エピソード
静寂な空間。
微睡みの中で、子守唄のような心地よい音色が鼓膜を揺さぶった。
揺蕩う光にそっと瞼を開ければ、ぼんやりと浮かぶ、その景色。
パチ、パチ。
木が弾ける音がする。
温もりが肌から伝わって、じんわりと馴染んでいった。それはほんの一部だけだったので、すぐにまた冷たさが肌に刺さる。
──ここはどこだ?
うすら寒くなって思わず身震いをし、体を縮こませる。
滲んだ色は段々と鮮明さを増して、やっと、脳が覚醒した。
「目が覚めたか」
ふと、人の声。
ぼうっとしてた瞳を動かせば、見覚えのあるブライトイエローとシアンブルー。
──ああ、そうか……。
「……ああ、おはよう」
身を起こして、まずは挨拶。それからまた、地面を見つめる。暗闇は、寡黙な怪物みたいだ。こちらの様子を虎視眈々と窺い、隙あらば襲い掛かってきそうだ。
辺りは木々ばかりで、生き物の気配すらないというのに。
たたただ、そこにあるのは、闇だ。
「随分長く眠っていたな。疲れていたのか?」
静かな声。その声の主は、問うたにも関わらず、少年の方を見ない。彼も、手持ち無沙汰に足元にあった枝を弄りながら言ったのだ。
「──……、どれくらい寝てた?」
「半日だ」
「あ、そんなに」
漸く彼は少年を見た。
「起こしてくれればよかったのに」
「なんだ、蹴り起こせばよかったのか」
「いや、それは困る」
また眼前にいる彼から視線を外して、地面を見つめる。
「……どうする?」
「何がだ?」
「これから。どこに向かうかって」
「……ああ」
彼は立ち上がると、少年を見た。
「……まぁ、まず、歩こう」
「そうだな」
少年も腰を上げる。ザリ、砂を踏み締める音がした。それだけが木々にこだまして、再び静まり返る。
「さて、行くか」
彼は燃え尽きそうになっていた焚き火を消して、そう言った。