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Fツリー リマインズ・ソニック編

リマインズ・ソニック救済編です。

【堅物上司と音速の刑事】



謎のヒーロー「ふざけるな! そんなこと、絶対に許さないぞ!」

 リマインズ・ソニック・フレーミーは警察官であるし、警察官といえば常日頃から市民の平和と安全を守るのが仕事で、そういった理由があるからこそ飛行機内への銃火器の持ち込みを無条件許可されているのだが、ヒーローが眼の前に現れたのだから別に俺はいいか、などと考えるくらいには仕事熱心ではなかった。

リ「いや~~~面倒なことになっちゃったけど解決思想でよかったですね~~」

謎のヒーロー「さぁ、悪党共! この私が「全員動くな。銃を降ろせ。オーヴァゼアポリスデパートメントだ。」

が、隣の席に座っている女上司、シオーヌ;エリューは違った。名乗ったとおり彼女はオーヴァゼアポリスデパートメントのお偉方キャリアウーマンで、こんな状況で名乗りを上げるような性格のカタブツだ。若くしてその座を手に入れた実力者だし、顔も良いのでリマインズ・ソニックはなんやかんや嫌いではなかった。のだが。

ハイジャックA「ああ?なん・・・なんだ?!ちょっと待て、なんなんだお前ら!?」

ハイジャックB「そこのヒーローはともかく何でポリスデパートメントが割り込んでくるんだよ!?」

シ「越境解放戦線か。君達が警察がどんな仕事をするか知らないならそれでも構わないがね。無知は罪を免れ得ないのだよ」

謎「警察諸君!彼らの相手は私に任せたまえ!君達は乗客に被害が出ぬようここは共闘しようではないか!」

 操縦室に一番近いのはハイジャック犯たちだ。見た限り三人、あとは操縦室に何人かいるのかもしれない。客席の真中あたりに謎のヒーロー。俺たち警察は後方の座席に座っていたため、謎のヒーローを挟んで犯人と会話することになる。犯人達はともかくヒーローも状況の把握が出来ていないみたいだった。シオーヌと犯人の会話を聞いて状況を判断したのだろう。振り返りながら握手を求めるように差し伸べてきたヒーローの手をぴしゃりとはたき、彼にもまた銃を突きつけてシオーヌは断言した。

シ「言うまでもないが貴様もだよ、非合法暴力主義者。我々は警察権または司法権を持たぬものによる暴力を伴う事象調停行為全般も許していない」

謎「え・・・・・・」

シ「あらゆる越権を、法神は許さない。そうだったね?リマインズ君」

リ「あ、はい・・・そっすね・・・」

シ「では手分けしよう。えー、ごほん。客席の市民の皆様、お騒がせして申し訳ありません。今さっき述べたように我々はオーヴァゼアポリスデパートメントのものです。安心してください。我らと我らが法神デグラストロギギウスはこの状況からあなた方全員の安全を確保し、速やかに状況を終了させます。どうか今しばらくご容赦ください」

リ「そっすね・・・」

シ「私は法神の加護を行使う。リマインズ君はあの四人を速やかに無力化、事態収束の後操縦室へ。特対Cだが、市民の皆様の安全がかかっていることを失念しないこと」

リ「了解!」

 命令を下す間にもシオーヌは法神の加護を展開して客席の空間すべてをデグラストロギギウスの加護内におさめた。彼女の得意とする技の一つ、『法の庭』は法神の加護を周囲に浸透させることで一定時間だけ加護を空間内の法を破った者以外の存在と共有するもので、周辺に被害を及ぼさずに問題を解決するために便利なものだ。今この場で法を破っているのは四人。ハイジャック犯のAとBとC、それに謎のヒーロー(非合法暴力主義者)だ。

リ「行くぜ! 鎧袖一触ソニック・ブロー!」

 リマインズ・ソニックとは音速に似たという意味だ。鎧袖一触ソニック・ボローはそのなのと折に音速ソニック拳撃ブローを繰り出す技だ。接近して殴るわけではなく、ある程度の距離までなら音速で生じる衝撃波を利用することで打撃範囲を拡大することも出来る便利な技だ。

A「あッ!」

B「ぎゃっ!?」

C「グワッ!!」

 とりあえず三発殴りハイジャック犯ABCの眉間を狙って叩き込んで銃を持った連中は全員無力化する。間合いの開いていた連中を先にしとめたのは危険度の高さからだった。ヒーローはヒーローを名乗るだけあるので危険度は低いと思いたい。

シ「何をやっている!」

 その判断は間違いだった。シオーヌの声で我に帰る。謎のヒーローは逆上した形相でコチラを睨んでいるし、なんならその硬く握り締めた拳を俺に振り下ろそうとしていた。俺の能力は攻撃専門、守りに使うには工夫と距離とタイミングがいる。今回は・・・どれもなかった。覚悟を決めてガードを固める。

リ「くそッ!」

シ「退いていろ!法蹴ローキック!!」

 どんと突き倒されて通路に倒れるような倒れないような、狭い客席の間に居たせいで客席の肘掛けに額をしたたかに打ち付けて体勢を崩す。そのおかげでヒーローの拳は俺に当たらなかったし、俺の頭越しにシオーヌの綺麗な上段蹴りが炸裂。ヒーローの顔面に綺麗に靴底パンプスのが叩き込まれ加護の乗った蹴りを叩き込まれたヒーローはそのまま倒れこんだ。これがスカートならパンチラの一つも拝めたかもしれないが、常にパンツスーツ姿であるのは有事の際に打撃戦もこなせるようにとの心構えなのでそんな事は起こらない。

シ「ヒーローを名乗るからといって油断したね?だから君は半人前だというんだよ、リマインズ君。滅ぼすべき悪に優先順位などはない。目の前のすべてが最優先対象だ」

リ「すいません・・・その通りっす・・・」

シ「まあ良いさ。さあ、次だ。機長たちがどうなっているのか心配だ。落ち込んでいる暇など無いぞ」

 差し伸べられたシオーヌの手を握り肘掛けから起き上がると、倒れたヒーローをわざと踏みつけて俺は操縦席へと向かった。





【幕間1】



 シオーヌ・エリューは今やオーヴァゼアポリスデパートメントの顔として世間に認知されているし、その当たりさわりのない(オーヴァゼアに生きる一般市民にとって生まれながらに魔力を持つ魔族や機械人、各種存在と比べて純粋な人間種族は暴力の象徴とは見られないことが多い)雑誌への寄稿を求められたりするなど、警察自体も彼女をイメージキャラクターに仕立て上げようとした時期もあったが、その試みは失敗に終わった。その熱心な信仰心は法神の加護を得るには最適な熱量だったが、それを制御しようとするのは愚かでしかないと上層部がようやく悟ったからだ。加えて、オーヴァゼアポリスデパートメント自体が決して一枚岩ではないことも作用した。今や主流となったシオーヌのような法神至上主義派閥の台頭を恐れる勢力は少なくなく、上層部は法神にその座を取って代わられることを恐れ始めた。かくしてシオーヌは実働部隊の長として所内で働くことだけを命ぜられて日々を過ごしており、面倒な事件の際には陣頭指揮を取らされることもあるが、概ねデスクワークと部下のマネジメントを専門に日々を送っている。

 そんな経緯は承知の上だろう、とリマインズは考えていた。確かに面倒で頭が固くて時に憎らしいほど正義の側に立つシオーヌほどの切れ者が警察内部の絶妙なパワーバランスに気づいていないとは思えなかったし、他人にどんな評価を下されようと己の正義と法を貫く(ペネトレイト)姿をリマインズは好ましくすら思っていた。彼女の元で働ける事は悪くない仕事だし、一つだけ文句があるとすれば、シオーヌがパンツスーツを愛用していることくらいのものだった。

 リマインズはパンスト至上主義者だった。





【罠】



犯人「グハハ!来たなオーヴァゼアポリスデパートメントのシオーヌ!そしてここに来た以上お前に勝ち目など無い!」

リ「なっ・・・1?」

 操縦室のドアを蹴破って二人が突入すると、そこは一面の暗闇だった。声の主である大型の肉食獣を腐らせてコンクリートで塗り固めたような化け物だけが高笑いしている。言葉の意味がその通りの意味であればこれは罠だが、その通りの意味ではない可能性もある。試してみるまで分からない。しかし。

犯人「おーっと!妙な真似はやめろ。この空間は俺のプライベートエリアだ。操縦室に向かう扉がハイジャック犯が回路をいじったせいで偶然俺の部屋に繋がってしまったんだよ。だから俺は法を犯していない。どちらかといえば法を犯しているのは不法侵入しているお前達のほうだ」

シ「ぐううあああぁぁっ……!!」

リ「ボス!?」

 苦痛の声を上げたシオーヌは膝からくず折れるようにして地面に手を突くとそのまま力なく倒れこんだ。

法神の加護は絶対だ。しかし、だからこそ法神の意思に背くような行為に対するペナルティは極めて大きい。法神の””制裁””と呼ばれるそれは、警官に汚職者が減った理由と揶揄されるほど熾烈で過酷なものだ。全身に暴れ狂うような電流を流されるような、四肢を灼熱で炙られるような苦痛だ。リマインズのような弱い加護持ちであっても、制裁を食らえば三日は寝込むことになる。一日は仮病だが。無論加護が大きければ大きいほど””制裁””も大きくなるので、シオーヌのような法神の狂信者にとってはリマインズが感じたものの数倍の規模の威力になるだろう。それであの反応で済ますシオーヌの胆力に、リマインズは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

リ「お前! 一体何の目的でこんなことを!!」

犯人「目的?目的ぃ?そんなもん考えりゃあ分かるだろう・・・俺は偶然たまたま事件に巻き込まれた善良な市民なんだぜ。それも加護持ちのな・・・」

リ「加護だと?」

犯人「そうだ!俺もお前ら警官と同じく法神デグラストロギギウスの加護を受けた・・・・・いわば同業者みたいなもんだ」

リ「法神の・・・?!馬鹿な!そんなことあるわけが」

シ「いいや・・・・・・ありうる・・・」

リ「ボス!?」

シ「法神の加護を受けること事態は簡単だ・・・法神デグラストロギギウスに祈りを捧げればいい・・・。問題なのは、貴様が企んでいる中身だよ・・・ハイジャックなんて馬鹿げた犯罪を利用し、我々オーヴァゼアポリスデパートメントをプライベート空間に誘い込むような奴が何を考えているのか、だ・・・・」

犯人「ほう?グフフフ!!シオーヌ、まだそんな口がきけるとは驚きだ!グハハハ!」

 シオーヌが立ち上がる。犯人(現行犯ではないのでこの呼称は間違っているかもしれない)はそれを見て更に大きな笑い声をあげた。こうしている間にも制裁に全身を苛まれているはずだ。ふらつき、今にも倒れそうな、いつもなら完璧に整えられた髪も乱れきって脂汗すら浮かべているシオーヌの姿は確かにこっけいですらあったが、リマインズはその姿を直視できなかった。

シ「考えうる可能性は無数に存在する。ここはオーヴァゼア、一寸先は闇の世界だからね。ただ、我々には力強い仲間がいる……未来をスポイラーできる奴が」

リ「スポイラー?まさか、あいつ・・・」

 ジミー・スポイラー・セブンスライト。近未来予知能力者。いけ好かない奴だと馬鹿にしていた時期もあったが、奴の能力は天下一品だ。

 言われて見れば違和感はあったのだ。今回の任務はそれほどまでに重要なものではないし、この飛行機に乗ったのだって別に急ぐ必要があったわけでもないし、そもそもシオーヌの出張に自分が付き合わされた事など一度も無かったのに今回に限ってシオーヌの方から指名してきたのだ。たまにはそういうのも悪くないかと思って深く考えていなかったリマインズも、ここまで来ると事情が察せる。シ「だから私は君を連れてきた。リマインズ君。部下として、切り札として」





【正義】



シ「そう。すべての始まりはスポイラーだった。彼にはハイジャックとその先の未来まで見えていたらしい。こうなることも大体は見当がついていた。犯人の目的はオーヴァゼアポリスデパートメントの不祥事。この私に法を犯させることで法神の””制裁””を発動、始末し、法神もろともオーヴァゼアポリスデパートメントの信頼を叩き潰すつもりだとまで見抜いたよ」

犯人「おいおい、そんな言いがかりはよしてくれないか。俺は善良な市民だ。こんなナリしちゃあいるが・・・・・後ろ暗いことなんて何一つやって・・・」

シ「法神の加護はブラフだな、越境解放戦線の元締め、オーヴァゼア越境連合同盟の犬にして破壊工作のプロフェショナル、ディイー・フー」

 シオーヌの鬼気迫る独白に気おされたわけでもないだろうが、大型の肉食獣を腐らせてコンクリートで塗り固めたような化け物の顔から(顔?)笑みが消えた。笑い声も収まり、本来のものであろう冷徹で抑揚の無い声に変わる。

デ「驚いたな・・・そこまで見抜いてきたか?オーヴァゼアポリスデパートメントはお前さえ潰せば何とかなると思っていたが、甘かったようだ」

シ「無論貴様の表立った犯罪歴はゼロだ。今すぐこの場では捌けない。だがね、ディイー。情報があれば対策は打てるんだよ。お前の関係が疑われるすべての事件記録を漁り、既に捕らえた面子の証言を洗い直して礼状をとってきた。よってこの突入は非合法ではない。加護の件も我々の判断を迷わせようとしたんだろうが、無駄だったな。お前は法神の加護を受けていないからこの件で””制裁””も食らわない。違うかな?」

 想定を超えた暴露に、さしものディイーも沈黙する。顔はコンクリートで塗り固めたような鉄面皮なので表情までは読み取れないが、沈黙がその答えだろう。既に満身創痍のシオーヌを前に、余裕を失い、明らかに動揺している。追い込むつもりで追い立てた獣が、手負いとなった事で己の喉笛を食い千切る脅威となったのだから。

シ「ここからは任せたまえ、リマインズ君・・・・・奴は私が捕らえる。君はそこで待機していること」

リ「そんな・・・無茶っすよ!あんなもん食らっといて平気なはずが・・・」

シ「大丈夫だ。苦痛には耐えられる・・・・こう見えて私は慣れているからね。””制裁””に」

リ「そんなわけねぇでしょう!!」

 カラン、とシオーヌのスーツから小さなピルケースが転がり落ちた。落下の衝撃で蓋が開き、中から小粒の錠剤が飛び散る。勘の悪い人間であっても、その薬が何なのかくらい分かるだろう。リマインズは薬を睨みつけ、毒虫にするかのように靴底で徹底的に踏み潰した。

リ「あんた、こりゃなんだよ!?絶対ヤバい薬だろが!そんなもん使って何になるっつーんだよ!!?」

シ「気付けには必要なんだ、リマインズ。持っているだけでは法に触れない。もちろん、服用すれば法には触れるが・・・・・その””制裁””すら和らげてくれる」

リ「そんな強烈な薬飲んで、大丈夫なわけがねえでしょうよ!!ボス、あんた、クソ、クソが!慣れてるって何だよ、じゃあこの薬普段からも飲んでんのかよ!?」

 シオーヌは答えなかった。胸倉を掴んで問いただすリマインズの瞳から目をそらす。数秒の沈黙があり、それが質問の答えだとばかりに、別の話題を切り出した。

シ「君を連れてきた理由だが、伝えておこう。バックアップだよ。私は私の正義のために動く。私を狙った犯行だ。悪には直々に正義を示さねばならないからね。””制裁””を受けてなお・・・そして力尽きるかもしれない。その時は、君がいる」


シ「組織というのは最早病理だと思わないかね。ディイー・フー。君も組織人ならば分かるだろう。上に立つものの性だよ。時として信念を曲げる勇気が無ければ、組織はすぐに機能不全に陥る。だが、法神の正義に背くのは、私一人で十分だ・・・・」

 噂は聞いたことがあった。シオーヌ・エリューの執務室から時折聞こえる謎の声。法神との交信の余波だと大半の職員は考えているし、リマインズ自身もそうだと思っていた。だがそれは違う。部下や組織のために法神の正義に背いたシオーヌが、””制裁””に耐える声だったのだ。

シ「すまなかった。リマインズ君。私は君に・・・もっと伝えるべきことがあった、かもしれない」



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