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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第25話 押しつけられた護衛任務

 翌朝、指定の場所に行くと、まだ誰も来ていなかった。

 しばらく待っていると、バックスたちがやってくる。


 開口一番、バックスが俺の格好を見て言った。


「おい、テルト。なんで荷物を持ってねえんだ? アイテムバッグくらい持ってこいよ」


「おはよう、バックス。……まずは挨拶だろ。貴族なんだから礼儀くらいわきまえろ」


「はぁ? 俺はお前のためを思って言ってやってるんだぞ。途中の野営で、準備できてなくても俺らにたかるなよ」


「ああ、それなら問題ない」


 俺があっさり答えると、バックスはまだ納得いかない様子でぶつぶつ言っていたが、仲間たちに制されて馬車に乗り込んだ。


 馬車に乗ると、どうやら乗っているのは俺たちだけのようだ。

 他に二台ついてきて、合計三台での出発となる。


 道中は大きな問題もなく、予定通りに野営地へ到着。

 それぞれが手早くテントを張り、夕食の準備を始める。


 バックスたちもテントを張り終えたが、さすがは貴族、見た目からして立派なテントだ。


「おい、テルト。俺たちのテントを眺めてても入れてやらねえぞ」


「だから、問題ないって言ってるだろ」


 そう言うと、俺はアイテムボックスからテントや調理器具を次々と取り出していった。


「なっ……! お前、アイテムボックス使えるのか!?」


「バックスは怒ったかと思えば、今度は驚いて……忙しいやつだな。

 その性格、闘気や魔素の乱れに繋がってたりしないか?」


「なっ……そ、そんなことはねえ!」


 バックスは顔を赤くしながら否定すると、仲間たちの方へ戻っていった。どうやら図星らしい。


 夕食後、焚き火の前で考え込む。


(ステラ、彼らのデータは取れたか?)


(マスター、はい。解析は完了しています。マスターの意識にリンクしてダウンロードします)


(……なるほど。やっぱり俺の見立て通りだな。

 バックスは闘気と魔素のムラが大きいし、ポルトは闘気の放出が弱い。

 アリシュは魔素の放出が不安定で、ディアナも魔素にムラがある……。

 せっかく闘気も魔素も高水準なのに、活かしきれていない)


(そうです。もし全員が能力を最大限発揮できれば、計算上ではBランクパーティーと互角になります)


(ふむ……さて、どうしたものか)


(マスター、C級ダンジョンのボスを討伐するには、現状では実力不足です。そこで、ひとつ試したいことがあります)


(試したいこと……?)


 俺とステラは焚き火の前で、彼らに対する今後の方針について話し合った。



 テント前の焚き火のところへ行き、バックスに声をかけた。


「バックス、ちょっと話がある」


「はぁ? 俺は貴族だぞ。平民のお前が、気軽に話しかけるんじゃねぇ」


「バックス、見栄を張るな。魔獣から見れば貴族も平民も関係ない。弱ければやられるだけだ」


 その言葉に、仲間のポルトたちが小さく頷いた。


「バックス、テルトさんの話、ちゃんと聞こうよ」


「……ちっ。アリシュがそう言うなら聞いてやる。感謝しろよ」


 アリシュに軽く頭を下げると、彼女も小さく会釈してくれた。


「いいか。単刀直入に言う。君たちは弱い。このままじゃC級ダンジョンのボスは倒せない。

 これから、その原因と対策を話すから、耳をかっぽじって聞いてくれ」


 俺はステラと話し合った内容――彼らの闘気や魔素の問題点――を一人ずつ指摘していく。

 皆、真剣な表情で聞き入っていた。


「ここからが本題だ」


 俺はアイテムボックスからミスリル合金の棒を人数分取り出し、焚き火の明かりにかざした。


「これはミスリル合金だ。闘気や魔素を通しやすい性質がある。

 君たちは闘気と魔素の制御が甘い。まずはこれを使って感覚をつかんでもらう」


 俺は右手の二本に闘気を、左手の二本に魔素を流し、一本は右回転、もう一本は左回転にして空中で同時に回してみせる。


「す、すげえ……俺たちは浮かせるだけで精一杯なのに、こんなに安定させるなんて……」


 皆の目が驚きに見開かれる。


「闘気と魔素を制御できれば、ここまでできる。

 バックス、特にお前は闘気も魔素も強いんだ。両方を同時に操れるようになってもらう」


「けっ! お前、俺に命令するつもりか?」


「別に強制はしないさ。だが、やらなきゃボスは討伐できない。

 Dランクのままでいいなら好きにしろ。……けど、わざわざ大金を払って護衛を雇ったんだ。理由は明白だろ?」


 その言葉に、ポルトが口を開いた。


「……さすがだな、テルトさん。実は三か月以内にあのボスを倒さなきゃいけないんだ。

 これまでも護衛を頼んで挑戦してきたけど、一度も成功していない」


「それはそうだ。守られてるだけで強くなるわけないからな。――どうする、やるか?」


 バックスはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


「……わかった。テルト、お前が今までの冒険者と違うのはわかった。このままじゃ勝てないのも事実だ。……頼む、鍛えてくれ」


 その言葉に、ポルトたちが目を丸くする。だが、すぐに皆が頷いた。


「よし、決心がついたな。じゃあまずは一人ずつ、俺のテントに来てもらう」


「俺が一番に行く。リーダーだからな」


 バックスと一緒にテントへ入る。


「すぐに終わる。上半身の防具を外して、椅子に座って目を閉じろ。深呼吸しながら落ち着け」


 意外にも素直に従うバックス。

 俺は彼が目を閉じたのを確認し、気配を殺して横隔膜のあたりに貫手を打ち込んだ。


「ぐはっ!」


 声にならないうめきと共に、バックスは膝をつく。


「《メガ・ヒール》」


 淡い光が彼を包み、痛みを取り去った。


「お前……今、何をした?」


「安心しろ。特別な呼吸法を身につけるための処置だ。これで闘気と魔素の制御がしやすくなる」


 俺はミスリル合金の棒を一本渡した。


「さあ、闘気を流してみろ」


 バックスは集中し、棒に闘気を流す。

 すると、棒がゆっくりと浮かび、安定したまま空中に止まった。


「おお……浮いたぞ」


「よし、今度は右に回転させろ」


「……難しいな……」


 ぼやきながらも、棒はゆっくりと右回転を始める。


「できた……! 俺にもできるぞ!」


 興奮で集中が切れ、棒は地面に落ちた。


「気を抜くな、バックス。これからは闘気と魔素を同時に扱う訓練もしてもらう。これで、効果は時間できただろう。次の仲間を呼んできてくれ」


 バックスは力強く頷き、足早にテントを出ていった。


 最後のディアナへの施術が終わるころには、すっかり夜も更けていた。

 周囲の冒険者たちも、見張り役を残して次々と寝支度を整えていく。


 俺たちもテントに戻る。


(ステラ、うまくいったみたいだな)


(はい、マスター。皆、呼吸も安定しています)


(明日からは馬車の中で指導だ。ダンジョンに着くころには、だいぶ制御できるようになっているはずだ)


(ええ。それに、あの呼吸法にはもうひとつ仕掛けがありますから……楽しみですね)


(ああ、俺も楽しみだ)


 焚き火の残り香と、土と草の匂いに包まれながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。



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