第2話 教会での目覚めと未知の言語
(……マスター、マスター)
頭の奥に、どこか懐かしい声が響いた。――ステラの声だ。
その呼びかけに引かれるように、ゆっくりと意識を浮上させた瞬間、左肩に鋭い痛みが走る。
「いててて……夢じゃなかったのか」
(マスター、目を覚ましてくれて何よりです)
ステラの声はいつも通り落ち着いているが、まだ頭はぼんやりしていて思考がうまく回らない。
(ステラ、ここはどこだ? それに、あれからどうなった?)
(落ち着いてください、マスター。ここは教会の病室です。マスターは馬車の前で倒れた後、冒険者たちに救助され、応急処置を受けました。しかし、矢に塗られていた毒と麻痺の影響で、一週間も昏睡状態にあったのです)
(一週間……?)
言われてみれば、体がやけに重い。毒と麻痺――生死を分けるレベルだ。助かったのが奇跡だと、素直に実感する。
そのとき、扉がノックされ、ゆっくりと開いた。
「%%%%%%%」
入ってきたのは、シスター服のような衣をまとった女性。
俺が目を覚ましているのを見ると、驚いたように息をのむ。
「%%%%%%%%%%%」
……聞き取れない。発音からして、まったく知らない言語だ。
「すみません。何を言っているのか、わからないんですが……」
俺の言葉を聞いた彼女は困ったように眉を下げ、うまく伝わらない様子で立ち尽くす。
(ステラ、どうなってるんだ?)
(ご安心ください、マスター。この一週間で現地言語の解析が完了しました。これよりマスターの意識にリンクし、言語共有をダウンロードします)
(言語共有?)
(はい。脳へ直接データを同期し、聴解と会話を可能にします)
理解が追いつかないが、今はそれに頼るしかない。
「えーと……こんにちは」
改めて彼女――シスターを見ると、優しげな笑みを浮かべて答えた。
「ふふ、こんにちは。混乱されていたようですね。一週間も眠っていたのですから無理もありません。気がついてくれて、本当に良かったですよ」
「……そうだったのか」
「ええ。私はカトリーナと申します。まずは傷の具合を見せていただけますか?」
「お願いします」
ベッドに身を預けると、カトリーナは包帯をほどき、慎重に肩の状態を確認する。
「良かった。メガ・ポーションを使ったおかげで、状態はとても良好です。麻痺は完全に抜けていますし、毒による壊死の兆候もありません。それにしても、治りが早いですね。あの矢に使われていた毒は、パラヴェノムスネーク――Bランク魔獣のものだったようです」
「パラ……何だって?」
「パラヴェノムスネーク。Bランクの魔獣です。その毒をDランク程度のゴブリンが使っていたとあって、冒険者ギルドでも話題になっていましたよ」
「……なるほど」
聞き慣れない言葉ばかりだが、ここが異世界である決定的証拠とも言える。
「この様子なら、もう食事も取れますね。すぐに持ってきます」
そう言ってカトリーナは部屋を出ていった。
(ステラ、どうして言葉がわかるようになったんだ?)
(この一週間、ここを訪れる人々の会話を傍受・蓄積し、言語データを解析しました。適応はすでに完了済みです)
(なるほど……ステラ、本当に頼りになるな」
(ありがとうございます。それとゴブリン戦闘のデータから、マスターの体に合わせて治癒力・免疫力・筋力・五感の強化も行いました)
(それで早く回復したのか……」
そこへ扉が開き、カトリーナさんに続いて、猫耳をつけた獣人の少女が食事盆を持って入ってきた。
――猫耳。獣人。
本来なら驚くはずなのに、不思議とすんなり受け入れている自分がいる。
「栄養たっぷりの食事ですよ。しっかり食べて、闘気をつけてくださいね」
闘気? また未知の単語だ。
二人は微笑みながら部屋を後にする。
食事を前にしながら、俺はここに至るまでの出来事を整理する。
制御室――あの閃光――そして森での目覚め。
ゴブリンとの死闘。
馬車の人々に救われ、この病室で意識を取り戻した。
「どうやら、ゲームみたいな世界……いや、完全に異世界ってやつだな」
(マスター、私の解析でもその判断が最適です。状態としては“異世界転移”が該当します)
その言葉に、胸の奥にわずかな不安がよぎる。
だが、それ以上に――静かな高揚感が湧き上がってくるのを感じていた。
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