第3話 取り調べ、そして新たな力
食事は意外にも美味しかった。
見慣れない食材も混ざっていたが、気付けば皿はきれいに空になっていた。
腹が満たされ軽く横になっていると、扉をノックする音が響き、カトリーナと、見覚えのない男が部屋に入ってきた。
「横になっているところ、悪いな」
低い声に威圧感こそないが、隠しきれない緊張感がある。
「俺は、近衛兵副隊長のアイゼンだ。君は住民プレートを持っていないようだから、取り調べを受けてもらう必要がある。ついてきてくれ」
「わかりました」
胸の奥が少し強張るが、逆らう理由もない。
俺はアイゼンの後について隣室へ移動した。
「そこに座って、テーブルの上の水晶玉に手をかざしてくれ」
言われた通り手をかざすと、透明だった水晶玉が青白く輝き出す。
「……犯罪歴はないな。それにしても、ここまで鮮やかに光るとは。君は生まれて一度も罪を犯したことがないようだ」
「この玉は?」
「ああ、犯罪歴を鑑定する魔道具だ。仕組みは俺にもわからんが、精度は保証されている」
そう言ってアイゼンは俺をじっと観察する。
視線は鋭いが敵意ではなく、ただ職務としての冷静な眼だ。
「さて――犯罪歴がないのは確認した。次に、君の名前と、なぜ森でゴブリンに襲われていたのか。それを聞かせてもらえるか?」
(ステラ、どうする……?)
(お任せください。マスターの意識にリンクし、“設定情報”をダウンロードします)
深く息を吸い、ステラが準備した“過去”を語り始めた。
「俺の名前はテルト。森の奥で両親と暮らしていたんですが……まだ小さい頃に両親が亡くなって。それからはずっと一人で野菜を育てたり、罠を仕掛けたりして……」
語りながら、本当にその人生を歩んできたような不思議な感覚が胸の奥に宿る。
ステラの補助が自然すぎるのだ。
「家の周りにはなぜか魔物が寄りつかなかったから、今まで襲われたことはありませんでした。でも、村に行ってみたいと思って……森を出たら、ゴブリンに」
アイゼンは静かに話を聞き、やがて小さく頷いた。
「なるほど……人との接触がなかった理由もわかる。犯罪歴がないのも納得だ。しかし、魔物が寄りつかないというのは不自然だ。家のどこかに強力な魔封じの魔道石が置かれていたのだろう」
「母さんはあまり家を出ませんでした。父さんは、たまに外へ出ては……何か月も帰ってこないことがあった」
「ふむ……父親は冒険者だった可能性が高いな。まあいい、君が無実なのはわかった。むしろ被害者だ。これを渡そう」
(……はぁ。助かった。ステラ、ありがとう)
(どういたしまして、マスター)
張り詰めていた緊張がふっと解けていく。
そんな俺の前で、アイゼンは袋から何かを取り出した。
ひとつは首飾り型の金属プレート。
もうひとつは数枚の金貨だ。
「テルト。この針で指を刺し、プレートに血を垂らして名前を名乗れ」
言われるままに血を垂らすと、プレートが淡く光った。
「よし、これで登録完了だ。このプレートは身分証になる。大切に扱え」
「ありがとうございます」
「それから……君の荷物は何も見つからなかった。襲われたとき落としたのだろう。こういう場合、ギルド組合から救済金が出る。金貨三枚、受け取ってくれ」
渡された金貨の重みが手にずっしりとのしかかる。
温かい……いや、これがこの世界の“生きる手触り”か。
「本当に……ありがとう」
深く頭を下げると、アイゼンは軽くうなずき部屋を後にした。
病室へ戻ると、カトリーナが心配そうに声をかける。
「アイゼンさんから伺いました。とても大変だったのですね。でも、ここに来られたのはきっと神様が導いてくださった証です。もし私にできることがあれば、なんでも言ってくださいね」
「それなら……ひとつ頼みがあります。実は森育ちで、この世界の常識や文化に疎くて。そういう本があれば教えてほしいんです」
「もちろんです。ここは孤児院も兼ねていますから、そういった本はたくさんありますよ。こちらへどうぞ」
案内された書庫室は質素ながら整然としており、棚が本でぎっしり埋まっていた。
「この本たちは、どうぞ好きに使ってくださいね」
「ありがとうございます」
言語に関する本を手に取った瞬間、ステラの声が響く。
(マスター、ここからは私にお任せを。読み続けてください。処理は私が行います)
「ああ、頼んだ」
ページをめくると、すぐにステラの指示が入る。
(もっと早く捲っても構いません)
言われた通り高速で捲る。
知識が意識へと流れ込み、一冊があっという間に消化されていく。
(はい、データ蓄積完了。次の本をお願いします)
その後、夕暮れまでに書庫のすべてを読み終えた。
常識ではありえない量だが……ステラとなら可能だ。
(解析完了です。マスターの意識にリンクし、ダウンロードします)
「頼む」
意識に流れ込む膨大な情報。
世界の構造、歴史、文化、そして戦闘体系。
「なるほど……剣と魔法。闘気が体力、魔素が精神力の源。そして両方を統合した“生命力”。生命力が尽きれば死ぬ……ゲームみたいでも、命は現実と同じってことか」
(はい、マスター。闘気と魔素の強化は最優先事項です)
「だな。それに、魔法や戦技……。あのゴブリンにも苦戦していたようじゃ、MMORPG時代の元クラウンリーダーとして情けない」
(マスター、その気合いです!)
ふと胸の奥に、あの頃の熱が蘇る。
仲間と挑んだレイド、勝利の瞬間、あの高揚感。
――この世界でも、きっと。
病室へ戻ったとき、ふと鏡が目に入った。
「……ん?」
何気なく覗き込んだ瞬間、思わず固まる。
「はぁ? 若返ってる!? しかも……」
シャツを脱ぐ。
そこに映ったのは、引き締まり無駄のない、実戦向けの身体。
「なんだこの筋肉……細身なのに、密度が……これ、アスリートレベルじゃないか」
(ようやく気づきましたね、マスター。若返りは異世界転移の影響と推測されます。そしてその身体は、私がリンク強化した結果です! すごいでしょ!)
「す、すごいけど……やりすぎじゃないか?」
(大丈夫です。強化はまだ続きますが、最適を維持しますから!)
若干不安だったが……ステラが言うなら信じられる。
(マスター。情報の定着がまだ不十分です。“ステータス”と念じてください)
「ついにきた……! 『ステータス』!」
念じた瞬間、青白いウィンドウが展開された。
「おお……本当に出た。名前はテルト。年齢二十五歳――やっぱ若返ってる。闘気八十、魔素……ゼロか。で、スキルは……『身体強化』『自動再生』『気配察知』『状態異常耐性』『言語理解』……!」
(はい。マスターの経験や環境から付与された“後天性スキル”です)
「魔素ゼロは若干ショックだが……」
(ご安心を。今夜から魔脈の拡張を行い、魔素容量を増やします)
「お、おい、それって痛くないだろうな……?」
(はい。魔素増加には一度“使い切る”必要がありますが、痛みや意識喪失を避けるため、マスターが眠っている間に行います。無痛です)
「なら……任せる。でも、やりすぎはダメだからな?」
ステラの明るい声が、妙に頼もしく感じた。
(了解です! 最適なバランスで強化してまいります)
(ああ、頼むぜ。相棒!!)
(あ、相棒――嬉しい……)
(ん? 何か言ったか)
(はい、マスター。全てはステラにお任せを!)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これから頼もしい相棒と共に冒険者になります
よろしければ次話もお楽しみください。




