第19章 ギルドに渦巻く不穏な気配
「なかなか良い収穫だったな」
(マスター、これまで以上の情報量を得ました。特に、元の世界の言語で書かれていた本は大変有意義でした)
「ああ、驚いたよ。それに――俺たち以外にも、元の世界からこっちに来た人間がいることがわかったな」
(そのようです)
「それはそうと、本の解析を頼む」
(マスター、すでに解析に着手しています。新たな情報量が多いため、解析には日数を要します)
「わかった。頼むよ」
部屋の明かりを落とし、俺は厚い毛布に身を沈めた。
胸の奥で、得た知識がじわじわと熱を帯びていくのを感じる。
――何かが大きく動き出す予感。
それを胸に抱きながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
「ふぁ……よく寝たな」
窓から差し込む朝の光が、布団の隙間をやわらかく温めていた。
(マスター、おはようございます。昨日の解析の一部が完了しました。マスターの意識にリンクし、情報をダウンロードします)
「おお……すごいな、これは。俺が知りたかったのは、まさにこのことだ」
(はい。これでマスターがMMORPGで培った経験が活かされると推測します)
「そうだな。じっとしていられない……冒険者ギルドの訓練場で試してみよう」
荷物を整え、俺は勢いよく宿の扉を押し開け、そのまま冒険者ギルドへと足早に向かった。
ギルド内へ足を踏み入れると、いつも通りの喧騒が耳を打つ。
(ステラ、なんだか騒がしいな)
(マスター、原因はロゼッタさんのほうにあるようです)
促されて視線を向けると、ロゼッタのもとへ数人の男たちが詰め寄っていた。
「いい加減、テルトがどこにいるか教えてくれよ。俺ら『竜翼の盟約』が信用できないのか?」
「そういう問題ではありません。冒険者ギルドはクラウンメンバーの斡旋をしているわけではありません。何度も言わせないでください」
「いいだろう、居場所くらい教えても。今月のノルマが達成できなくて必死なんだよ」
ロゼッタは怯むことなく、毅然と応じる。
「あなたたちのノルマは私たちには関係ありません。それに、クラウンへの強引な勧誘は禁止されています。居場所すら掴めないようでは、冒険者が聞いて呆れます。これ以上続けるというのなら、正式にクラウンリーダーへクレームを入れます」
その一言に、男たちはたじろいだ。
「くそっ……ロゼッタ。覚えていろよ」
「今の言葉は聞き捨てなりません。職員への脅迫は重罪です。この件はギルドマスターへ正式に報告します」
「なにっ、それだけはやめてくれ!」
「でしたら、速やかにお引き取りください」
「……わかったよ」
男たちは周囲を睨みつけるように吐き捨てる。
「おい、『竜翼の盟約』が通るぞ。お前ら、道を開けろ!」
見ていた冒険者たちは関わりを避けるように、無言で道を開けていった。
満足げに歩き出した男たちは、出入口へ向かう途中で、俺の目の前に立ち止まった。
「そこの若造、どけ。俺たちが誰だかわからないのか?」
「知らんがな」
「はぁ? なんだその口の利き方は。俺たちは『竜翼の盟約』のメンバーだ。お前みたいな若造じゃ、せいぜいEランクだろう。Cランクの俺たちに道を譲るべきだろうが」
そう言って、ニヤニヤと笑う。
「『竜翼の盟約』? 聞いたことがないな。それに、俺はBランクだ」
冒険者プレートを見せると、男たちは顔を見合わせ、目を見開いた。
「なに……? その若さでBランクだと? そんな冒険者は聞いたことがない。――さては、そのプレートは偽造だな。偽造は重罪だ。おい、こいつを捕らえるぞ!」
「呆れたな。ロゼッタさん、俺、間違いなくBランクですよね?」
声をかけると、ロゼッタが呆れ顔のまま、こちらへ足早に歩み寄ってきた。
「もうっ、テルトさん! 私が居場所を教えないように必死で頑張っていたのに、ここで揉め事を起こしてどうするんですか……あっ」
そう言い残し、「あとはご自由に」と言わんばかりに受付へと戻っていった。
その反応に男たちも気づいたのか、慌てて態度を変える。
「はぁ? こいつ……いや、この人がテルトさん? 人が悪いなぁ。最初からそう言ってくれればよかったのに」
「それで? いい加減、通してくれないか」
無視して進もうとすると、男たちは再び目の前に立ちふさがった。
「そうはいかないな。やっと会えたんだ。俺たちのリーダーが会いたがっている。Bランクとはいえ、俺たちに勝てるはずがない。少々手荒になるが、来てもらうぞ」
(ステラ、これはクラウンへの勧誘か?)
(マスター、その通りです。ただ――彼らはマスターを見くびりすぎています)
珍しく、ステラの感情に怒気のようなものが混じった。
だが、それ以上に――ロゼッタさんへの態度は許せなかった。
「うるさい。いいから道を開けろ」
「そこまでコケにされるとはな!」
男たちが一斉に殴りかかってくるが、その動きは驚くほど遅かった。
(マスター、ダンジョンでのボス周回により、さらに生命力が向上しています。手加減して対応することを推奨します)
助言に従い、拳をかわしながら、流れるように体を動かす。
そして――軽く手加減したまま、男の身体を掴み、窓の外へと投げ飛ばした。
「あっ!」
思わず声が漏れる。
……まさか、あそこまで軽々と人が飛んでいくとは思わなかった。
投げ飛ばされた男は、そのまま反対側の道端まで吹き飛んでいった。
その光景を目にした別の男が、青ざめた顔で慌てて声を上げた。
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