第27話 覚醒
宿場町に到着すると、俺はまずダンジョンの登録を済ませ、地図や転移石を準備した。
長旅の疲れを宿で癒やし、一晩ゆっくり休んで翌朝を迎える。
朝、食堂へ向かうと、すでにアリッシュが席に着いていた。
「おはようございます、テルトさん」
「おはよう、アリッシュ」
「朝食をとりながら、少し相談してもいいですか?」
「いいぞ」
アリッシュは少し困ったように眉を寄せた。
「昨日の夜、ステータスを確認したら……スキルに『魔素制御』と『連続詠唱』が増えていて。魔素制御を覚えたのはわかるんですが、連続詠唱は心当たりがなくて……それに、驚くほど魔素が増えてたんです。これ、病気じゃないですよね?」
俺は苦笑しながら首を振る。
「ははは、心配するな。あの棒を使った訓練で、魔素の放出と吸収ができるようになったはずだ。連続詠唱はその成果だろう。魔力制御ができるようになると、魔素は驚くほど増える。呼吸法はそのまま続けてくれ」
ちょうどそのとき、ポルトが朝食を持ってきて席に着いた。
「おはよう」
「おはよう」「おはようございます」
軽く挨拶を交わしたあと、ポルトが深刻そうに口を開く。
「俺も昨夜ステータスを見たんだが……スキルに『闘気制御』と『闘気連鎖』が増えてた。闘気制御は訓練の成果だろうが、闘気連鎖ってのは……それに、闘気が信じられないくらい増えてる。何かおかしくなってないか?」
「大丈夫だ。アリッシュにも言ったが、全部訓練の成果だ」
その後もディアナやバックスから同じ質問を受け、俺は順番に説明していった。
(ステラ、あの呼吸法、かなり効果が出てるな)
(はい、マスター。解析結果を意識にリンクし、ダウンロードします)
(……これ、ステラが夜中にやってる闘気と魔素を増やすやつの“劣化版”だろ。劣化版でこれなら、本物の俺はどうなってるんだ……)
(ご心配なく。すでにBランク相当の生命力に到達しています。すべてお任せください)
そんなやり取りをしていると、バックスが席を立ち、真っ直ぐ俺の前へ来て右手を差し出してきた。
「テルト、これからダンジョンに入る。改めて言う――よろしく頼む」
「よろしくな、バックス」
握手を交わすと、横からアリッシュがくすっと笑う。
「バックス、最初から素直に言えばいいのに。本当はいい子なんですよ」
「ふん!」
そっぽを向くバックスに、ポルトが笑い、それにつられて全員が笑い出した。
そして――ダンジョン前へ。
ここが『翠光の迷窟』か。
緑の光に満ちた神秘の洞窟。内部は真昼のように明るく、木々が生い茂り、迷路のようになっていると聞いていた。
まぁ、『地図捜索』を展開すれば問題はない。
魔素量が増えた影響か、以前よりも索敵範囲が明らかに広がっている。
一方で、バックスたちは地図とコンパスを頼りに、地下二階への階段を目指して進んでいた。
そのとき、バックスが足を止める。
「みんな、気を付けろ。魔獣の気配だ」
茂みの影が、不自然に揺らいだ。
次の瞬間、黒い影が地を蹴った。
――キラーパンサー。
(ステラ、キラーパンサーはDランク魔獣か。バックスたちの腕試しには、ちょうどいいな)
バックスが即座に前へ出る。
「俺が引き受ける! ポルトは戦技でダメージを、アリッシュは魔法、ディアナは支援と回復を頼む!
いくぞ――《挑発》!」
挑発に反応し、キラーパンサーの金色の瞳がぎらつく。
低く唸り声を上げながら、一直線にバックスへ飛びかかった。
風を裂く爪。
鋭い牙。
「受け止める――戦技《盾衝撃》!」
バックスの盾が唸りを上げて炸裂し、衝撃波が前方へ弾け飛ぶ。
鈍い音とともに、キラーパンサーの動きが一瞬止まった。
「今だ! 戦技《重破斬》!」
ポルトの剣閃が縦に走り、硬い皮膚を切り裂く。
間髪入れず、背後からアリッシュの声が響く。
「《メガ・ファイア》!」
紅蓮の炎が炸裂し、洞窟内に爆音が木霊した。
キラーパンサーは悲鳴を上げる間もなく、黒い炭と化して崩れ落ちる。
「あれ……? もう終わり?」
あまりにも呆気ない結末に、全員が言葉を失った。
「簡単すぎたか……だが、闘気と魔素の制御が少し荒くなっているぞ」
俺が忠告すると、バックスが苦笑する。
「いや、テルト。言いたいことはわかるが……前まで苦戦してた相手が、こんなに簡単に倒せるなんてな……」
俺は一歩前に出て、全員を見渡した。
「バックス、そしてみんな。よく聞いてくれ。今の闘気や魔素量ならCランク――いや、鍛え方次第ではBランクの実力になれる。ここに一か月籠もって、実戦で鍛えないか?」
バックスたちは一瞬顔を見合わせ、やがてバックスが真剣にうなずいた。
「テルト、本当に俺たちがBランクになれるのか?」
「なれる。俺が、今まで嘘をついたことがあるか?」
「……わかった。よろしく頼む」
バックスに続き、仲間たちも次々にうなずいた。
「それじゃあ、一気に三層のセーフティエリアまで進み、拠点を構える。訓練は四層で行うぞ」
「いきなり四層かよ……あそこはCランク、運が悪けりゃBランクの魔獣も出るぞ」
「問題ない。いざとなったら俺が護衛する。これは訓練だ。多少の無理は承知の上だ」
その言葉に、仲間たちの表情が微妙に引きつる。
(マスター、少し悪い顔になっています)
(ステラだって、昨日は楽しそうに作戦を立ててただろう)
(誤解です。私はあくまで効率のみを追求しました。すべてお任せください)
……ステラに任せておけば大丈夫。
そう思ってはいるが、やり過ぎ感があるのも事実だった。
あれから、一か月が経つ。
バックスが地面に座り込み、悔しそうに天井を仰ぐ。
「くそー……今日もテルトから一本も取れなかったか……」
「ははは、まだまだだな、みんな」
アリッシュが頬をぷくっと膨らませる。
「テルトさんはズルいです。ポルトを相手にしながら戦技を連続発動してるのに、魔法まで同時に放つなんて。しかも火と氷の反属性魔法を同時に、ですよ? おかしいです」
「そんなことないさ。バックスやポルトだって戦技を連発できるし、アリッシュも反属性魔法を同時に放てるようになった。ディアナは支援と回復を戦況に合わせて完璧に出せる。パーティーとしては、相当完成度が高いぞ」
ポルトが歯を食いしばる。
「それでも、まだ一本も取れない……!」
(ステラ、一本も取られてはいないが、正直かなりギリギリだ)
(マスター、彼らの成長データ解析が完了しました。マスターの意識にリンクし、ダウンロードを開始します)
(……こりゃすごいな。そりゃキツいわけだ。やり過ぎじゃないよな?)
(いいえ。彼ら自身の努力によって到達した成果です)
ダンジョンに籠もり始めて三週間を過ぎた頃から、五層のBランク魔獣では物足りなくなったらしく、仕方なく俺が相手になって模擬戦を繰り返してきた。
だが最近では、バックスたちの実力と連携が目に見えて向上し、俺でも油断すれば一瞬で持っていかれるほどになっている。
俺は、バックスたちに声をかけた。
「バックス。ここまで戦えれば、もう十分だろう。そろそろボス戦に挑戦してみないか?」
バックスの目が輝く。
「おお……! やっとボスに挑戦できるのか!」
「実力は、もう十分すぎるほどだ」
その様子を見ていたアリッシュが、にやりと笑った。
「テルトさん。本当は私たちに一本取られるのが嫌で、ボス戦を提案したんじゃないですか?」
「そ、そんなことはないさ」
ディアナがくすりと笑った。
「ふふ……テルトさん、意外とバックスと同じで素直じゃないんですね」
「……これは一本、取られたな」
その一言で、場の空気が一気に緩み、全員の笑い声が洞窟内に響いた。
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