第14話 連携の試練
あれから、いったい何体の魔獣を倒しただろうか。
最初の頃は、息が上がるだけで精一杯だったはずなのに――今では、戦闘を終えてもまだ余力が残っている。
「……そろそろ飽きてきたな」
(マスター、初戦から既に一日弱が経過しています。三層に戻り、休息を取ることを推奨します)
「えっ……そんなに?」
知らぬ間に、時間がするりと過ぎていたらしい。
戦いながら、つい昔やっていたMMORPGを思い出していたせいで、現実感が薄れたのかもしれない。
セーフティエリアに戻り、短い眠りをとったあと、周囲を見渡す。
ソロの冒険者は……ほんの一割ほど。
この世界でも、結局のところ“連携こそが生存の鍵”らしい。
かつてのMMORPGではパーティーを組むのが当たり前だった。
仲間と息を合わせ、強敵を前に声を張り上げ、勝利を分かち合った――
あの頃は、楽しかった。
そんな思い出に浸りつつ、焼いたパンと干し肉を噛みしめていると、不意に声が飛んできた。
「食べてるところ悪いが……君。ゴブリンに襲われて、馬車に助けを求めたことはないか?」
「あっ、あります」
返事をした瞬間、男の表情に安堵が広がった。
「やっぱり君だったか。あの時、君は矢にやられて猛毒が回っていた。俺たちが馬車を飛ばして教会に運んだんだ。助かってよかったよ」
「……本当にありがとうございます」
深く頭を下げると、男の仲間が数人近づいてきた。
「挨拶が遅れたな。俺はダニエル、《白竜の翼》のリーダーだ。このエルフがスコット。あとはセシリアとルミナスだ」
それぞれが軽く手を挙げたり、柔らかな笑みを向けてくれる。
「俺はテルトです。その節は、本当にお世話になりました。おかげで命拾いしました」
丁寧に礼を述べると――なぜか一同、ぽかんとした顔。
その中で、ダニエルが苦笑しながら言う。
「テルト。君、礼儀正しいな……いや、若さに似合わない言葉づかいというか。不思議な人だ」
「よく言われます。外部との接触が少ない森で育ちまして。それに、母が礼儀に厳しい人だったので」
「そうか……悪いことを聞いたな」
「いえ。お気になさらず」
ダニエルは一度頷くと、鋭い目つきでこちらを見据えた。
「昨日、四層で見たぞ。君、ソロでオークを狩っていたよな。……どうだ、うちのパーティーに入ってみないか?」
(ステラ、どう思う?)
(マスター。一度パーティーに加入し、実戦で経験を積むことを推奨します)
(……そうだな)
「俺でよければ、よろしくお願いします」
加入してみて気づいたのは――彼らが“本当に良いパーティー”だということ。
ダニエルは盾役として前線を維持し、敵の攻撃を引き受ける鋼の壁。
その後ろからスコットが両手斧を振るい、豪快な一撃で敵の生命力を削る。
セシリアは高火力魔法、ルミナスは癒しの支援と強化を担当。
役割が明確で、動きも洗練されている。
……それは、まさに俺がかつて慣れ親しんだ“ゲームの理想パーティー”そのものだった。
(ステラ、パーティーに入って正解だったな。すごく勉強になる)
(“百聞は一見に如かず”ですね。本で得られない経験こそが、真の力です)
四層に到着し、全員が装備とスキルを再確認していると、ダニエルが一体のコボルトを連れてくる。
「皆、いくぞ!」
号令とともに、鋭い視線と身振りでダニエルが《挑発》を発動。
コボルトがわずかに怯んだ瞬間、スコットの斧が唸りを上げる。
続けてセシリアの《ファイアボール》が炸裂。
爆炎が揺らめく中、俺も刀を走らせ――赤熱した刃で一閃。
コボルトは悲鳴をあげる暇もなく、灰となって消えた。
「すごいな……コボルトが一瞬か」
感嘆したダニエルに、ルミナスが落ち着いた声で続ける。
「ダニエルが引きつけ、スコットが削り、セシリアが畳みかけた。……でも最後の決め手はテルトくんだったわ」
セシリアが微笑む。
「ボス戦も行けそうね」
「まだ一戦目だ。もう少し様子を見ておこう」
ダニエルが冷静に告げた、その直後――
「しまった! オーク三体がリンクした!!」
ダニエルの焦り声。
視界の奥、三方向から影が迫る。
(ステラ、全力でサポート!)
(了解しました、マスター)
《鑑定》――前方にオークソルジャー二体。後方には……オークマジシャン。
最優先で潰すべきは、あいつだ。
「ダニエル! 前の二体は任せる! 後ろの魔法使いは俺が行く!」
「テルト、頼んだ!」
即座に詠唱を叩き込む。
「《ファイアボール》――連続詠唱ッ!」
五発の炎球が連射され、凄まじい勢いでオークマジシャンを焼き貫く。
爆音が連続で響き、黒煙が立ち昇り――断末魔が掻き消えた。
「……すごい」
セシリアの呟きが聞こえるが、今は振り返らない。
「セシリア、右のオークに魔法! スコット、左を頼む! ルミナス、ダニエルの回復を優先!」
号令に、全員が即座に動く。
(よし……押し切れる!)
「戦技《真空斬》! スコット、回復だ――《メガ・ヒール》!」
鋭い一閃と緑光の治癒が重なり、スコットの傷が瞬時に塞がる。
数息の後――三体のオークは完全に沈黙していた。
ダニエルが胸を上下させながら振り返る。
「テルト……君がいてくれて助かった。前の俺たちなら、転移石で逃げるのが精いっぱいだっただろう」
セシリアも目を丸くしながら微笑む。
「テルトくん、すごすぎるわ。あれだけ冷静に指示できるなんて……《連続詠唱》も、普通はできないのよ?」
スコットが豪快に笑う。
「攻撃も回復も戦技まで……万能すぎるぞ、お前!」
ルミナスがぽつりと呟く。
「噂で聞いたことがあるわ。
ランバート教官と“氷華の舞姫”セリーナを本気にさせた新人がいるって……きっとテルトくんのことよね」
「……あまり目立ちたくないので、周りには内密でお願いします」
ダニエルが肩を揺らしながら笑った。
「テルト。それはもう――十分すぎるくらい目立ってるぞ!」
その言葉に、全員が思わず笑い合った。
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