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Fツリー その3

【小さな欲望の星空】



 マールの火炎が外から降り注ぐ1000万本テンミリオンの矢を撃ち落としながら焼き尽くして建物を守っている。俺はその火炎の渦を力の停滞ステイシスで潜り抜け、矢の飛んできた方角へと走った。先手を取るのは大事なので、悪いが先手を取らせてもらう。

森の中をこのまま走れば9秒後には敵に見つかる。先手を打つには先に攻撃するべきなので銃を取り出し、威嚇射撃を五発撃ち込んだ。悲鳴が聞こえる。女の声だ。邪魔な枝葉を警防で切り払って

?「ギャッ!?」

ジ「動くな(フリーズ)!オーヴァゼアポリスデパートメントだ!全員動くな!手を挙げろ(ホールドアップ)!!」

 見ると、茂みの中には数人の集団が居て、全員が機械式のボウガンのようなものを構えていた。このオーヴァゼアにあっては珍しく、機械式だった。単なるアナログの武器を好んで使うとも思えないので何か理由があるのだろう。黒いフードなど被ってはいるが、どうにも襲撃なれしているようには見えない素人集団だ。

ジ「無駄な抵抗はやめろ。法神の加護を受ける俺たちにかなうと思うのはやめたほうがいい。射程外からの奇襲に奇襲をかけるような規格外な加護持ちだぞ俺は」

 口から出まかせも交えて威圧する。出鼻をくじかれたことで参っていたのだろう。集団は迷っていたみたいだった。目線からリーダー格の女を見分け、銃口を向けるてさらに威圧する。

?「わ、わかった……」

 リーダー格が観念したようにボウガンをおろして両手を挙げると、他のメンバーもそろってボウガンを地面に投げ捨てた。





【大神神話伝】



 武装集団は全部で六名、そのどれもがエルフ以外の人外(差別的表現であり好んで使うものは少ないが、薪薪薪子の陣営はよく使っていたらしい)で、武装解除後は素直に従ったのでとりあえず全員に手錠をかけて緑化祭壇本部に残していたマールらと合流した。襲撃の理由について尋ねようとすると、それを制するようにまずアカシャが口を開いた。

ア「先ほどお話したとおり、私は混血のエルフです。といいますか、この教団の構成員はほぼエルフで、混血のエルフばかりが集まっています」

ジ「その黒目は…・・・失礼ですが、先祖は?」

ア「我々はかつて中国に住んでいたエルフの末裔です。ある日突然、元々の住処から一族の大部分が転移してしまったのがそもそもの始まりでした。言葉どころか知るものすべてが通用しない大地にあって、我々は混乱し、そして現地の民からは迫害されました。魔女だと」

マ「そりゃあ・・・お気の毒に」

ア「竹林の中に逃げ隠れ、人と接することなく暮らしていたある日、ある一人の女性が私達の元に現れたのです。それが・・・」

ジ「ティアンチョンツー」

マ「は?ティ・・チョ・・?」

ジ「田中子ティアンチョンツー。田中薪薪薪子の曾祖母、かつて樺太・満州に渡り財を成した女傑で、戦後の動乱期に乗じて更に富を築き上げた化け物だ。その豊富な資金力は田中一族に引き継がれ……田中核栄、田中薪薪子、そんでまあ、薪薪薪子が現れた」

マ「詳しいな」

ジ「お前が寝てる間に調べたんだよ」

ア「田中子様は我らエルフの救い主様でした。エルフ族がかつて中国で迫害されていた頃、当時既にその地域一体を支配していた田中子様の助力を受けることで、我々は異界に脱出出来たのです。我らエルフは今も決してその恩を忘れてはいません」

 伝記に記されていた通りの歴史だ。田中子は中国でなした財を日本国に持ち帰り、政界を牛耳り続けたと言われていて、その際には当時の日本国にはない謎の技術も利用したといわれている。エルフとの取引で何か魔道具を得ていたとしてもおかしくは無い。

ア「ですが・・・我らを快く思わない集団もいるのです。そこにある彼女のような・・・」

ジ「なるほどな・・・大体の流れは理解できた」

 先ほどから居心地の悪そうにしている襲撃者たちに目をむける。リーダー格の女はスッと目をそらしたが、その瞳には憎しみではなく後ろめたさが見えた。

ジ「あんたら、田中薪薪薪子に利用されてたんだよ。回収組織の人間だろ?薪薪薪子なら死んだぞ」

?「そ、そんな!それじゃあ約束は…・・どうなるんだ?!」

ア「約束・・・?」

ジ「薪薪薪子がろくでもない政治家なのは知っていたが、まさか緑化教団と回収組織を再びぶつけて対立を煽り、あわよくば全滅させようとしていたなんてなのは受け入れられない事実か?」

?「そんなこと!!分かっていた!だが、こうするしかなかった!!」

ア「まさか……田中薪薪真紀子様は、田中子様の血族では・・・その方がそんな・・・・・」

ジ「長い間政治家なんかやってると腐敗するんだよ。田中の家には既にエルフとのつながりがあった歴史を覚えているものは居ない。薪薪薪子はエルフを、いや人間ヒューマン以外を根絶やしにしようとしていたんだ。人間種族のために」

?「・・・白状しよう。最早我々の行動に意味は無い。お前の言うとおり、我々は魔導汚染資源回収組織のものだ。過激派、急進派、色々呼び名はあるが、単なる残党だ。和平を受け入れられず、こうして活動を続けていたが、このあたり一体はすべて財団に管理されてしまっていて、ろくな活動もできなかった。そんな中、資金の提供を持ちかける存在が居た。それが・・・恐らくは田中薪薪薪子の手のものだったのだろう」

「そんなことはどうだっていいの。今必要なのは、そんなちっぽけなヒューマニズムでも、矮小で愚劣な承認欲求でもないわ。そんなことも分からないから、この世界はここでおしまい」

 刹那、襲撃者達の姿が消える。ジミー・スポイラーはそれを随分と遅れて知覚した──スポイラーできなかった?何故?

マ「てめェ!どっから入ってきやがった!?」

 マール・シューケが立ち上がり、両手に炎をともして戦闘態勢を取る。が、闖入者が右手でひらとを宙を撫ぜると同時に炎はすぐさまかき消され、光源が失われた部屋のように、視界から全ての色が欠落する。

「前に私が言った言葉、覚えてる? ええと、なんて言ったかしら……そう、ジミー。ジミー・スポイラー」

 1000000000万の哲学書と小説、その全てに使われたインクを用いれば、この漆黒を表現できるだろうか。マールの姿はもう無かった。アカシャ・ロープの姿も。そこにあるべき己の掌ですら目視できぬほどの本物の黒の中、声の主たる少女の姿は鮮烈に脳裏を焼いた。

「”””真実”””にたどり着きなさい。来ないと、死刑だから! この言葉に嘘はないわ。私の文学に嘘はない。文学とは、それ自体がそもそも嘘であるべきだとしても……この超作家村上ハルヒの求める真実に、あなたはたどり着けなかった」

ジ「誰だ・・・一体誰なんだ!?スポイラーが認識できなかった!」

ピュアキャットウォーク。セント・モラール・エンジンの存在が相対的に現出させた世界の作用の一つ。私にはそれが出来る。あなたにはそれが出来ない」

「世界渡り!? オプト何やってんだ! 法神の加護が……こんな事があるわけが……ない!」

「不要なのよ。この世界は。進む必要を失った。そうよね、虚無キョン?」

 語勢が荒くなるのと対照的に、精神はこの上なく澄んだ落ち着きの中にあった。ジミー・スポイラーは『セヴンスライト』の発動に失敗し続けている。それを世界が望んでいるかのような錯覚。支配でも制御でもなく、自らの存在が世界の中で徹底的に相対化され、一つの歯車として役割を果たすことを当然と認識してしまっている。



「失望したわけじゃないわ。ただ一つ大きな選択を誤ってしまっただけ。現代思想出版社の放火事件、リマインズなんて小物に行かせるべきではなかった」



 高密度どころの話ではない。鋭く輝く切っ先は鈍く錆付いた輝きを放つ。文学的矛盾を同時に存在させるほどの、文学性そのもの──ピュア文学の結晶体。村上ハルヒと名乗る少女の手にあるのは、紙を切り裂く絶対の刃だ。物語を裁断し、ページを切り取り、文字を砕き、終わらせるためのピリオド・ソード。



「リマインズの能力は《Saund Fire》? 綴りが間違ってるのよ。小さな綻びは次の破綻を生む。一筋の綻びもなく縦糸と横糸で糾って初めて文学は為る。初歩の初歩、芥川賞に触れた事もないのね?」



「運命は細く長い糸であり、太く短い糸でもある。文学を編む事ができるのは、当然細く長い糸。必要な芽は育たなかった」



「だからピリオドを打つ。超次元文学の旗手として、真実をオーヴァゼアに記し続けるための作家のハルヒの団(SOS団)の団長として、超作家として、死んでしまった物語に”””ピリオド”””を打つ。永遠に蘇らないように」









「じゃあ死んで」




ピリオドソードおじさんが登場し、他人のツリーを乗っ取る回です。

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