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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第28話 霊樹の魔結晶

 俺たちは、ボス部屋の前に立っていた。


 事前の情報では、ボスはBランクのトレント。

 巨大な樹木の魔獣であり、樹皮が皮膚のように硬く、枝が腕のようにうねり、根が足のように地面を這う。

 広範囲に及ぶ戦技と、土・風属性の魔法を巧みに操る厄介な相手だ。


 ――だが、今のバックスたちなら問題ないはずだ。


「どうした、バックス。緊張しているのか?」


 俺が声をかけると、バックスは苦笑して肩をすくめた。


「まあな……。これまで何度か挑戦したが、いずれも転移石で逃げ帰ってるからな」


「大丈夫だ。これまでの訓練を思い出せ。今のお前たちは、昔とは比べものにならないほど強い。自分たちを信じろ」


 俺の言葉に、皆が無言でうなずき、それぞれの表情が引き締まっていく。


 バックスが、ふっと笑った。


「テルト、ありがとう。必ず勝ってくる。……そこで、待っててくれ」


 そう言い残し、バックスたちはボス部屋の扉を押し開き、闇の向こうへと消えていった。


(ステラ、ずいぶん時間が経った気がするが……少し遅すぎないか? 転移石で戻ったのか?)


(マスター、経過時間は想定範囲内です。転移石が使用されれば、ボス部屋は解放状態になります)


(そうか……緊張していたのは、俺の方だったか)


 しばらくして、扉が軋む音とともに開いた。


 中から現れたのは、全身傷だらけになったバックスたちだった。

 ふらつくように数歩進み、やがてその場にへたり込む。


 俺は慌てて駆け寄り、杖を掲げる。


「大丈夫か。《ギガ・ヒール》」


 柔らかな光が広がり、仲間たちを包み込む。

 裂けた傷が塞がり、青ざめていた顔色がみるみる血色を取り戻していった。


 バックスは座ったまま、大きく息を吐きながら笑う。


「……テルト、ありがとう。俺たち……やったぜ。イレギュラーのエルダートレントを討伐した。……これが証拠だ」


 そう言って、アイテムボックスから石のような物体を取り出し、俺に見せる。


「『霊樹の魔結晶』か」


 鑑定してみると、確かにエルダートレントからのドロップ品だった。


「おめでとう。本当によくやったな。エルダートレントは、Aランクの魔獣だ」


「テルトとの模擬戦のおかげだ。あの訓練がなければ……また敗走してた」


 皆、興奮冷めやらぬ様子で、口々に戦況を報告してくる。

 俺はひとりひとりの肩を叩いて労い、全員でセーフティエリアに戻り、休息を取ることにした。


 ――翌朝。


 朝食を取りながら、バックスが思いついたように口を開いた。


「なあ、テルト。ボスのトレントで勝負しないか?」


「勝負?」


「そうだ。タイムアタックだ。どっちが早く倒せるか、競おうぜ」


「面白そうだな……やってみるか」


 結果は、五回とも俺の勝ちだった。

 だが、その差は回を重ねるごとに確実に縮まっていた。


 腕を組みながら、バックスが唸る。


「やっぱり……テルトには勝てないか……なあ、最後にもう一回、挑戦させてくれ」


「いや、バックス。今度は俺から提案だ。戦技と魔法を、できるだけ使わずに討伐してみろ」


 バックスは一瞬目を見開いたあと、口角を上げた。


「……それも、面白そうだな。やってみる」


 バックスたちは再びボス部屋へと向かったが、なかなか戻ってこない。

 時間が経つにつれ、俺の中にじわじわと不安が広がっていった。


 ようやく扉が開き、全員が汗だくになって姿を現す。


「ふぅ……キツかったな……」


 バックスは大きく肩で息をしながら、床に腰を下ろした。


 ディアナも、額の汗を拭いながら苦笑する。


「本当に……こんなに厳しい戦いになるとは、思わなかったわ」


 俺は小さくうなずいた。


「そうだろう。戦技や魔法に頼らず戦うことで、普段どれだけ無駄に消耗しているか、身に染みてわかったはずだ。敵が一体だけならまだいい。だが、数体……十数体と相手にするときは、闘気や魔素を効率的に使えないと、長期戦では勝てない」


 バックスが真剣な顔で頷く。


「確かに……。リーダーの俺が、もっと戦況を見極めて、的確に指示を出さないといけないな」


 アリッシュも、唇を噛み締めるようにしてうなずく。


「私もです……。魔素が増えてから、必要以上に火力で押してました。これからは、もっと意識します」


 俺は彼らを見渡し、静かに告げた。


「……もう十分だ。お前たちは、もう立派に強くなった。これで、俺の護衛は終わりだ」


 その言葉に、バックスは一瞬固まり、それから目を伏せた。


 やがて、目元を潤ませながら、かすれた声を出す。


「テルト……本当に、ありがとう」


 空気が一気に重くなりかけた、そのとき。


 アリッシュが、わざとらしく肩をすくめて笑った。


「ほら、やっぱりバックスは根は良い子なんですよ」


 そのひと言で、その場が一気に和み、誰もが吹き出した。

 張り詰めていた空気はほどけ、優しい笑い声が洞窟内に響き渡った。



もし少しでも楽しんでいただけたら、リアクションや★、ブックマークで

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