Fツリー 裏
エドゾー編の裏側です
【人物紹介2】
ジミー・”スポイラー”・セブンスライト。
『セヴンスライト』
未来視、断絶時空間などの時空間限定操作、左手にはめた指輪型の因果逆性治癒装置による回復、力の停滞による物質の固定
【裏・始まり】
秩序──そんな言葉は『イベント』の後のこんな世の中じゃあ殆ど無意味になっちまったた。まァ、そんなでも秩序は秩序だ。残念だけどな。
大崩壊だ黙示録だと騒いでた連中は息巻いてたし、実際それくらいのヤバい出来事だったとも思う。でも世界は滅びやしなかったし、全てが終わることもなかった。完全中立都市オーヴァゼアは、今まであった全てのものをぶち壊した(見捨てた)都市国家だ。そんなロクでもねェ場所で警察なんて仕事やってるとは、ガキの時分には想像もつかなかったな。どんな世界担ったとしても、仕事ってのは大事だ。なにせ生きるには金がいるし、医者にやるにも金はいる。金を稼ぐには、稼げる仕事につくのが一番だ。で、危険な仕事ってのはいつの世でも稼げる。『魔力』『加護』『技術』の三すくみはむしろ好都合だったってワケだ。警察なんて厄介で邪魔な連中と思ってたけど、やってみたら案外悪くもねェんだよな。このあたし、マール・シューケにとって秩序とは、金を稼ぐ手段だ。
【炎使いマール】
マール・シューケは警察官だし、まあ、そんなに品行方正な街のお巡りさんって感じじゃないけども。地毛の金髪が気に入らなくて染めたのがきっかけってだけの真っ赤に染めた髪(これは別に珍しくはない。オーヴァゼアでは髪の色など個性よりも取るに足らない一つの要素でしかない)はバンドやってた頃からの習慣で、格好もその頃のままにしてる。警察つーとお硬いイメージがあるし、実際そうでなきゃなんねェんだろうけど、うちは案外その編がゆるくて助かってる。
「ですから、オーヴァゼア警察の使命はこの世界にこれ以上の混乱を招かぬことでありその先に待つ破滅の引き金を引かせないよう、ひいては市民生活を守ることこそ我ら警察官の誇り高き任務であり……」
法を司り、法を愛し、法治の素晴らしさをさっきから30分近く延々垂れ流してる上司は法神デグラストロギギウスに心酔してる。あたしはそこまでじゃない。警察の中にも温度差みたいなものはあって、どちらかといえばあたしは冷めてる(クール)方だ。
「なあ、スポイラー。このクソみたいな話はまだ終わんねェのか?」
「三分だ。もうちょっと待ってろ」
ジミー・スポイラーは同僚であたしと気が合う数少ない一人だ。というかあんまりポリスデパートメント内で気が合うヤツはあまりいない。炎音使いリマインズと、交通対策課のイー・ドラークくらいだ。態度が悪いってのは生まれついての性根なもんでどうしようもねえけども、男より怖いだの、付き合って気に食わないことがあったら燃やされそうだの言われてるし自分でも分かってる。
「なんだ、いつもより短いじゃねェか。どうする? 終わったら飯でも行くか?」
「仕事があるんだ。いや、今から来る」
「おっと、もうこんな時間か。というわけで、本日もまたオーヴァゼアの治安維持に邁進するように。ああ、ジミー。君は後で私のところに来る事。よろしいね?」
「分かりました(オーケイ)」
スポイラーは腕利きの警官で、何かと上司に目をかけられている(目を付けられている)から、こうやって面倒ごとを良く押し付けられてる。やつが嫌そうな顔でため息をつく姿はお気に入りだ。
「相変わらずだな、スポイラー。面倒ごとは全部お前に行く」
「お前が気に入られてないだけだ、マール」
そんな皮肉も悪くない。そう思えちまうから厄介なんだよお前は。スポイラー。
【始まり・裏】
「なァ、おい!返事しろ!しっかりしろよ!」
「落ち着きなさい!君が動揺していては患者も不安定になる!」
「大丈夫…お姉ちゃん・・・・大丈夫だから…・・」
「先生、なあ、先生。頼むよ。コイツはまだ、まだ・・・頼む・・・」
「容態の悪化だ。治療には費用もかかる。安楽死などもあるが・・・」
「黙れ!そんなことォ!!クソッ、金なら何とかするっつってんだろ!」
「お姉ちゃんが来てくれるだけで・・・僕は十分だよ・・・」
「オーヴァゼアの医療機関は常に限界ギリギリだ。部屋数も足りない。設備のある部屋の入院費は高い」
「だから、だから・・・お願いだ・・・」
「聞こう。友の言葉として、君の願いを叶えよう」
「前金は既に振り込んでおいた」「たやすい仕事だ。君は一人の命を奪い、一人の命を得る」
「受けるかどうかは自由だ」「だが、選べる余地があるのか?弟さんは・・・あと何日持つ?」
「願いを一つ聞いてくれるだけでいい。警官ならやりやすいだろう。我々は二度と干渉しない」
「それとも、君の法神は弟の命を救ってくれるのか?」
「──」
【暗闇』
スポイラーが出てくるまで、あたしは廊下でじっと待っていた。もれ聞こえた話によると、どうやら標的の、田中薪薪薪子(ターゲットの親)の護衛の任務らしい。恐らく薪薪薪子はあたしが手を下さずとも死ぬのだ。スポイラーがスポイラー能力を持つのは知っているし、その能力の凄さも知っている。でも、あの時あたしの口座に前金を振り込んだ奴は一体どこまでの未来が見えるんだ?
気分は最悪でも顔に出すわけにもいかず、力なく手を振ってスポイラーを迎える。そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか(コイツは未来が見えるくせに女心・・・じゃない、人の心が分からない朴念仁だ)
マ「よお。どうだ? また面倒くせェ奴か? 何なら手伝ってやってもいいぜ。そうだな、ディナー一回奢りってのはどうだ? 安いもんだろ?」
ジ「……」
マ「……何かあったのか?」
スポイラーの表情は険しかった。胸騒ぎがする。それとも・・・もうバレたってのか?スポイラー。
マ「まさか……例の件」
ジ「ああ。親父の事件に関係が……ありそうだ」
カマをかけてみると、実際その通りだった。スポイラーは父親を殺した犯人を捜すために警官になった。こんな表情をする時は決まっていつもその手がかりになりそうな事件に当たった時だ。シオーヌはこんな時口止めをするが、それは形式的なものだと分かっているのであたしとスポイラーはいつもあまり気にせず情報は共有する。
ジ「全員……五人とも、疑わしい」
マ「マジか。それも全員て……」
五人の死と、薪薪薪子の予見された死。それと、その血族の・・・死の未来。あるいは未来の死。あたしがそれをもたらす・・・ことになる。
ジ「この中の誰か、あるいは全員が俺の親父を殺した犯人かもしれない。俺は……俺はやる」
スポイラーの言葉に、あたしは耳を塞ぎたくてたまらなかった。
【始まり】
それは大転機と呼ばれた。
それは黙示録と呼ばれた。
それは境界崩落と呼ばれた。
それは新世界の始まりと呼ばれた。
それ以前に起きたあらゆる全ての出来事など、些細なことでしかなかった、とまで言わしめたその事件は、まるで触れることを恐れるかのように、ただ『イベント』と呼ばれた。
今なら分かるよ。何が起ころうと、それはただのきっかけ、発端でしかなかったんだ。世界が続いちまった以上、そんな通過点にはこれっぽちの価値もない。
クソッたれ。選べない選択肢なんてもんは全部『イベント』で消えちまえば良かった。そんな世の中のがまだマシだろ?
[始まり マールside2】
ジミー・スポイラーはというと、上司に呼び出されて一人お叱りを受けている。あたしはまた部屋の外で一人待っていた。取引を持ちかけた奴の声の思い通りにことが運んだ事をどう受け取ればよいのか悩み続けているせいで目つきが悪くなっていたのだろう。目の前を通り過ぎる同僚が全員目をそらしていく。静かなのは好都合だ。
あたし達が駆けつけたとき、田中薪薪薪子は死んでいた。検死の結果、死後すでに4日が経過していた。ただ、あたしとスポイラーは少なくとも動いている薪薪薪子の姿を見たし、目の前で風化した岩石のように崩れていったのも見た。意味が分からないことばかりの中、取引の主はあの時点で薪薪薪子の死を知っていたことだけが分かってるし、少なくとも警察は面子が丸潰れだろう。政治家を死なせたのだから。
あたしたちがカウンターライマー区の手前にある葬儀場へ行くと、そこでは葬儀の真っ最中だった。生き死にの場で殺しの依頼とは縁起でもない。あたしはきっとろくでもない死に方をするだろう……それはまあ、仕方の無いことだ。母の死を嘆く娘を殺すのと引き換えに私は金を受け取ってしまっている。
ジミーとは別行動をとることにしたので、私は会場内を一瞥すると外に出た。一番若い外見をしていたのが田中薪^4子だろうと踏んで、会場内に手早く仕掛けを作って忍ばせる。昔押収した式神に、他の犯罪者の波長を模した魔力をこめて椅子の裏に貼り付けておいた。
マ「こちらはマール。どうだいスポイラー。変わったことは?」
中にいるジミーとの連絡は無線機を使う。妙に喉が渇いて声色が変になっていないか気になってしまう。
ジ「泣いてるやつが多いな。それから、泣いてない奴が少し。他はなにもない。至って普通の葬式だ」
適当な雑談でお茶を濁しながら精神を集中させる。ジミーの相手は上の空だ。切り替えろ。今からあたしは……人を殺すんだ。
ジ「マール、火災報知器を鳴らせ。スプリンクラーを起動させろ。特対A対応」
自分の名前が聞こえてきたところでようやく意識が鮮明になった。反応が遅れそうになるも、なんとか対応する。スプリンクラーを起動させるためには……装置ごと焼き払えば良い。混乱に乗じて式神を炎魔族にして標的を襲う。それで任務は失敗、依頼は完了であたしにはまた金が入る。やるしかない……許してくれだなんて言えた義理じゃねェのは分かってる。でも、だから……
マ「あたしを止めてくれジミー……」
【亡き王女のためのテプセット】
術を使おうとした直後中から叫び声が聞こえたと思うと続いて誰かがガラスをぶち破って転げ出てくる。姿を見られた。まずい。今は式神を発動させられない。
マ「おい!なんかこっち出てきた奴いるんだけど!?」
ジ「炎ででも閉じ込めといてくれ」
マ「人使いが粗いなァ!」
ゴォウ!と音を立てて火炎を放ち、会場に続くスプリンクラーを茶道させる。炎で閉じ込めろというのは簡単なことではないし、中から人が逃げ出してきた。ひとまず出てきた人影の周りを囲むように炎の渦を作り出すと、死角に逃れて術式を発動する。
ジミー・スポイラーは出てこない。見た限りでは薪^4子もだ。二人だけまだなかに残っているというのか。最悪のケースから二番目くらいには厄介な展開に、あたしは思わず眉をひそめた。
術式は問題なく発動する。葬儀場の内部に巻き起こる炎熱が、その波長が伝わってくる。集中を始めようとした瞬間、すぐ近くで爆発音が聞こえた。それが銃声だと気づいたのは、音の主が巨大なアンチ・マテリアル・ライフルを抱えているのが見えたからだ。式神の術式にダメージを感じ、混乱する。奴の狙いは式神だ。どういうわけか、奴は中で何が起こりつつあるのかわかっているのか?
スタン・グレネード大の術式道具を取り出してアンチ・マテリアル・ライフル野郎に投げつける。空中で炸裂したそれの中には拘束用の火炎牢獄を仕込んである。これでしばらくは持つだろう。
?「グオオオオオアアア!!!!!」
練り上げた炎魔族が雄叫びと共に会場の窓ガラス全てを砕いて撒き散らした炎の熱を感じた時、後戻りが出来ないんだな、と少しだけ寂しくなった。