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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第31話 伯爵家の食卓

 食卓には、バックスの両親と長男オルディン、次男ダリオス、そしてバックスが並んで座っていた。

 俺たちはテーブルの隅に席を用意されており、少し肩身が狭い。


 その様子を見たバックスは、立ち上がると迷わずポルトの隣に腰を下ろした。


 父親であるハルドランが低く落ち着いた声で言う。


「皆の者、今宵はバックスが久しぶりに我が家へ戻り、近状を報告するために席を設けた。手紙でも知らせは受けているが、改めて本人の口から聞こうではないか」


 その合図で、使用人たちが飲み物や料理を次々と運んできた。

 湯気の立つスープと香ばしい肉料理の匂いが食欲をそそる中、バックスはこれまでの経緯を話し始めた。


 ――冒険者としての活動、パーティーの成長、そしてBランクへ昇格したこと。


 話を聞いていた長男オルディンが口を開いた。


「我が弟ながら、その年でBランクになったとは……大したものだな」


 すると、次男ダリオスが不満そうに眉をひそめる。


「兄さん、これまでのバックスの行いを忘れたわけではないだろう。本当に自分たちだけでエルダートレントを討伐したのか? 王国騎士団ですら、討伐には相応の準備が必要な魔獣だぞ」


「確かに、これまでの俺を見てきた兄さんたちからすれば、疑いたくもなるだろう」

 バックスはそう言うと、アイテムバックからひときわ大きな光を放つ結晶を取り出し、テーブルに置いた。


「だが、これが証拠だ」


 それは淡く緑光を放つ『霊樹の魔結晶』だった。


 オルディンがゆっくりと頷く。


「……間違いない。これはエルダートレントの『霊樹の魔結晶』だ。それに、冒険者プレートも確かにシルバープレート。魔結晶は金で買えなくもないが、プレートだけは不正できん。ダリオス、これで納得しただろう」


「……だが、Dランクのパーティーが一気にBランクになったのは、やはり不自然だ」


 まだ納得できない様子のダリオスを、父ハルドランが鋭い眼差しで制した。


「いい加減にしろ、ダリオス。私はバックスがBランクになったことを認める」


 場が少しだけ静まる。

 ハルドランはバックスに視線を向け、低く尋ねた。


「それで、バックス。これからどうするつもりだ」


「はい、父上。俺はこのままポルトたちと冒険者を続けます」


「そうか……お前にも王国騎士団に入ってほしかったが、約束は守ったのだな。ならば許可しよう」


 バックスの表情がわずかに緩む。

 その後は和やかに夕食が進んだが、ダリオスだけはどこか不満げに黙り込んでいた。



 次の日。

 みんなで昼食をとり、最後の飲み物でくつろいでいると、ハルドランさんが口を開いた。


「バックス、本当にもう行ってしまうのか」


「はい。俺はポルトたちともっと力をつけるために、他の街を周りたいと考えています。テルトを見ていてわかったんです。力をつけるためには、いろんなことを体験して、知見を広めることが大切だと。それに、強さに貴族も平民も関係ないことも」


 ハルドランさんは深く頷いた。


「うむ。バックス、以前とは比べものにならないほど強くなって帰ってきたようだな」


「はい、父上」


 その様子を見ていたダリオスが口をはさむ。


「父上、騙されてはなりません。先ほど私のもとに情報が入りました。バックスたちは『翠光の迷窟』のダンジョンに入り、わずか二か月でBランクの強さを身につけたと。これは異常です」


 オルディンが制した。


「ダリオス、やめろ。たとえ異常であっても、昨日、父上がバックスを認めたではないか」


(ステラ、ダリオスはなぜそんなに焦っているんだ?)


(マスター、きっとブリジアント家の序列で自分の地位が最後になるのを恐れているのでしょう)


「ちょっといいですか」


 俺が声をかけると、皆がこちらを向く。バックスが問いかけた。


「テルト、どうした?」


「いや、バックスたちがそこまで疑われてるのが気分悪くてさ。ちょうど昼食も終わったし、ここで証拠を見せればいいだろ」


「証拠?」


「そうだ。バックス、みんなで闘気と魔素を解放してみろよ。ハルドランさんとオルディンさん、それにデビットさんは《鑑定》を持ってると思うからわかるはずだ。鑑定を持ってなくても、今のバックスたちの闘気と魔素を感じないなんてあり得ない」


 ダリオスが面白そうに言った。


「ご友人のテルトくんは良いことを言うじゃないか。さぁ、父上と兄さんの前で見せてみろ」


「よし、やってみるか」


 バックスの言葉にポルトたちも頷く。


「解放!」


 その合図で、バックスたちは闘気と魔素を一斉に解き放った。


 ダリオスが驚愕の声を上げる。


「まさか、これほどとは……これはAランク者にも迫る闘気と魔素ではないか。信じられん……」


 ハルドランがゆっくりと頷いた。


「これ以上の証拠はない。バックス、見事だ。私はお前を誇りに思う」


 ダリオスも認めるように言った。


「バックス、強くなったな。まさかお前が俺を超える日が来るとは……」


「ダリオスさん、超えたから何か問題でも? もしあるなら、ダリオスさんも鍛錬を積めばいい。俺の見立てでは、まだ闘気と魔素を活かしきれていないですし」


 ダリオスはその言葉に目を見開いた。


「そ、そうか……私は貴族という立場に甘えて努力を怠っていたようだな。テルトくん、礼を言う」


(ステラ、どうにか場は収まったみたいだな)


(マスター、そうですね)


 オルディンがこちらを見て言った。


「テルトくん、バックスたちをここまで導いてくれてありがとう。私は君に大変興味が湧いてきた。バックスたちがBランク、そして君もBランク。実力的には当然、バックスより上だ。そうなると、君はAランク相当の冒険者ということになるな」


「いやいや、そんなことないですよ。今はバックスたちより、ほんの少し上なだけです」


「果たしてそうかな。執事のデビットからも、君の所作は只者ではないと聞いた。どうだ、私と模擬戦をしてみないか。実力次第では、君を王国騎士団に推挙しよう」


(ステラ、困ったな。模擬戦は面白そうだが、王国騎士団に推挙されるのは困る)


(マスター、ここは諦めた方が無難でしょう)


 断ろうと口を開きかけたとき、バックスが俺の言葉を遮った。


「兄さん、テルトを王国騎士団に入れるのは絶対に無理だ。テルトは目立つのが嫌いなんだ。ただ、模擬戦だけなら俺も興味がある」


 オルディンは少し考え、にやりと笑った。


「なるほど。君がAランク冒険者になりたがらない理由がわかったぞ。指名依頼を避けているんだな。それなら、王国騎士団の訓練場で模擬戦だけでもやらないか」


 バックスがすかさず乗ってくる。


「それはいい考えだ。あそこなら部外者は入れないし、模擬戦にはうってつけだ。テルト、やるだろ?」


 ここまで話が進んでしまえば、断るわけにもいかない。


「わかりました。模擬戦、お願いします」


「こちらこそ、よろしく頼む」


 オルディンと握手を交わし、模擬戦は正式に決まった。



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