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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第26話 訓練、訓練、また訓練

 翌朝、指定された集合場所へ向かうと、まだ誰の姿もなかった。 しばらく待っていると、やがてバックスたちがやって来る。


 開口一番、バックスが俺の格好を見て言った。


「おい、テルト。なんで荷物を持ってねえんだ? アイテムバッグくらい持ってこいよ」


「おはよう、バックス。……まずは挨拶だろ。貴族なんだから、礼儀くらいわきまえろ」


「はぁ? 俺はお前のためを思って言ってやってるんだぞ。途中の野営で、準備できてなくても俺らにたかるなよ」


「ああ。それなら問題ない」


 俺があっさり答えると、バックスは納得いかない様子でぶつぶつ言っていたが、仲間たちに制されて馬車へと乗り込んだ。


 馬車に乗ると、どうやら同乗しているのは俺たちだけらしい。 さらに二台の馬車が後ろにつき、合計三台での出発となった。


 道中は大きな問題もなく、予定どおり野営地へ到着する。 それぞれが手早くテントを張り、夕食の準備を始めた。


 バックスたちも設営を終えたが、さすがは貴族。 見た目からして立派なテントだった。


「おい、テルト。俺たちのテントを眺めてても、入れてやらねえぞ」


「だから、問題ないって言ってるだろ」


 そう言うと、俺はアイテムボックスからテントや調理器具を次々と取り出していった。


「なっ……!? お前、アイテムボックスが使えるのか!?」


「怒ったかと思えば、今度は驚いて……忙しいやつだな。その性格、闘気や魔素の乱れに繋がってたりしないか?」


「なっ……そ、そんなことはねえ!」


 バックスは顔を赤くして否定すると、仲間たちのほうへ戻っていった。どうやら図星らしい。


 夕食後、俺は焚き火の前で考え込む。


(ステラ、彼らのデータは取れたか?)


(マスター、はい。解析は完了しています。マスターの意識にリンクして、ダウンロードします)


(……なるほど。やはり、俺の見立てどおりだな。 バックスは闘気と魔素のムラが大きい。ポルトは闘気の放出が弱い。 アリシュは魔素の放出が不安定で、ディアナも魔素にムラがある……。 せっかく闘気も魔素も高水準なのに、活かしきれていない)


(そうです。もし全員が能力を最大限発揮できれば、計算上ではBランクパーティーと互角になります)


(ふむ……さて、どうしたものか)


(マスター。C級ダンジョンのボスを討伐するには、現状では実力不足です。そこで、ひとつ試したいことがあります)


(試したいこと……?)


 俺とステラは、焚き火の前で彼らに対する今後の方針を話し合った。


 テント前の焚き火へ向かい、バックスに声をかける。


「バックス、少し話がある」


「はぁ? 俺は貴族だぞ。平民のお前が、気軽に話しかけるんじゃねぇ」


「見栄を張るな。魔獣から見れば、貴族も平民も関係ない。弱ければ、やられるだけだ」


 その言葉に、ポルトたちが小さく頷いた。


「バックス、テルトさんの話、ちゃんと聞こうよ」


「……ちっ。アリシュがそう言うなら聞いてやる。感謝しろよ」


 俺がアリシュに軽く頭を下げると、彼女も小さく会釈してくれた。


「いいか。単刀直入に言う。君たちは弱い。このままじゃ、C級ダンジョンのボスは倒せない。 今から、その原因と対策を話す。耳をかっぽじって聞いてくれ」


 俺はステラと共有した内容――彼らの闘気と魔素の問題点――を、一人ずつ指摘していく。 皆、真剣な表情で耳を傾けていた。


「ここからが本題だ」


 俺はアイテムボックスからミスリル合金の棒を人数分取り出し、焚き火の明かりにかざす。


「これはミスリル合金だ。闘気や魔素を通しやすい性質がある。 君たちは制御が甘い。まずは、これを使って感覚を掴んでもらう」


 俺は右手の二本に闘気を、左手の二本に魔素を流し、それぞれを逆回転させて空中に浮かべてみせた。


「す、すげえ……俺たちは浮かせるだけで精一杯なのに……」


 皆の目が、驚きに見開かれる。


「制御できれば、ここまでできる。バックス、特にお前は闘気も魔素も強い。 両方を同時に操れるようになってもらう」


「けっ! 俺に命令するつもりか?」


「強制はしない。だが、やらなきゃボスは討伐できない。 Dランクのままでいいなら、好きにしろ。……わざわざ大金を払って護衛を雇った理由は、明白だろ?」


 その言葉に、ポルトが静かに口を開いた。


「……流石です、テルトさん。実は、三か月以内にあのボスを倒さなきゃいけないんだ。 これまでにも護衛を頼んで挑戦してきたが、一度も成功していない」


「それはそうだ。守られているだけで、強くなるわけがない。――どうする、やるか?」


 バックスはしばらく黙り込み、やがて大きく息を吐いた。


「……わかった。お前が今までの冒険者と違うのは認める。 このままじゃ勝てないのも事実だ。……頼む、鍛えてくれ」


 その言葉に、ポルトたちは目を丸くしたが、すぐに全員が頷いた。


「よし、決まりだ。じゃあまずは、一人ずつ俺のテントに来てもらう」


「俺が最初だ。リーダーだからな」


 バックスとともに、テントへ入る。


「すぐ終わる。上半身の防具を外して、椅子に座れ。目を閉じて、深呼吸しながら落ち着け」


 意外にも、バックスは素直に従った。 俺は目を閉じたのを確認し、気配を殺して横隔膜付近へ貫手を打ち込む。


「ぐはっ!」


 声にならない呻きとともに、バックスは膝をついた。


「《メガ・ヒール》」


 淡い光が彼を包み、痛みを消し去る。


「お前……今、何をした?」


「心配するな。特別な呼吸法を身につけるための処置だ。これで、闘気と魔素の制御がしやすくなる」


 俺はミスリル合金の棒を一本、手渡した。


「さあ、闘気を流してみろ」


 バックスが集中すると、棒はゆっくりと浮かび、安定したまま空中に留まった。


「おお……浮いたぞ」


「いい。そのまま、右に回転させろ」


「……難しいな……」


 ぼやきながらも、棒はゆっくりと右回転を始める。


「できた……! 俺にも、できるぞ!」


 興奮で集中が切れ、棒は地面へと落ちた。


「気を抜くな。これからは、闘気と魔素を同時に扱う訓練もする。 効果は、時間が経てば実感できる。次の仲間を呼んでくれ」


 バックスは力強く頷き、足早にテントを出ていった。


 最後のディアナへの施術が終わるころには、夜もすっかり更けていた。 周囲の冒険者たちも、見張りを残して次々と眠りにつく準備をしている。


 俺たちもテントへ戻った。


(ステラ、うまくいったみたいだな)


(はい、マスター。皆、呼吸も安定しています)


(明日からは馬車の中で指導だ。ダンジョンに着くころには、かなり制御できるようになっているはずだ)


(ええ。それに、あの呼吸法には、もうひとつ仕掛けがありますから……楽しみですね)


(ああ、俺も楽しみだ)


 焚き火の残り香と、土と草の匂いに包まれながら、俺は静かに眠りへ落ちていった。



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