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異世界転移したら、世界を統治していた超AIが俺の頭の中にいた件  作者: 月詠 神路


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第12話 恐怖を越える刃

 洞窟に足を踏み入れた瞬間、ひやりとした湿気が肌を撫でた。暗闇を想像していたが、内部は意外にも柔らかな光に包まれている。


「思っていたより明るいな」


(マスター、壁面に生えているヒカリゴケの光です。育成密度の高い部分は採取価値があります。忘れず回収を)


 ステラの助言に従い、アイテムバッグから空瓶を取り出して光る苔を丁寧に削ぎ取る。青白い光が瓶の中でふわりと揺れ、まるで小さなランプのようだった。


「よし、進もうか」


 やや起伏のある通路を抜けた先で視界が一気に開ける。

 広い空間――そこではすでに数名の冒険者が魔獣と交戦していた。

 鋼がぶつかり合う金属音、魔法の輝き、獣の咆哮が響き、空気が戦いの熱で震えている。


「なるほど。ここからが本番ってわけか」


(マスター、ダンジョンマップの解析が完了しました。意識にリンクさせます)


 視界の端に青白い光が広がり、地形や自分の位置、敵の存在が半透明のマップとして重なる。


「たしか、敵意のない存在は青。敵意があるものは赤で表示されるんだよな」


(そのとおりです)


 奥へと進むと、赤い点がひとつ、こちらへ向かって滑るように接近してくる。


(マスター、ワイルドラビットです。Eランクですが油断は禁物です)


「ワイルドラビットか。ウサギっぽいが……中型犬くらいあるな。まあ、ゲームで見る雑魚モンスターみたいなもんだ」


 距離を測り、詠唱に入る。


「《ファイアボール》!」


 掌から放たれた火球が空気を焼き裂き、ワイルドラビットへ一直線に飛ぶ。

 次の瞬間――。


 轟ッ!


 火球が炸裂し、魔獣は炎に包まれ悲鳴をあげながら吹き飛ぶ。


「ギュウウウッ!!」


 黒煙を上げて消滅し、足元には魔晶石と肉片が転がった。


「本当にゲームの世界だな」


(マスター、ドロップ品の回収を推奨します。すでに所持金が尽きています)


「あ、そうだった」


 慌てて拾い集め、アイテムバッグへ放り込む。


 その後も、ワイルドラビット、ジャイアントラット、ウルフへと順調に討伐を重ねた。

 剣を振るうたびに獣が倒れ、魔法を放つたびに敵が吹き飛ぶ。


(マスター、魔獣は一定間隔で再出現します。引き続き支援します)


 淡々と討伐を続けていると、周囲から冒険者たちの視線を感じ始めた。

 “狩られすぎだろ”と言いたげな空気が流れてくる。


「ステラ、下の階層に移動しよう。魔獣を即座に倒しすぎて、他の冒険者の狩場を奪ってる。このままだと迷惑だ」


(マスター、同意します)


 軽く頭を下げてから階段を降り、第二層へ。


 ここからが地下二階か。


 地下一階よりはるかに広大で、視界の端がぼやけるほどだ。

 ところどころに袋小路があり、複数のパーティーが陣取りながら魔獣の誘引狩りを行っている。


「なるほど。袋小路で安定して狩ってるわけか」


(複数パーティーが配置されています。計画的ですね)


 そんな会話をしていたときだった。


 視界の端に、すばやく動く小柄な影が映る。

 弓を持ち、ギョロリとした黄色い目――見間違えようもない。


 ゴブリン。


「ゴ、ゴブリン……」


 胸の奥が凍りつき、息が止まった。足が勝手に後退る。


(マスター、心拍数と血圧が急上昇。身体が硬直しています)


「だ、だめだ……あの時の……逃げなきゃ……早く……!」


 過去の記憶が蘇る。

 あの日、自分の無力さを思い知らされた、あの瞬間。


 喉が閉まり、思考がかき乱される。


(マスター、落ち着いて。今のマスターは、あの時とは違います)


「それでも……だ、だめだ……!」


 ゴブリンが弓を引き絞る。

 狙いは――俺の胸。


「――や、やられる」


 シュッ!


 矢が飛来し――。


『カン!』


 甲高い音が響き、矢は胸当てに弾かれて地面に転がった。


「……っ、これは……?」


(マスター、訓練を思い出してください。ランバート教官との実戦訓練。セリーナさんとの模擬戦。あなたはもう、ただ怯えるだけの存在ではありません)


 ステラの声が静かに、しかし力強く胸へ染み込んでいく。


(今、戦闘経験を完全リンクします……マスター、集中を)


 視界が一瞬だけ鋭く変わった気がした。


「ステラ……ありがとう。――俺は、できる!」


 足を踏み出す。

 刀を握る手に迷いはない。


「戦技《真空斬》ッ!」


 刀を振るった瞬間、周囲の空気が震えた。

 圧縮された風の刃が一直線に走り、ゴブリンを音もなく両断する。


 緑の体が遅れて崩れ、黒い煙となって霧散した。


(マスター、お見事です)


「ありがとう。ステラ、いくぞ」


 恐怖の鎖が断ち切れた瞬間、胸の奥で何かが燃え上がるのを感じた。


 反撃開始だ。


 広場中央へ踏み込み、次々と現れる魔獣たちを斬り伏せる。

 斬撃と魔法が織りなす閃光が連続し、火花と衝撃が空気を振動させた。


 黒い影、灰色の牙、赤い瞳――すべてが一瞬で切り裂かれ、吹き飛ぶ。


「ステラ、ちょっとやりすぎじゃないか? スキル使いすぎると目立つ」


(ご安心を。このルートは袋小路から離れています。他の冒険者には見られていません)


「そうか――ならいい」


 魔獣を倒しては魔晶石を拾い、次の敵へ。

 その作業はもはや作業ではなく、自分の成長の実感そのものだった。


 こうして俺は足を止めることなく、地下三階を目指して歩を進めていく。



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