頼む)
(了解しました。マスターの意識にリンクし、情報をダウンロードします)
次の瞬間―― 脳裏に、禁書に記されていた戦技と魔法の知識が一気に流れ込んでくる。
体が、勝手に動き出す感覚。
まるで長年修練を積んできたかのように、自然と“型”を取っていた。
「……まずは戦技からだな」
刀を握り、禁書で見た動きをなぞる。
一撃。
二撃。
三撃――
斬撃が重なるたび、空気が震え、風が巻き起こる。
慣れるにつれ、思考を挟まずとも体が動き、
技は自然と連続攻撃へと繋がっていった。
(ステラ、動きがどんどん洗練されていくぞ)
(はい。魔素および闘気の消費効率が顕著に向上しています)
次は魔法だ。
一度深呼吸し、意識を集中させる。
「《ペガサスウィング》!」
詠唱と同時に、背中に透明な風の翼が展開する。
足が地面を離れ、ふわりと宙へ浮いた。
風が体を支え、さらに上昇。
気が付けば、王都の屋根を見下ろす高さまで舞い上がっていた。
(ステラ、見てくれ……! 俺、飛んでる!)
(マスター、飛行魔法の安定率は良好です。ただし――空を飛ぶ人間は非常に目立ちます。《絶影》の併用を推奨します)
「なるほど……」
「《絶影》!」
影が全身を包み込み、次の瞬間――気配が完全に消えた。
近くを鳥が横切っても、こちらに気付く様子は一切ない。
まるで、空そのものと同化したような感覚だった。
(……これはすごいな)
その日から数日間、俺は裏庭で検証を重ねた。
飛行中の旋回、急降下、速度制御。
絶影の持続時間と、魔素消費量。
確かな手応えを得た、その矢先だった。
ある日、宿にトロイダル商会の使いが訪ねてくる。
「テルトさん、主が至急お話したいとのことです。お手数ですが、身支度を整え、商会までお越しください」
嫌な予感が胸をよぎる。
急いで身支度を整え、馬車に乗り込む。
向かった先は――ジメント商会だった。
部屋に通されると、ジメントが険しい表情で座っていた。
「テルトさん、よくぞお越しくださいました。折り入って、お話があります」
「何があったんですか」
「『翠光の迷窟』に使いに出していた者から連絡がありました。ダンジョンラッシュが発生したそうです」
嫌な予感が、確信に変わる。
「……予想以上の進行速度です。今頃、カナンベールの街は大混乱でしょう」
ジメントは言葉を続ける。
「王都ではすでに冒険者ギルドと連携し、討伐隊の編成を検討しています。
ですが……この速度では、間に合わない可能性が高い」
「恐れていた事態が、ついに起きたか……」
「はい。
宿場町には第一次防衛線がありましたが、多勢に無勢。
補給も追いつかず、突破される可能性があるため、住民は急ぎ避難中とのことです」
沈黙が落ちる。
やがてジメントが、静かに言った。
「もし、カナンベールから王都へ避難してくるご友人や知人がいれば、全て我が商会で支援いたします。
遠慮なく、お申し付けください」
「……ありがとう」
俺は顔を上げ、はっきりと告げる。
「だが、俺はカナンベールへ戻る。俺にも、やれることがある」
ジメントが目を見開いた。
「しかし……馬車では到底間に合いません。現在、街道は討伐隊以外、通行禁止です」
「問題ない」
俺は立ち上がり、微笑んだ。
「……ついてきてください」
中庭へ出ると、ジメントと従業員たちが後に続く。
「ジメントさん、心配してくれてありがとう。行ってきます」
大きく息を吸い、意識を集中。
「《ペガサスウィング》!」
突風が巻き起こり、背中に風の翼が広がる。
体が宙へと浮かび上がり――
「そ、空を……飛んだ……!?」
「テルトさん……どうか、ご無事で!」
ジメントの声が遠ざかる。
俺はさらに魔力を重ねた。
「エキストラスキル《絶影》」
姿と気配が完全に溶け、影となる。
――目指すは、カナンベール。
一気に加速すると、王都の街並みは瞬く間に小さくなり、俺は風を切り裂いて空を駆けていった。
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