第36話 鍛冶師の誇りと商会の闇
テンザンの店に着くと、店の外にまで騒ぎ声が響いていた。
胸騒ぎを覚え、俺は急いで中へ入る。
すると、アルメントがテンザンと顔を突き合わせるようにして激しく言い争っていた。
「テンザン、俺がここまで頭を下げて頼んでいるんだぞ。オリハルコンの武器と装備を作れ、金ならいくらでも出す。このままじゃ依頼主に莫大な違約金を払う羽目になるんだ……こうなったら、力ずくでもやらせてもらうぞ」
「金の問題じゃない。お前のための武器と防具は、絶対に作らん!」
アルメントの顔がさらに歪む。
「そうか……なら仕方がないな。確か、お前の兄弟弟子にバイセンという鍛冶師がカナンベールにいるはずだな。我がジメント商会はトロイダル商会より多く鉱物を仕入れている……お前次第で、カナンベールに鉱物を一切降ろさなくすることもできるんだぞ」
「汚い真似を……」
テンザンの表情が険しくなる。
その様子を見て、俺は黙っていられなかった。
「テンザン、心配するな。俺がトロイダル商会から鉱物を仕入れて、バイセンに届けてやる」
「お前は昨日の件もあるだろう。関係ないなら引っ込んでいろ」
「関係ないだと?バイセンは俺の仲間でもある。見て見ぬふりはできない」
アルメントは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「貴様……もう我慢ならん、表へ出ろ!」
「望むところだ」
店の外に出ると、人だかりができ始めていた。
その中から、見覚えのある男が歩み寄ってくる。
「アルメント、俺の装備はまだ出来ていないのか? まさか、オリハルコンだけ受け取って、俺を騙そうとしているんじゃないだろうな」
「ヨルダン、こいつが邪魔をしてテンザンが作ろうとしないんだ。やっちまってくれ」
(ステラ、ヨルダンは昨日ギルドで会った冒険者です)
(ああ、あのフレンドリーな冒険者だな)
ヨルダンが俺を見据える。
「お前は昨日、冒険者ギルドにいたな。俺はAランク冒険者ヨルダン。《灼熱の砂漠》のリーダーだ」
「カナンベールのテルトだ」
「なら、なぜ俺の装備の作成を邪魔する?」
「邪魔はしていない。アルメントが嘘をついているだけだ」
ヨルダンはしばし黙り込み、やがて背負っていた大剣を下ろした。
「……なら、試させてもらおう」
鞘から抜かぬまま、大剣を振り下ろしてくる。
俺は軽くステップし、紙一重でかわした。
「なかなかやるな」
大剣の動きが徐々に速くなる。
俺も鞘で受け流しながら間合いを取る。
(ステラ、あの大剣は厄介だな。鞘が傷つく)
(マスター、ヨルダンは力量を試しているだけです。闘気で応じましょう)
俺は一歩下がり、鞘を腰に納めた。
「何をするつもりだ?」
「見ていればわかる」
居合の構えを取り、闘気を高める。
空気が震え、周囲のざわめきが一気に消えた。
「……これは、尋常じゃないな」
ヨルダンも大剣を背に納め、全身から闘気を解き放つ。
その圧に耐えきれず、周囲の人々が地面にしゃがみ込んだ。
――その時だった。
「そこまでだ!」
近衛兵が駆け込んでくる。
「王都の道で剣を抜くのは御法度だ。これ以上やるなら連行する」
「騎士団を呼べ」
ヨルダンは舌打ちし、闘気を解いた。
俺も構えを解く。
「俺の名はヨルダン。Aランクの冒険者だ。騒がせたな」
「Aランク者だから今回は見逃すが、次はないぞ」
近衛兵が群衆を散らし、立ち去っていく。
ヨルダンが俺に向き直った。
「テルト、疑って悪かった。俺は鑑定持ちだ。お前の闘気を見れば人柄がわかる。お前は嘘をつく男じゃない」
そう言うと、アルメントを睨みつける。
「アルメント……よくも俺に恥をかかせたな。違約金だけでは済まさん、覚悟しておけ」
「そ、そんな……」
アルメントは崩れ落ちる。
その時、よろよろと一人の老人が現れた。
「噂を聞きつけて来れば……この親不孝者が……」
「お、おやじ……」
老人は俺たちに頭を下げようとし、そのまま倒れ込んだ。
「おやじっ!」
「任せろ、《メガ・ヒール》」
俺は即座に回復魔法を放つ。
老人の呼吸が整い、意識が戻った。
ヨルダンがポーションを飲ませると、青白かった顔に血色が戻っていく。
「アルメント、急げ。トロイダル商会に運ぶぞ」
「そ、それは……」
「迷っている暇はない。俺の鑑定ではかなり危険な状態だ。ここからならトロイダル商会が一番近い」
ヨルダンは老人を抱え上げた。
「テルト、案内を頼む」
「わかった」
俺たちは全力で、トロイダル商会へと走り出した。
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