Fツリー その2
みーや編ラストまで
【法界の火】
マ「おい、見ろよスポイラー。緑がいっぱいだ」
ジ「はぁ~~~……お前は気楽で良いな。これも任務だし俺たち結構まずい立場なんだぞ」
手放しに観光気分を楽しめるほど俺はお気楽ではなかったが指なんか指しながら俺の肩を執拗にゆすってくるマールの笑顔を見ているとそれもありかなと思えてきてしまう。圧縮機関車に乗ったのは半月ぶりだ。たしかにこの速度とオーヴァゼア辺境の眺めは悪くない……現実逃避?分かってるよ。
事の起こりはまあ……二日前だ。二日前というのは便利で間に一日入るのが素晴らしい。何せ時間は有限だ。以下は思い出。
シ「さて、君達あるいは君に問いかけよう。私はこの前何と言ったか覚えているかな?」
ジ「優秀な部下を持つと気が楽だと」
シ「あるいはとんでもない失態だとも言った。スポイラー。護衛対象である田中薪薪薪子の死に始まり、葬儀の場でその娘田中薪^4子が襲撃され、現場に居た田中薪薪薪子暗殺依頼を請け負ったテロリストを取り逃がし、更には襲撃の犯人が警官だった。私の言葉に間違いは無いか?」
ジ「その通りです。補足するならば、マールを唆した人間がいるということくらいで」
シ「なるほど……スポイラー。その能力で未然に防ぐ事はできなかったのか?」
ジ「正直難しかったですね。先に気づけていれば、そもそも相棒を追い詰める事もなかったでしょうし」
シ「……」
事務室に呼び出された俺とマールは上司の尋問を受けていた。部屋に入ったきりマールは黙りこくって時折シオーヌの言葉に体を震わせていたし、気持ちは分かる。それでもシオーヌの言葉は正論だったので、マールは黙っていたのだろう。
シ「今回の件だが。マール・シューケ。君の行いはすべて……不問にする」
ジ「え?」
マ「な、何で……?」
シ「理由を話そう。今、オーヴァゼアポリスデパートメントは人手不足だ。薪薪薪子の捜査は世間からも注目されているから人員を大量に割かざるを得ないし、かといって通常業務が減るわけじゃない。本来ならもっと前線で働いて欲しいリマインズ・ソニック君にも現代思想出版社(株)の火災について調査させているくらいだ」
ジ「マジですか?あいつが?」
シ「あ出版社は先の事件に現れた村上ハルヒの作品の出版権を持っていたので関係があるのかもしれないと上が懸念していて、確かにキャットウォーク使いが関連するならオプトとの共同捜査になるかもしれないほど事態は深刻だからね。炎使いのリマインズ君なら適任だろう。そんなわけで今、優秀な人材を手放す事は極めて難しいんだ。それにマール君の件が刑事事件になれば、我々の仕事がまた一つ増えるし人材の割かれる場所が増える。罪に裁きは必要だが、それは今このタイミングではない……というのが私の判断だ。分かってくれたかな?」
ジ「分かっていましたよ。ちょうど今から5分くらい前にはね」
シ「頼もしい限りだ。薪薪薪子の件は我々が継続捜査する。検死の結果彼女の死因は『死』だった。死亡推定時刻に彼女に起こったのはオーヴァゼアでも未知の超存在との邂逅による『死』そのものだと見ている。亜空間ブラスターの傷跡は死の前日に暴漢に襲われた時のものらしい。肉体は死んでいたが魂は死なず、死後も活動を続けていた。彼女が何故そのような存在と関わったのか、仮定の仮定なものでは公式には捜査令状が出せない。だからそれを探すため彼女の政治活動について情報を集めてきて欲しい」
お得意の遊撃任務だ。マールと俺にはひとまず処分される心配はなくなったのは喜ばしいが、両手話で喜んで入られない。
シ「まあ、何か問題があれば君達二人は謹慎中だったということで非公式に動いていたということになる。失敗は許されないぞ」
【夜が降りてくる】
「ぐ……っは……あ……は、ふぅ……っ!」
「んく、ふぅっ、はぁ……ほ、法神よ。我らを守護りしデグラストロギギウス……デグラストロギギウス……デグラストロギギウス」
「……ぐうっ!あ、あぁ……駄目、か。デグラストロギギウス。貴方への信仰は曲げてはいません……」
「それでも、間違ってはいないのです。私も、彼らも、そして、我々の未来も……貴方の望む未来に、たとえ我らが居なくても……」
【ほおずきみたいに紅い魂】
信仰はモラールのようなものだ、というのは『イベント』以降オーヴァゼアで誰とも無く言いだした言葉だ。モラールのパラドクス、あるかどうか不確かなもの。目に見えない神の『加護』は、『イベント』以降の世にあふれ出した。『加護』無き時代に信仰をっていた者たちの祈りは、今よりもずっと純度が高かったのではないか……云々。
圧縮機関車の20分は思ったよりも長く、マールの上機嫌は5分しかもたず今はずっと黙って目が死んでいるので、荷物棚に置き去りにされていた週刊誌など読んでしまった。グラフティOvTはオーヴァゼアのあれこれを写真入りで紹介する雑誌で、愛読者も多いらしい。今回の特集は『誇り高き礎のゴーシュ像』だった。今から向かうアジウォー広場にあるという真っ赤な像には興味があった。
マ「なあ……まだつかねェのか?」
ジ「俺のスポイラーによると、あと3分だな」
マ「何がスポイラーだよ。今時計見ただろ」
ジ「似たようなもんだろ。答えは変わらないし」
マ「それもそうだな……」
駅に着いたのはもちろん3分後のことだった。
【暗闇の風穴】
目的地は分かりやすかった。案内の掲示板もあったし、観光案内所でも説明してくれたし、マップにも載っていた。緑化教団グリーンプラネット本拠地もとい緑化祭壇本部はその名の通りグリーンだったし、植物園の中にあるような立地のくせにやけに目立つ緑色をしていたが、それはどうも魔術作用によるものらしい。パンフレットに書いてあった。
受「いらっしゃいませ。グリーンプラネット祭壇本部へようこそいらっしゃいました。アポイントメントはございますか?」
ジ「オーヴァゼアポリスデパートメントだ。広報担当のアカシャ・ロープに13時で約束を取り付けてある」
受「確認いたします……確認いたしました。それでは左手奥の関係者スペースへお進みください」
マ「へえ……なんだ。教団なんつーからうさんくせえと思ってたけど、割としっかりしてんじゃねェか」
ジ「そりゃそうだろ。第一印象は大事だし大体受け付けはああいうもんだろ」
奥に進むとすらっとした美女エルフが待っていた。金色の髪と薄く透明感のある白い肌のコントラスト、その豊かな髪から覗くとがった耳、真っ青に透き通る瞳……瞳は黒だ。何故か左腕に包帯が巻いてある。エルフには珍しいが、まあ……マールとは対照的な印象の女性だ。
マ「今失礼な事考えただろ」
ジ「なんで?」
マ「そういう目であたしを見てっからだよ」
ア「ようこそ。オーヴァゼアポリスデパートメントの刑事さん。私はアカシャ・ロープ。見ての通り混血エルフです」
ジ「あ。これはどうも。ジミー・セブンスライトです」
マ「あ、し、失敬…マール・シューケって言います。は、はは……」
自己紹介が遅れてしまったことに恥じ入りつつ、マールも俺も頭をかきながら挨拶を返す。
ア「それで、警察の方がコチラに何の御用でしょうか?」
ジ「まあ……ちょっと調査ですね。短刀直入に伺いましょう。この写真の女性・・・ご存知ですか?」
ア「この女は・・・いえ、この女性は田中薪薪薪子ですね。もちろん存じ上げておりますよ」
マ「あたしらはこの人の政策について調べてる。と、その前に・・・」
ジ「ああ。マール、その窓から向こう、東側に全力の炎障壁を頼む。あの時計で21秒後だ。俺は裏に回る。アカシャさんは身を低くして隠れていてください」
マ「あいよ。まったく人使いが粗いヤツだぜ!」
ゴシャシャシャシャ!!と外から何かを射出されたような轟音が聞こえるが、今から俺はそこに向かうしかない。
マ「だから退屈しねェんだけどよォ!!火炎・豪火防壁ィ!!!」
部屋に残してきたマールは楽しそうだった。俺も気分は似たようなもんだ。トラブル続きだけど悪くない。