第22話 受け継がれる炎
酒場で待っていると、カーチスが肩を落としながらこちらへ歩いてきた。
……なんだか、以前にも同じような光景を見た気がする。気のせいだろうか。
「待たせたな。こってりやられたよ。それに、障壁の弁償が痛いな……。まあ、それはいいとして――これを受け取ってくれ」
カーチスは手をかざし、空間の中から石と骨のような物体を取り出した。
その瞬間、空気がわずかに歪み、俺は思わず身を乗り出す。
「おおお……アイテムボックスか! 初めて見た」
「いや、興味あるのはアイテムボックスかよ。テルトは本当に面白いな」
「いや、この街に来てからは一度も見たことなかったからな。つい驚いたんだ」
「ははは、そうか。Aランク以上の冒険者なら、けっこう持っているぞ。……それより、これを見ろ。驚くなよ」
カーチスが差し出したのは、鈍く光る金属塊と、巨大な骨だった。
表面に淡い輝きを宿した金属は、ただの鉄とは明らかに違う重厚感を放っている。
骨の方は手のひらほどの大きさだが、そこから漂う威圧感は、かつての竜の咆哮を連想させた。
「これは……!」
「アダマンタイト鋼と古龍骨だ。武器と防具を壊した償いだ。受け取ってくれ」
(ステラ、これは……MMORPGの世界でも、上級者しか手に入れられないレア素材だよな? この世界でも高価なんだろう?)
(マスター、これらは、超高級素材です。これだけで白金貨五枚以上の価値があります)
(五千万円……そんなに高いのか……!)
「いや、こんな高価なものは受け取れない」
「テルトならそう言うと思った。だが、それでは俺の気持ちが収まらないんだ。君との模擬戦は、君だけじゃなく、俺にとっても貴重な経験になった。……おかげで、新しいエキストラスキルまで身についた」
「……そうか。わかった。有難く使わせてもらう」
俺は深く頷き、カーチスと再び強く握手を交わした。
「ん? この紙は?」
「ああ、それにはクラウンの場所が書いてある。テルトなら、いつでも歓迎だ」
「ふっ……俺の負けだな。気が向いたら、寄らせてもらうよ」
「きっとだぞ」
そう言い残し、カーチスは軽やかな足取りでギルドを後にした。
(ステラ、アイテムボックスの解析を頼む)
(マスター、すでに取り掛かっております)
カーチスとの模擬戦は、得るものが多かった。
だが、その反面……どうやら目立ちすぎたらしい。
翌日、冒険者ギルドへ向かった――だが、入口に入った瞬間、こちらに声を掛けようとする冒険者たちの視線を感じ、思わず引き返す羽目になった。
(ステラ、しばらく冒険者ギルドには行かない方がいいな)
(マスター、同意見です。それに、今は武器と防具が使えない状態……ほぼ丸腰です。ここはバイセンさんのところへ向かうことを推奨します)
(そうだな。カーチスからもらった素材もある。ちょうどいい機会だ)
武器防具屋に入ると、奥の部屋からバイセンが現れた。相変わらず、どこか面倒くさそうな表情をしている。
「ん? テルトか。ようやく来たな。遅いぞ」
「遅いぞって……」
「いいから、まずは武器と防具を見せてみろ」
言われるまま、アイテムボックスから壊れた刀と防具を取り出す。
「ほぅ……アイテムボックスを使えるようになっているとはな。それに、この武器と防具は……」
バイセンはそれらを受け取り、じっくりと確認して顔をしかめた。
「お前さん、一体何があった?」
俺はこれまでのダンジョンでの戦いや、カーチスとの模擬戦について一通り説明した。
バイセンは黙り込み、しばらく腕を組んで考え込む。
「なるほどな。ここに来た理由もわかった。……で、お前さんが持っている素材を見せてみろ」
言われ、アイテムボックスから用意していた素材を取り出す。
「ふむ……魔気染めの筋繊維、黒鉄染の爪片、ミスリル繊維、ミスリル合金、黒曜鋼、ゴブリンの血晶核。それから……アダマンタイト鋼と古龍骨。さらに、魔増の指輪と魔導圧縮の指輪か。……これらも使えそうだな」
バイセンは目を細め、俺をじっと見据えた。
「前に会った時とは、まるで別人だ。昨日の話は聞いているぞ。……カーチスとの噂話は本当のようだな」
「それで、その素材を使って、新しい刀と防具を作れないか?」
「作れるぞ。ただし条件がある。製作には、お前さん自身が俺の助手につくことだ」
「……助手?」
「ああ。初めて会ったときから思っていたが……お前さん、鍛冶と彫金の知見があるだろう?」
さすがはバイセンだ。
なぜそこまで見抜けるのかは分からない。だが、俺にはMMORPG時代に鍛冶と彫金をやり込んだ経験がある。
しかも、アダマンタイト鋼を扱ったことすらあった。
(ステラ……俺の技術は、この世界でも通じるのか?)
(マスター、戦技や魔法が通用しています。鍛冶の知識と技術も同様に通用する可能性が高いです)
……確かに、ステラの言う通りだ。
「わかった。それで頼む。……で、費用はいくらだ?」
「そうだな。基本の素材代は必要になるから……金貨四十枚だ」
「……わかった」
正直、手持ちに余裕はない。
だが、ここで出し惜しみする理由もなかった。
バイセンは指で合図し、俺を地下の工房へと案内する。
階段の下からは、鉄と火の匂いが濃く立ちのぼっていた。
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