第35話 王都商会からの招待
「はぁ、はぁ……もしかして、あなたは冒険者のテルトさんでしょうか?」
余程急いできたのだろう。男の額から汗が滴り落ちている。
「ああ、俺がテルトだが」
「よかった! 私はトロイダル商会の者です。先ほど冒険者ギルドから、あなたが訪れたと聞き、急いでお迎えに上がりました」
(ステラ、トロイダル商会って?)
(マスター、以前バックスさん達とダンジョンへ向かう途中、ミノタウロスから馬車を救った商会です)
(ああ、あの時のか)
「ああ、トロイダルさんか。確か、これのことだよな」
俺はアイテムボックスから手形を取り出し、男に見せる。
「まさしく商会の手形です! どうぞ、私と一緒に商会までお越しください。主のトロイダルが首を長くしてお待ちしております」
男に促されるまま、俺は馬車に乗り込み、トロイダル商会へと向かった。
馬車が商会の前に着くと、ずらりと並んだ従業員たちが、深々と頭を下げて出迎える。
(ステラ、なんだか大げさじゃないか)
(マスター、ここの商会は王都でも屈指の規模です。特別待遇なのでしょう)
恐縮しながら馬車を降りると、見覚えのある男が近づいてきた。
「テルト殿、トロイダルです。あの時は本当に助かりました。どうぞこちらへ」
商会の中は商品がずらりと並び、そのまま奥の応接室へと案内された。
「突然お連れして申し訳ございません。どうぞお掛けください」
机の上には湯気の立つ飲み物と菓子が並んでいる。
「えっと、殿とかはちょっと……恥ずかしい。テルトでいい」
「では、テルトさんと。あの時あなたが馬車を守ってくださらなければ、商会は大損害でした。命の恩人に礼を尽くさねば、私の沽券に関わります」
「いや、そこまで言われると困るな。……そういえば、あの馬車には何を運んでいたんだ?」
トロイダルはわずかに表情を引き締めて答えた。
「これは冒険者ギルドの依頼でしたが、テルトさんならお話ししても問題ないでしょう。実は『翠光の迷窟』でダンジョンラッシュの兆候が確認されております」
「ダンジョンラッシュ……ダンジョンから魔獣が溢れ、街を襲う現象か」
「はい。ギルドは溢れ出す前にダンジョンボスを討伐するため、武器や防具、ポーションなどを大量に納品しました。高額な品も多く、あなたの助力がなければ危険でした」
「なるほど、だからあの場では詳しく言えなかったわけだ」
「ところで、テルトさん。宿はもうお決まりですか? 決まっていなければ、私どもで用意した宿をご利用ください」
「いや、さすがにそこまで世話になるのは……」
「王都に滞在される間は、どうか遠慮なさらず」
(マスター、ここで断ると、かえって失礼にあたります)
(そうだな、ステラ)
「そこまで言われるなら、お言葉に甘えます」
トロイダルは満足げに頷き、王都の事情や商会の話を丁寧に教えてくれた。
「そういえば、ジメント商会について聞きたいのですが」
テンザンの店での出来事を話すと、トロイダルは深く息を吐いた。
「実に情けない話です。ジメント商会は我々のライバルですが、店主のジメント氏が療養に入ってから、息子のアルメントが商会を継ぎました。しかし彼は職人も顧客も見下し、今ではギルドからも距離を置かれています」
「あの態度は商人として致命的だ。職人を軽んじるなど言語道断だな」
「まったく、その通りです。**父親は立派な商人でしたが……**困ったものです」
長い話を聞き、明日また訪ねる約束をして解放された。
案内された宿を前に、俺は思わず足を止めた。
(ステラ、これ……宿っていうより高級ホテルだろ)
(マスター、王都でも最上位クラスの宿です)
冒険者プレートを見せると、最上階の広い部屋へと案内された。
専用の浴室まで備えられており、湯に浸かると体の疲れが一気に溶けていく。
夕食は目を疑うほど豪華で、思わず笑みがこぼれた。
(ステラ、ここに長居したら確実に堕落するな……明日には断ろう)
(マスター、賢明な判断です)
翌朝、宿に滞在辞退の旨を伝えた後、昨日の件が気になり、再びテンザンの武器防具屋へ向かうのだった。
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