第23話 炎と鉄の共鳴
工房に足を踏み入れると、バイセンは奥に向かって短く指示を飛ばした。
「サブリナ、これから若いのと一緒に打つ。作業着と道具を用意してやれ」
その声に応じ、奥から獣人の女性が姿を現す。
(ステラ、あれは何系だ?)
(マスター、濃い茶色から黒に近い髪質で、少しごわついています。頭の上には丸いクマ耳。尻尾も短めなので、猫系ではなさそうですね)
「テルト、こいつは弟子のサブリナだ」
「テルトさんですね。自分、サブリナです。よろしくお願いします」
「冒険者のテルトだ。よろしく」
俺が名乗ると、彼女は俺の冒険者プレートをじっと見つめた。
「えっ……その若さでBランクの冒険者なんですか? すごいですね」
言葉を交わすうちに、俺が自分を見つめていることに気づいたのか、彼女は小さく苦笑して口を開いた。
「あっ……自分、熊系です」
(クマ……確かに、言われてみればそんな雰囲気だな)
(マスター、体格はがっしりしていて筋肉質。背も高めなので、鍛冶師には非常に向いていそうです)
「悪い。つい、じろじろ見ちまって」
「大丈夫です。獣人の熊系は少ないですから。……さぁ、準備できました」
作業着を受け取り着替えたとき、俺の脳裏にMMORPGで鍛冶をしていた頃の記憶が蘇り、思わず身震いする。
――懐かしい。
だが……本当に、この世界でも通じるのか?
「バイセン、久しぶりだから、まずは手本を見せてくれないか」
「久しぶりだと? お前さん、そんなに若いのに、いつから鍛冶をやっとるんだ」
「子供のころからだ。親父が自分で装備を作っていてな、手伝ってた。でも……両親が亡くなってからは、ここ数年はやってない」
「なるほどな。そういうことなら――打ってやろう」
バイセンはミスリル合金や黒曜鋼、魔晶石を炉に投入し、一つの塊にして取り出すと、道具を握りしめ一気に打ち始めた。
(ステラ……打つ角度と強さで、錬成度と耐久度が変化しているな。これはMMORPGと同じ理屈だ)
(マスター、同意見です。現在のマスターの鑑定能力であれば、上限値も確認可能でしょう)
(……確かに見える。これなら、限界値までイメージ通りの物が作れそうだ)
見ている間に、バイセンは手本の工程を一気に打ち終えた。
「テルト、どうだ?」
「すごい……錬成度と耐久度が、完璧に釣り合ってる」
「ふははっ。そこまでわかるとはな、わしが見込んだ通りだ。――そこでだ。お前さんの製作費は格安にしてやる。その代わりにサブリナが打つ。その助手を、お前さんに頼みたい」
その言葉に、サブリナが慌てて声を上げた。
「師匠……自分が打つんですか?」
「そうだ。サブリナ、よく聞け。お前さんの腕前は、すでにわしのあとを継げるレベルだ。……だが、自分に自信が持てていない」
「自分が……悩んでいると?」
「そうだ。お前さんは気づいておらんが、剣に出とる。……まあ、いい刺激になると思ってやってみろ」
「……師匠、わかりました。これまで師匠の教えが間違っていたことは一度もありません。自分、頑張ります」
そう言って、サブリナは俺に手を差し出してきた。
「テルトさん、よろしくです」
「ああ、よろしく」
俺たちは工房の錬成窯に素材を投入する。
(ステラ……まず素材を融合させるための錬成窯か。……よく見ると、最上級クラスじゃないか)
(マスター、使用されている道具類も同等クラスです)
思わず、口元が緩んだ。
これは腕が鳴る。
「サブリナ、古龍骨は――最後に入れよう」
「え……? 自分、素材に投入順があるなんて……知りませんでした」
「普通は教わらないからな。これは俺の持論も入ってる。骨みたいに燃えやすい素材は時間差で入れたほうがいい。融合点が揃って、錬成度が跳ね上がる。……今だ」
窯の中で、素材が一瞬――金色に輝いた。
「この……金色……自分、初めて見ました……」
バイセンも腕を組み、深く頷く。
「なるほど……素材の融合点か。わしも光を見ることはあったが、それを狙って出すとはな……テルト、お前さん、錬金術の知識もあるのか?」
「まぁ……そんなところだ」
実際、俺には錬金術の基礎知識もある。
MMORPGでは最上級品を作るには複合スキルが必須だった。……どうやら、この世界でも通用するらしい。
サブリナが大金づちを振るい、俺が中型の金づちでそれを支えるように打つ。
「ホイサー! ホイサー! ホイサー!」
威勢のいい掛け声とともに、二人で刀を打っていく。
今のところ、仕上がりは上々だ。
バイセンが口にしていた“悩み”など、微塵も感じられない。
だが――仕上げに差しかかった瞬間、サブリナの打撃に微細な乱れが生じた。
「サブリナ……打撃にムラがある。このままだと、錬成度と耐性値が安定しないぞ」
「……でも……自分、これ以上、強く振れません……」
「無理に力を込めるな。心で振れ。そうすれば、力は自然と出る。……周りなんて気にするな。怖がるなよ。失敗したら――また、作ればいいんだ」
サブリナは、はっとしたように目を見開き、俺を見つめた。
その瞬間――彼女の顔から迷いが消えた。
長く胸の奥に燻っていた“自分への不信”という殻が砕け散り、新たな芯が芽生えたのを、俺は確かに感じ取る。
打ち込む力加減が一変する。
無駄が消え、迷いが消え、鋭く澄んだ音だけが工房に響き始めた。
「キィィン!」
心地よい金属音が、工房全体に響き渡る。
――これは、MMORPGで“会心の一撃”が出たときの音だ。
俺でも連続は難しい。なのに、サブリナは何度も、それを鳴らしている。
「キィィィン……!」
最後に、ひときわ澄んだ音が響き渡り、刀と防具の部位となる素材が完成した。
「サブリナ……こ、これは……すごいぞ」
「師匠……! やりました……!」
それを見届けたバイセンは、満足げに腕を組んで頷いた。
「わしがテルトをサポート役に選んだのは、間違いじゃなかったな」
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