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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第24話 翠光の迷窟への指名依頼

 ライゼンは満足そうに頷き、俺へと言葉を向けた。


「武器と防具の性能は、錬成した素材でほぼ決まる。ここまで来れば――そうだな。一週間後には仕上がる。取りに来い」


 そう告げると、ライゼンはサブリナのほうへ向き直った。


「よし、最高の素材ができあがったぞ。サブリナ、これがお前の処女作だ。……ここからは、これまで以上に厳しくいく。それが、お前さんが殻を破って一人前になった証であり、テルトへの恩返しだ」


「師匠、わかりました。自分、全力で取り組みます」


 そう言い放つと、二人は俺の存在など意にも介さず、一心不乱で作業へと没頭し始めた。


(ステラ、行こうか) (マスター、そうですね。お二人の邪魔をしては悪いので)


 俺は静かに、バイセンの工房を後にした。 完成が、ひどく楽しみだった。


 ――数日後。


 サブリナから完成の知らせを受け、俺は再び工房を訪れた。


「テルトさん、できあがりました」


 そう言って、サブリナは小走りで俺のもとへ駆け寄ってくる。


 まず、防具を手渡された。 形状は以前のものと同じ。だが色は黒に近く、光の加減によっては深い蒼にも見える、美しい仕上がりだった。


 さっそく装備してみると――違いは一瞬ではっきりとわかる。


「……すごい。魔素の増幅と高循環……魔素吸収が強化されてる。それに、自然回復まで付いているな……」


 俺の言葉に、サブリナが目を輝かせた。


「そうなんです。ミスリルを豊富に使って、魔結晶ではなくゴブリンの血晶核を採用しました。さらに、最上級のレア素材……アダマンタイト鋼と古龍骨も組み込んでいます。だから……Aランク冒険者でも上位の方が使うような性能になっているんです」


「本当に……すごい出来だ」


「それに、防具に魔素を流すとオートプロテクションが発動します。見た目以上に防御力がありますし、戦技を使うときの闘気チャージや、魔法詠唱の時間も短縮されます。……これも、素材融合による特殊付与です」


 身に着けているだけで、その性能がはっきりと伝わってくる。 ただ守るだけの防具じゃない。 まさしく――“戦う者のための鎧”だ。


 バイセンが胸を張り、誇らしげに言った。


「わしの愛弟子の、最高傑作だ。……正直に言おう。わしでも、これほどの物を打てる機会は稀じゃ。サブリナ、よくやったな」


「師匠……自分……やっと、自信が持てました」


 その佇まいは、もはや“弟子”ではなく、一人前の鍛冶師のものだった。


 次に、バイセンがもう一本――刀を差し出す。


「防具も大したものだが……この刀も、負けてはおらんぞ」


 俺はそれを受け取り、鞘から静かに抜き放った。


 ……息を呑む。


 刀身は黒。 刃は深い蒼。 そして刃文は、鮮烈な蒼光を帯びて揺らめいていた。


 構えた瞬間、防具と同じ“流れ”を感じる。 魔素と闘気が、刀身と共鳴しているのがはっきりとわかった。


「勘のいいお前さんなら、もう気づいとるじゃろ。この刀も防具と同じく、魔素と闘気を増幅させる。……それだけじゃない。魔素……いや、魔法を込めれば、魔法剣も可能じゃ」


 ――図書館で見た、日本語の古文書と同じ技術だ。 古龍骨を最後に混ぜ込む製法も、そこに記されていた。


 刀を見つめていると、バイセンが工房の奥にある中庭へと俺を導く。


「来い、テルト……試し切りだ」


 用意されていたのは、太い試し切り用の木だった。 俺は一度、刀を鞘へと納める。


 息を整え――


「……ヒュッ」


 居合の一閃。 風を裂く音とともに、すべては終わっていた。


「見事だな……」


 感嘆するように、バイセンが呟く。


「テルトさん! 早く、試し切りしてくださいよ!」


 興奮気味に、サブリナが声を上げた。 それを見たバイセンは、苦笑しながら言う。


「サブリナ……もう、切れておるぞ」


 そう言って、木を指で軽く突いた。 木は中央から斜めに割れ、静かに……音もなく、すうっと滑り落ちた。


「えっ……? ……自分、まったく……見えませんでした……」


 俺とバイセンは切り口を確認し――無言のまま、ゆっくりと頷き合う。


「サブリナ……こんなにも素晴らしい刀と防具を作ってくれて、ありがとう」


「はい……。自分……テルトさんと一緒に打てて、本当に……嬉しかったです。……こちらこそ、ありがとうございました」


 俺はサブリナ、そしてバイセンと固く握手を交わし――工房を後にした。


 ――――――――――


(マスター、新しい武器と防具が手に入って上機嫌のところに申し訳ありませんが……お金が、かなり減っています)


(そうだったな。バイセンへの支払いと宿代……確かに厳しい。……だが、ダンジョンやギルドは、カーチスの件もある。しばらくは避けたいところなんだが……)


(それでしたら、明日の朝一番に向かうのはいかがでしょう。朝は人が少ないです)


(……そうだな)


 ――翌朝。


 冒険者ギルドへ足を踏み入れる。 ステラの言葉どおり、人影はまばらだった。


 受付のロゼッタのもとへ向かうと、声をかける前に彼女がこちらに気づき、笑顔を向けてくる。


「おはようございます、テルトさん。……ちょうど良いところに来ました」


「おはよう、ロゼッタさん。“ちょうど良い”って……嫌な予感しかしないんだが?」


「テルトさんは、ギルドマスターからBランク冒険者として正式に認められていますよね。ただし……ランクを維持するためには、ギルド依頼を定期的に達成していただく必要があります」


「依頼……?」


「はい。通常は掲示板から選びますが……今回は、ギルドマスター直々の“指名依頼”です。……これを断ると、ランクは自動的に降格となります」


 指名依頼……か。 絶対に、面倒事にしかならないやつだ。


「なら、別に降格でいい。俺は他の依頼を受けるよ」


 そう言うと、ロゼッタの表情が一変した。


「えっ……!? そ、それは困ります……! テルトさん、地下訓練場での一件……覚えていますよね? あれが大事にならなかったのは、ギルドマスターの“口添え”があったからなんです。それを……」


 ぷくっと頬を膨らませるロゼッタ。


(ステラ……これ、かなり怒ってるよな?)

(マスター、外見は可愛らしいですが……身体反応的に“激怒寸前”です)


「……わかった。受ける」


 観念して答えると、ロゼッタは一瞬で笑顔に戻り、依頼書に判を押して手渡してきた。


「この依頼書、なくすと罰金ですからね。絶対になくさないでください」


「罰金……そんなルール、あったのか……」


 依頼書に目を通そうとすると、ロゼッタが続けて説明を始めた。


「依頼内容は、Dランクパーティーと同行して『翠光の迷窟』へ向かい、ボス討伐を目指す、というものです。緑色の鉱石が光る幻想的な洞窟ですが……内部は迷宮化しているので注意してください。入口で必ず地図を受け取ってくださいね」


「……同行ってことは、俺がボスを倒してもいいのか?」


「それはダメです。テルトさんの役割は、ボス部屋までの“護衛”です」


「じゃあ、パーティーがボスに負けたら?」


「その場合でも依頼自体は達成扱いになります。護衛完了で金貨十枚、討伐成功時は追加で四十枚です」


「……四十枚? ボーナスがでかすぎる。どう考えても怪しいな」


「そ……そうですね……」


 ロゼッタの視線が、あからさまに泳いだ。 やっぱり、裏がある。


「あっ……ちょうど、パーティーが来ました」


 ロゼッタは少し言いづらそうにしながらも、手を振って合図を送る。


「バックスさん。おはようございます。……護衛の方、見つかりましたよ」


(ステラ……“見つかりましたよ”って言い方、妙に引っかからないか?) (マスター……押しつけ案件の可能性が非常に高いです)


「遅いぞ、ロゼッタ。……ったく、やっと見つかったのかよ」


 現れた男――バックス。 年は二十代後半といったところか。 だが、態度がとにかく気に食わない。


「護衛する方は……こちらのテルトさんです」


 バックスは俺をじろりと値踏みするように見て、鼻で笑った。


「はぁ? なんだよ、ガキじゃねぇか。……護衛役ってのは、もっとガタイのいいベテランがやるもんだろ」


「バックスさん、失礼です! テルトさんはBランク冒険者なんです!」


「……なに? ……そうか。俺はバックス・ブリジアントだ」


「テルトだ」


 挨拶を交わすと、後ろに控えていた三人も名乗ってきた。


「悪いな、テルトさん。バックスは貴族なんだ。少し目に余るが……許してやってくれ。俺はポルトだ。こっちはアリシュとディアナ。二人とも魔法が得意だ。よろしく頼む」


 アリシュは落ち着いた雰囲気の女性で、知的な面差しをしている。 ディアナは明るく快活で、笑顔が印象的だった。


「よろしく」


「いいか、テルト……お前はランクが上らしいが、リーダーは俺だ。俺の指示に従え」


「構わない。だが、何か起きたら責任は取ってもらうぞ。……リーダーなんだからな」


「……何だと? 平民の分際で、貴族に向かってその口の利き方は――」


 言い終わる前に、バックスの拳が飛んできた。 ポルトが止める間もない。


 だが――遅い。


 俺は半歩、身体を引き、かわしながら背後へ回り込んだ。


「……速いな。まあ、試してみたが……腕は本物か」


(ステラ。面倒なのを押しつけられたな)

(マスター。ロゼッタさん、完全に“確信犯”ですね)


 横目で見ると、ロゼッタは気まずそうに、そっと視線を逸らしていた。


「とりあえず、座ろう。……飲み物でも飲みながら、お前たちのパーティー構成を教えてくれ」


 バックスは一瞬、拳を強く握りしめたが――力の差を悟ったのか、舌打ちして椅子に腰を下ろした。


「ああ……わかった」



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