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recar  作者: 槻白かなめ
3/3

2話

 入り口は巨大な鉄の門で閉ざされていて、簡単には入れそうにない。門の手前には苔むした石段が続き、その両脇には赤と青の門番が立っていた。シウとリヒトが近付くと、二人は中央に集まり、持っていた槍を軽く打ち合わせて挨拶の合図とする。


「お帰りなさい。シウさん、リヒトさん。任務お疲れ様です」


 左に立つのは、青い衣服を身にまとった少年、エンテ=イデアール。ネイビーの髪が風に揺れ、笑顔を浮かべながら二人を迎える。魔導士で、シウより二つ年下だ。背は低めで、顔にはまだ幼さが残っている。密かに魔法剣士であるリヒトに憧れていて、いつか自分もああなりたいと夢見ているらしい。そんなエンテが、柔らかな声で続ける。


「いやあ、今日も天気が良くて助かりますね。門番してると晴れの日が一番ありがたいんですよ」


 リヒトが軽く頷きながら応じる。


「ああ、お前もお疲れさん。門番は大変だな」

「いえいえ、これも仕事ですから。苦にはなりませんよ。それに、晴れてると気分もいいですし」


「真面目だな、エンテは。偉いぞ」とリヒトが褒めると、エンテは照れたように目を細めて笑う。


「いえ、そんなことないですよ。リヒトさんに比べたら全然ですって」


 その様子を横で見ていたシウは、リヒトとエンテのやりとりに少しだけ疎外感を感じていた。リヒトへの風当たりが自分と違う気がして、内心で「いい顔しやがって」とつぶやく。だが、そんな気持ちを隠して、右に立つもう一人の門番に目を向けた。


「アレドもお疲れ、だな」


 名前を呼ばれた瞬間、ラセットの髪をした青年、アレド=コルセスカがこちらに視線を移す。吊り目がちな顔立ちは一見怒っているように見えるが、実際はそういう性格ではない。ただの生まれつきの特徴だ。長身で、透き通る硝子のような槍を手に持つ彼は、リダウトの門番として接近戦を得意としている。


「疲れたよなぁ…。立ちっぱなしってほんと嫌だよ。足が棒みたいになるしさ」


とアレドがわざとらしく肩を回しながらぼやく。シウは笑いながら返す。


「はは、同感だよ。オレだったら退屈すぎて寝ちまうね」

「だろ? お前なら立ったまま寝そうだし」


とアレドがニヤリと笑う。


「絶対するね。間違いない」


とシウも調子を合わせて笑い返す。


「いや、そこはさ、『頑張って耐えてみる』とか言うとこじゃねえの? 仕事しろよ」


アレドが突っ込むが、シウは肩をすくめて首を振る。


「無理だって。オレ、体動かしてないとダメなタイプだからさ。じっとしてるとか拷問みたいだよ」


 アレドが大きくため息をつく。


「あー、もう。寝ててもいいからさ、変わってくれよ、シウ」

「いや、さっきダメって言ったの誰だよ」


とシウが即座に返す。


「あ? オレだよ」


とアレドがあっけらかんと答える。

 呆れたようにシウが続ける。


「お前が言ったことなら訂正してもいいってか?」

「そういうこった。オレの言葉なんだし、どう扱おうがオレの勝手だろ?」


とアレドがしたり顔で返す。


「そういう問題じゃねえよ。ま、引き続き門番頑張ってくれな」


とシウは軽く手を振って受け流す。内心では「門番なんぞ誰がやるか」と毒づいていた。門番は重要な役割だ。入り口を守るにはそれなりの腕っぷしが必要で、どんな敵でも侵入を防ぐ絶対的な防壁としての責任が伴う。それでもシウにとっては、動き回れない仕事は性に合わない。


「アレド様ー、頼みますぞー」とシウがわざと大げさに声を張ると、アレドが体を震わせて顔をしかめる。


「さむっ! やめろ、気味悪いって!」

「うわ、ひどいな」


とシウが笑いながら返す。アレドのオーバーなリアクションに、シウもつられて笑ってしまう。ややあって、アレドも我慢できずに笑い出した。「なぁ、シウ。最近街で変な噂聞いてさ」とアレドが急に話題を変える。


「変な噂?」

「なんかさ、裏通りの店ででっかい魚が空飛んでたって話。ありえねえだろ?」

「は? 魚が飛ぶ? それ、誰か酔っ払いの戯言じゃねえの?」


とシウが笑いもの扱いする。


「だろ? オレもそう思うけど、エンテはどう思う?」


 とアレドが隣の少年に話を振る。

 エンテは少し考えてから答える。


「うーん、魔法で浮かせたとかなら……なくはないかも?」


「お前、マジメか!」とシウとアレドが同時に声を上げて笑い合う。


 そんな雑談を続けていると、リヒトが静かに口を開いた。


「おい、さっさと行くぞ」


 シウは不服そうに唇を尖らせたが、アレドに軽く会釈してリヒトの背中を追いかける。アレドとエンテは苦笑いを浮かべながら、鉄の門が完全に閉まるまで二人を見送った。


 中はひんやりとしていて、仄暗い。石の壁に囲まれた狭い部屋は、外の明るさとは対照的に不気味な雰囲気を漂わせていた。陽の光は一切遮断され、代わりに壁には松明が掛けられている。おかげで真っ暗ではないものの、薄暗い光が石壁に揺らめくだけだ。部屋の中心には、地下へと続く階段があった。シウとリヒトは規則的な歩調で階段を降りていく。二人分の足音が静寂な空間に反響し、狭い通路にこだまする。壁の幅は一人や二人が通るには十分だが、それでも閉塞感は否めなかった。


「なぁ、リヒト。この地下ってさ、なんか湿気臭くね?」


 シウが鼻をすする。

するとリヒトは、


「我慢しろ。少しは黙っておけないのか。」


 と、そっけなく返す。


「ケチくせぇなあ」シウがぶつくさ言うが、リヒトは無視して先に進む。その背中を見ながら、シウは小さく舌打ちして続いた。


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