第20話 漆黒の闘技場
「テルトくん、部下たちの無礼、すまない。俺は『竜翼の盟約』でリーダーをやっているカーチスだ」
その言葉に周囲の冒険者たちがざわついた。
「俺、初めて見たよ……」
「いよいよリーダーの出番か」
そんな声が飛び交う中、異変に気づいた男たちが慌ててカーチスのもとへ駆け寄ってきた。
「カーチスさん、すみません!」
「おい、謝る相手が違うだろう。まずはテルトくんとロゼッタさんに謝れ。それから本部に戻れ。お前たちは再教育が必要だな」
男たちは俺とロゼッタに深々と頭を下げ、そそくさと部屋を後にした。
「気になって様子を見に来たら、このざまか……やはり再教育が必要だな」
カーチスはそう呟くと、俺の方を見て笑った。
「テルトくん、詫びを含めて飯をおごらせてくれ。それくらいは、いいだろう」
そう言って、俺を席へと案内する。
(ステラ、カーチスはうまいな。人を操る術を知っている)
(マスター、同感です。交渉術に長けています)
(それと、『竜翼の盟約』についてわかるか?)
(『竜翼の盟約』は二十年前にできたクラウンで、人気はあるのですが……最近は伸び悩んでいるとの情報を入手しています)
(なるほど、わかった)
席につくと、カーチスは手早く注文を済ませた。
「さて、先ほどはすまなかった」
「そうだな。まぁ、気にするな」
カーチスは真剣な眼差しで俺を見据える。
「実際に会ってみてわかった。その若さでBランク――良い感じだ。闘気と魔素がしっかり鍛錬されている。君のような性格なら、率直に話した方がいいな。どうだ、俺たちのクラウンに入らないか?」
「『俺のクラウン』じゃなく、『俺たちのクラウン』か。きっと、いい感じのクラウンなんだろうな……初めのうちは」
カーチスの目が泳ぐ。
「初めのうちは?」
「ああ。さっきの連中の態度を見ればわかる。初めの頃は気楽で楽しくやっていたんだろうが、有名になって人が増えた。だから古株と新参者の間に壁ができている。ノルマを課しているあたり、結果を求める古株と、結果を出せない新参者とでうまくいってないんじゃないか?」
カーチスの目が大きく見開かれ、驚きを隠せていない。
「こいつは驚いた。なぜ、それを……」
「まぁ、クラウンのリーダーをやっていればよくある話だ。そういうときは古株と新参者を同じパーティーに入れて、ダンジョンに放り込めばいい。嫌でも絆が深まるぞ」
カーチスはしばし黙り込み、考え込んだ。
「……確かに。それはいい案だ。ありがとう、助かった」
そう言うと一度立ち上がり、しかしまた腰を下ろす。
「いや、そういう話を聞きたいだけじゃない。俺は君を勧誘しているんだ」
「カーチスさんって、意外と面白い人ですね」
カーチスは苦笑を浮かべる。
「うーん……俺の印象は最初と変わったぞ。初めは才能に恵まれたユニークスキル持ちの若者かと思っていたが、違うな。正直、俺より年上か、もしくはクラウンリーダーを経験したことがあるような話しぶりだ」
「そうかな。本をよく読むから知識があるだけだよ」
「ははは。知識は宝だと言うが……君はそれ以上のものを持っている。テルトくん、改めて言う。俺たちのクラウンに入ってほしい」
カーチスは頭を下げた。
「頭を上げてくれ。俺に泣き落としは通じないぞ」
「やっぱりダメか……。ならば、君がランバート教官や氷華の舞姫セリーナと模擬戦をしているのは知っているぞ。どうだ、Aランクの俺と模擬戦してみて決めないか?」
「Aランクの人と訓練場で模擬戦なんてしたら、目立つからやめておく。俺は目立ちたくない」
「ははは、目立ちたくないか……にしては、ダンジョンじゃ派手に暴れているようだがな。だが心配するな、俺には目立たない手段がある。それに俺が君の実力を認めれば、素材をあげよう」
(ステラ、どう思う?)
(マスター、Aランク者――いえ、カーチスはSランクと言ってもよい実力者ですので、彼との模擬戦は魅力的です。それに素材……気になりますね)
(じゃあ、やってみるか)
(はい、ステラにお任せを!)
「目立たないってことが確認できれば、模擬戦をやろう」
カーチスは大きく頷いた。
「よし、やろう。実は勧誘以上に、君の実力が知りたかったんだ。どうやって模擬戦を受けてもらうか、ずっと考えていたんだよ。――さぁ、ついてきてくれ」
カーチスは受付でしばらく話し込み、その後、俺を地下の訓練場へと促した。
カーチスは訓練場で一番広い闘技場へ俺を案内した。
「ここでやろう。準備をするから、待っていてくれ」
そう言うと、闘技場の隅に魔晶石を次々と置いていく。
それを見ていた冒険者たちがざわつき始めた。
「おい、あれを見ろよ。『竜翼の盟約』のカーチスだ」
「それに……相手はテルトじゃないか!?」
「なにっ、注目のクラウンと話題の新人が模擬戦をやるのか!」
(ステラ、なんだか騒がしくなってきたけど、大丈夫か?)
(そうですね。でも、ここはカーチスさんを信じましょう)
周囲の喧騒など意に介すことなく、カーチスは淡々と魔晶石を並べていく。
「さて、外野は騒がしいが……任せてくれ」
カーチスは魔素を高め、重々しく詠唱した。
「《ギガ・ダークネスホール》」
闘技場を覆う物理魔法障壁の上から、漆黒の膜が広がっていく。
「これで外からは中の様子は見えなくなった。《暗視》スキルは使えるな?」
「ああ、使える」
(ステラ、こんなこともあるかと思って《暗視》を覚えておいて良かったな。それにしても……ギガ級の魔法は初めて見たが、魔素の錬成はまさにイメージ通りだ)
(マスター、そうですね。これならマスターもギガ級の魔法や戦技を使えそうです)
(ああ、この模擬戦で試してみるか)
(マスター、サポートします!)
障壁の中は漆黒の闇に包まれていたが、《暗視》スキルのおかげで問題なく見える。
「さて、準備はいいか。クラウンからBランクの治癒士を呼んである。だから真剣でいくぞ」
「ああ、構わない」
「コインを投げる。地面に落ちた音が合図だ――いくぞ!」
カーチスは硬貨を天高く投げた。
『チンッ』
金属音が響いた瞬間、カーチスが素早く動く。
だが、ここは暗闇だ。俺には明るく見えているが、逆にその特性を利用できるはずだ。
「《メガ・フラッシュ》!」
眩い閃光がカーチスの目前で炸裂した。
(マスター、完璧なタイミングです!)
ここぞとばかりに刀を振り下ろす――が、カーチスにあっさりと剣で受け止められる。
「なっ……!」
「ははは、中々いいアイデアだ。この闇の中での閃光は目くらましにはもってこいだ。だが……俺には通じん」
カーチスは予測していたように、盾で閃光を防いでいた。
「戦技《真空烈風斬》!」
刹那、真空を切り裂く斬撃が襲いかかる。
俺は刀で受け止めたが、圧倒的な威力に弾き飛ばされた。
「くっ……! なんて威力だ。これがAランクの力か!」
「まだまだだぞ。――もっと来い!」
「それなら……これでどうだ!」
魔素を練り上げ、一気に放つ。
「《ギガ・ファイアボール》!」
紅蓮の巨大な球体が生まれ、隕石のごとくカーチスへと落ちていく。
「戦技《魔断流翔》!」
カーチスの一閃が魔素の流れそのものを断ち切った。
《ギガ・ファイアボール》は真っ二つに割れ、飛び散った炎は瞬く間に掻き消える。
「なに! 盾でなく、剣で……」
「これはすごいな……クラウンの仲間でも、ここまでの魔法を撃てる者はほとんどいないぞ」
「こっちこそ驚いた。ギガ級の魔法を、そんな形で防ぐなんて……」
(ステラ、気づいたか?)
(はい。カーチスはマスターが魔法を放つ前から、すでに戦技を放つために闘気を集中させていました)
(やっぱりか……何か仕掛けがありそうだな)
もし少しでも楽しんでいただけたら、リアクションや★、ブックマークで
応援してもらえると励みになります。
皆さんの反応が、次話を書く原動力です。




