Fツリー その1
エドゾー編終了まで
【始まり】
秩序──『イベント』の前と後では指し示す状態の程度が違うが、まあ、秩序と呼ぼう。別に独断でそう呼んでいるわけではない。彼の職場にはスローガンとして掲げられている(気をつけろ 秩序を乱す 悪いやつ)言葉だ。
どうにか一命を取り留めた世界は、奇跡的な偶然によって均衡が保たれることになった。完全中立都市オーヴァゼアは、既存のすべてから隔離された(見捨てられた)都市国家だ。そんな中にあって、警察という組織は役割を失わなかった。人が人を取り締まるための仕組みは、幸か不幸か、それを必要とする複数の超越存在によっておおよそ維持された。『魔力』『加護』『技術』の三すくみは、彼ら流入者にとっても好都合だったのかもしれない。警察は流入者の助力を得て、新たな任務を得た。民を守り、罪をくじき、支配者の居ないこの都市に、新たな王が生まれぬよう監視する。オーヴァゼアにとって秩序とは、現状維持の事なのだ。
【主人公】
さて、まずは俺の置かれている状況を説明しよう。
ジミー・”スポイラー”・セブンスライトは主人公だ。警官であった亡き父の遺志を継ぎ同じ道を選んだ。ジミーにとってそれは当然の選択だった。父を殺した犯人はまだ捕まっていない。いつか絶対俺がその罪を償わせる。そう決めたからだ。
「ですから、オーヴァゼア警察の使命はこの世界にこれ以上の混乱を招かぬことでありその先に待つ破滅の引き金を引かせないよう、ひいては市民生活を守ることこそ我ら警察官の誇り高き任務であり……」
法を司り、法を愛し、法治の素晴らしさを説く上司は、『加護』を得たものの一人だ。彼女だけではなく、警察はすべて『加護』を受けている。法の守り神である法神デグラストロギギウスは『イベント』の際にその法力を発揮し、結果として原住民たる人間を果ての無い混迷から救った。結果としてというのはそのままの意味で、彼自体にそのつもりは無かったのだ……
これは人間には感謝されたが、同時に畏怖されるきっかけにもなった。超越存在にとっては戯れに過ぎなくとも、『イベント』以前の世には存在しない理不尽をたやすく生じさせる。人間は愚かで時として脆い。そういうところは嫌いだが、そうも言っていられない。俺は警察官だからな。
俺がスポイラーと呼ばれるのは、直感の鋭さがあるからだ。直感は今日も冴え渡っている。例を言おう。上司の退屈な訓示はあと三分で終わる。そして、それと同時にもっと厄介な仕事が舞い込んでくることも分かっていた……
「なあ、スポイラー。このクソみたいな話はまだ終わんねェのか?」
口うるさいマール・シューケは同僚だ。態度は悪いが、実際立ち居振る舞いも頭も悪いように見えることも多いが、仕事の腕は立つ。顔は美人だが、炎使い特有の、粗野な荒事を好むプリミティブな性格のせいで男受けが良くない。いや悪い。これは本人に言うと殴られるので賢い(クレバー)俺は黙っていたが、他の同僚とつるんでいる姿は見たことが無かった。色々と惜しいと思う。からかうと真っ赤になって面白いし黙っていれば美人なのだが……
「三分だ。もうちょっと待ってろ」
「なんだ、いつもより短いじゃねェか。どうする? 終わったら飯でも行くか?」
「仕事があるんだ。いや、今から来る」
「おっと、もうこんな時間か。というわけで、本日もまたオーヴァゼアの治安維持に邁進するように。ああ、ジミー。君は後で私のところに来る事。よろしいね?」
「分かりました(オーケイ)」
チクショウ俺が何でこんな目にとは思っているが、分かっている未来にため息は出ない。それでも面倒なことは変わらない。億劫な気持ちで上司の部屋に向かおうとすると、にやついたマールが目に入った。
「相変わらずだな、スポイラー。面倒ごとは全部お前に行く」
「お前が気に入られてないだけだ、マール」
【始まり】
「今から君を裁く」
「近い将来、君に裁きの時が訪れる。自然に生き、そして死ぬ。それが運命だ」
「罪があるわけではない。むしろ良くやってくれた。感謝している」
「我々も本意ではないのだ。理想を共にした同志にこのような仕打ちを行うのは」
「しかし、必要な犠牲だ」
「オーヴァゼアには、君はそぐわない」
「一つだけ心残りがあります」
「聞こう。友の言葉として、最期の願いは叶えよう」
「次元の違う存在だが感情が無いわけではない。君達の言う断腸の思いなのだよ」
「どんな願いも聞き入れるつもりだ。それは君への償いとしよう」
「では──」
【始まり】
「頼みたい事というのはだ、ジミー。護衛の任務だ」
俺のような平の警官に与えられたロッカールームとは違い整理整頓が行き届いた部屋はきっちりとしたパンツスーツ姿とあいまって彼女の──シオーヌ・エリューの性格を印象付けた。整頓されたデスクの上のカップからは湯気が立ち上っていた。あの後すぐに出頭したはずだが……いつコーヒーをいれたのだろうか。そんな時間は無いはずだった。
「珍しいですね。俺にそんな、ああ、その、特殊ではない仕事だなんて」
「君の専門が殺人なのは分かっているよ。だが今回の任務は少々厄介でね。荒事への対応も求められる。それと、その直感も必要だ。君は適任というわけだ」
引き出しから取り出されたファイルケースを受け取って中の資料に目を落とす。速読は当然マスターしているので、すぐに資料の概要は分かった。シオーヌはカップの中身をすすり、たっぷりと一呼吸置いて続けた。
「護衛の任務だ」
「護衛? 本当ですか?」
「冗談で呼び出したりはしないよ。田中薪薪薪子の護衛に当たってもらいたい」
「田中薪薪薪子ですか?」
「ああ。田中薪薪薪子だ。名前くらいは知っているだろう?」
田中薪薪薪子とは最近話題のオーヴァゼアでは名高い女性議員だ。人間で、珍しい事に『加護』も持たない本物の人間だ。『イベント』以前のような人間らしい暮らしを提案していおり、薪薪薪子の政策には一定の支持者がいる。どんな勢力とも交わらず、それ故に黒い噂も絶えない。ただの理想主義者が簡単に力を得られるほど、この都市は清らかではない。
「良い噂は聞きませんね」
「一方で、オーヴァゼアでは評判も高い。良くも悪くも仕事熱心ということだ。政治家というのは恨まれるのも仕事のうちだからね。だが、殺されることまでは含まれない」
「それは俺もですよ。恩給は期待できないですし」
「違いない。いや、そこで君の出番というわけだ、スポイラー。君の父上は勇敢だった。その気質を、才気を、才能を、えーとあとは……それくらいでいいか。それらを君は十分に、いや十二分に受け継いでいる」
俺が父から継いだのは遺志だけじゃなかった。父についていた『加護』、父と交際のあったものの『技術』、そして父も備えていた『魔力』。父の残した契約の通り、それらはすべてジミー・セブンスライトが相続した。対応力の高さで言えば、警察署内でも右に出るものは居ないと自負しているし、だからこそ厄介ごとを回される羽目になっている。失敗しない便利な使いぱしりとしてだが……
「我らが法神の導きだよ。オーヴァゼアなどという名前で呼ばれてはいるが、ここは立派に街だった。そして今も街である。都市国家の秩序を守れるのは我々警察しか居ない。探偵などには断じて任せられない。断じて。あのボロクズまといめ。ジミー。これは警察の威信がかかった重要な任務なん「脅迫状でも届いたんですか?」
遮るように切り出す。冗長な口上を朗々と語っていたシオーヌも理由の説明くらいしておくべきだと踏んだのだろう。特に抗議もなく、組んでいた足を組み替えながら答えた。
「二日前、秘書が死んだ」
「殺されたんですね?」
「ああ。というよりも、彼女の周りでは最近妙な事が起こりすぎている。詳しい事はその資料に書いてあるから、目を通しておいて欲しい」
シオーヌはずっしりと重い紙の束を指し、話は終わりとばかりにコーヒーをすすり始めた。追い出されないということは来客の予定もないということだろう。接客用の応接セットに陣取り、俺は捜査資料に立ち向かった。
【閑話】
その昔の話だ。俺は仕事終わりに自販機でジュースを買った。何のことはないごく普通の日常生活だ。
自販機には当たり機能がついていた。俺は外れてその場から立ち去った。すると後ろにも客が居たらしく、喜ぶ声と当たりの音が聞こえてきた。だが、次の瞬間それは悲鳴になった。
振り返ってみると、客は自販機ごともっちりした触手の塊に頭から飲み込まれて死んでいた。触手生命体ピニョルヌルルは自販機の当たり音が嫌いなことで有名だ。幸せと不幸を分けるのは、そんなもんだ。
【光明】
部屋を出ると、マールが廊下で待っていた。壁にもたれかかり、こちらに気づくと気だるげに手を振りながら近づいてきた。
マ「よお。どうだ? また面倒くせェ奴か? 何なら手伝ってやってもいいぜ。そうだな、ディナー一回奢りってのはどうだ? 安いもんだろ?」
ジ「……」
マ「……何かあったのか?」
いつもの陽気さは鳴りを潜め、マールは周囲に聞こえないような小声で問いかけてくる。よほどの形相になっていたのだろう。彼女のトーンは神妙そのものだった。
マ「まさか……例の件」
ジ「ああ。親父の事件に関係が……ありそうだ」
シオーヌから受け取った資料には、田中薪薪薪子の秘書の他に関係者四人が被害にあった内容が記されていた。シオーヌからも口外するなと言われていたが任務に当たる際は二人一組が基本だ。相棒との情報共有は必要だろう……
ジ「二日前、同時多発的に五つの殺人事件が起こったって書いてある。公表されなかったのは田中薪薪薪子側の要請じゃなく、警察側の情報規制が理由らしいな」
ファイルケースをマールに押しつけ続ける。
ジ「マールの腕を貸してくれないか。田中薪薪薪子の護衛だ。任務に関係した五件の殺人がファイルされてる。受けるなら読んでくれ。いや、読んで受けろ」
マ「しょうがねェなあ。お前にそう言われちゃ断るのもかわいそうだからな……」
ジ「近い五人が死んでる。次に殺されるのは自分じゃないかと薪薪薪子は怯えている。政策が政策だ。心当たりなんて話じゃないほど敵を抱えてる」
マ「その五人の中に、親父さんを殺った奴に結びつきそうな事件でもあったのかよ」
殺された状況、殺された手口、殺された場所……五件全てに見覚えがあった。超常の力で殺された男、亜空間ブラスターのようなもので空間ごと焦がしつくされた男、普通の致死、魔法による瞬間死、そして……
ジ「全員……五人とも、疑わしい」
マ「マジか。それも全員て……」
父の死因は七つあった。オーヴァゼアを守る警官だった父は六回殺され、それでもなお死ぬ事が出来ず、最後は……
ジ「この中の誰か、あるいは全員が俺の親父を殺した犯人かもしれない。俺は……俺はやる」
父から受け継いだのは遺志だけではない。継承したのは父に助力していた七つの存在の契約そのもの。スポイラーはその中の一つに過ぎない。
直感が叫んでいる。ジミー・”スポイラー”・セブンスライト。七つの光を継いだのは、俺だ。
【始まり】
それは大転機と呼ばれた。
それは黙示録と呼ばれた。
それは境界崩落と呼ばれた。
それは新世界の始まりと呼ばれた。
それ以前に起きたあらゆる全ての出来事など、些細なことでしかなかった、とまで言わしめたその事件は、まるで触れることを恐れるかのように、ただ『イベント』と呼ばれた。
未知のものを語る際、あるいは事象を指し示す際、用いる語には表現者の目線が色濃く反映される。大災害と呼ぶものは過去を懐かしみ、大転機と呼ぶものは少なくなく、新世界の始まりはいささかオカルトが過ぎている。報道各社に『イベント』が好まれたのは、政治的・感情的な中立性を重視したというが、それだけではない。
結局のところ、そう呼ぶしかなかったのだ。彼らのような、たとえ黙示録が訪れようとも、生き延びてしまった哀れな者には。
世界は混沌としている。だが、世界は未だに終わっていないのだ。
《始まり2》
今から行われることは、アンフェアである。
アンフェアとはフェアではないこと。フェアとは公平であること。つまりは不公平のことだ。
加護を持つ者も居れば持たないものもいるし、魔力を持つ者も居れば持たないものもいるし、技術を持つ者も居れば持たないものもいる。。”スポイラー”は加護の一つだ。事象流転界面の記録係の帳簿を盗み見るらしい。らしいというのは、実際使っている俺にもイマイチわからないからだ。鋏を使うとき、別に原理を意識する事はないだろ?
それをアンフェアと呼ぶものはいる。田中薪薪薪子のような、人間だ。
【人物紹介】
ジミー・”スポイラー”・セブンスライト。
主人公。
種族:人間(契約者) 性別:男 年齢:まだ若い
外見:警察ではあるが制服は着ておらず、くたびれたワイシャツにベストというシンプルな格好。
本人は動きやすさを重視しているため、飾りっけのない服装で十分だと思っている。
黒目黒髪という、オーヴァゼアには珍しい顔立ち。顔はいいほうだが、本人は気づいていない……
性格:良心を早くに失ったせいか、シニカルで斜に構えがち。激昂した姿を見たことがあるものはいない。
戦闘時には性格がさらに冷静になり、目的と効率のためなら平気でどんなものでも天秤にかける。
能力:『セヴンスライト』
父親、サウザンド・セブンスライトから受け継いだ七つの契約。能力は多岐に渡る。本編で判明させます。
今判明している契約は未来視。
荒事は好まないが、支給された特殊警棒と拳銃で害なすものを無力化するだけの身体訓練は受けている。(オーヴァゼアの犯罪者は通常の兵器はあまり通じないので、能力で立ち向かう事が多い)
マール・シューケ
主人公の同僚。警察官。
種族:人間(魔法使い) 性別:女(一応) 年齢:ジミーと同じくらい
外見:黙っていれば美人。にわとりのとさかのように真っ赤な髪と、服装の服務規程を無視したパンク気味のファッション。実戦重視の実働部隊ということもあり、上司からお目こぼしされている。両手首に巻いたチェーンには神祇官と呼ばれる魔法結社集団から入手した(物を持った機械兵ギャング団を叩いた時に押収した)強い浄化の『加護』を秘めている。
性格:金にがめつい即ぶつ主義者で、勝気。男社会である警察でもやっていけるほどのしたさかさを持つ。
能力:炎にまつわる事象の操作
炎使いなので攻撃性能は高いが、反面性格の通りに守りや絡め手に欠ける。それでも分かりやすく威圧的で強力なので、マールを敵に回す事は考えたくは無い……
警官として法神の『加護』も受けている。
シオーヌ・エリュー
主人公の上司。警察官。
種族:人間(加護持ち) 性別:女 年齢:30代か?(恐ろしくてはっきりと聞いた事はない)
外見:パンツスーツ姿のバリキャリ。絵に描いたような出来る女上司。服装の乱れは心の乱れらしい。
性格:法神の信奉者。かなり有能で、若くして責任ある役職についている。良くコーヒーと青ダークサボテンの切り身を食べている。
能力:警察として法神の『加護』を受けている。法神を熱心に信仰しているので、得られる加護も大きいようだ。
田中 薪薪薪子
護衛対象。今回の事件の鍵。
種族:人間 性別:女 年齢:不明
外見:初老に差し掛かりつつある壮年の女性。クリーム色のスーツがシンボル。
概要:田中薪薪子の娘で、地盤を継いで政界入りした。多種族の流入によって相対的に低下した人間種族の生活と地位向上を図る政党、『人間大好き戦線』の代表。その政策に共感するものは少なくなく、『イベント』以前を知る年齢層の支持はアツい。
3話へつづく
始まり】
シ「珍しい。それもとんでもない失態を演じたもんだだね、スポイラー」
ジ「ええ、まあ……でもどうしろっていうんですか?被害者は既に死んでたんでしょう?」
俺たちが駆けつけたとき、田中薪薪薪子は死んでいた。検死の結果、死後すでに4日が経過していた。
ただ、俺とマールが見たのは、薪薪薪子の動く姿だった。薪薪薪子は護衛の任務に選ばれた俺たちを見て、安堵したような表情を浮かべ、そして肉体を崩壊させた。”元の時間”を取り戻したかのように。
シ「護衛対象は死亡。死因は不明だが、呪詛か、あるいは魔導具による非接触殺人だろう。他に気になるところといえば」
ジ「いえば?」
シ「ここだ、この指先。亜空間ブラスターで焼かれた痕跡がある」
ジ「亜空間ブラスターですか?あの、この間メルキセデク銀行の件で根源的悪懲罰連合軍の奴らが使ってた」
シ「同じ型と見ていい。出処を調べる必要もあるが……こちらは我々がやっておこう。君たちは今までどおり遊撃部隊として動いて欲しい」
護衛依頼を受けていた政治家が死んだのだ。死亡時刻が依頼時刻の前だったとしても、警察にとっては相当なスキャンダルになる。
それなりの対応をするには、長い長い手続きが必要だ。それでは時間がかかりすぎるというので、シオーヌはいつも俺たちのような子飼いの部下に別件の捜査権を与えて別働隊にする。最終的に出す結論が同じであれば、切り口はどこでも良いということだ。
ジ「『裂け目』の件はどうするんです?人手が足りないんじゃ?」
シ「本部にはリマインズ・ソニックもいる。大丈夫だろう」
リマインズ・”ソニック”・フレーミーは同僚の名前だ。音術と炎に長けた術者で、かなりやる。同じ炎使いのマールとは犬猿の仲だ。
シ「それに『裂け目』は特定等級犯罪ではない。向こうはオプトにでも任せておけばいいさ。例の道具屋絡みで、奴らもかなり気合を入れているみたいだしね。この間コアラくんが言ってたよ。優秀な部下を持つと気が楽だと」
ジ「それは課長もですか?」
シ「今後もそうあって欲しいね。ジミー・スポイラー」
【道の終わり】
ジミー・スポイラーは警察官の息子だ。ある日突然父が死んでも、警察官の息子という事実は変わらなかった。
リマインズ・フレーミーは同僚だ。マール・シューケと並んで、同じ課長のもとで働く実働部隊だ。彼も父は警察官だったし、警察官になりたての頃はお互いに対抗意識を燃やしていた。リマインズ・ソニックはその名の通り音術が得意で、ジミーの『セヴンスライト』にはない要素だ。ある時、ジミーとリマインズは学校占領事件に出くわした。ふたりとも非番だったが、目の前で起こった事件を放っておけるほど世の中を嫌ってはいなかった。反りの合わないと思っていた相手との和解なんてものは、そんなものだ。
【始まり】
葬儀は手早く行われた。喪主は田中薪薪薪子の娘、田中薪^4子。次に地盤を受け継ぐのは彼女らしい。薪薪薪子の、あるいは薪薪子の時代からの支援者たちが押し寄せ、涙ながらに被害者の死を悔やんでいる。
マ「こちらはマール。どうだいスポイラー。変わったことは?」
外で周囲を見張っているマールからの通信だ。耳につけた小型無線機ごしに、気だるげな声が響く。
ジ「泣いてるやつが多いな。それから、泣いてない奴が少し。他はなにもない。至って普通の葬式だ」
マ「そりゃいいや。変わった葬式はもう沢山だ……粘菌拝受教の葬式は、なんつーか、最悪だった」
ジ「お前がキレて会場ごと焼き尽くさなきゃ、なんぼかマシだったんじゃないかな」
マ「細けェことを覚えてんじゃねェよ。大体、参列者全員粘菌まみれにして踊り念仏ってのが……」
通信機から漏れる雑音から意識を切り、参列者の列を眺める。周辺で立て続けに殺人が起こってからの今回の件だ。支援者の中には動揺を隠せないものも少なくない。動揺しているということは犯人に関わりのあるものではないから、そうではない物を探す。
マ「それにしても、なんでこんな会場なんだか。代議士サマの葬儀場にしちゃ、ずいぶんと小さい箱じゃねェか。おまけに隣はカウンタライマー区。治安がいいってわけでもなし」
シ「田中家の地盤はここから始まったんだ。初代が議場からここまで道路を切ったことは有名だな。そのおかげでこのあたりはかなり発展した」
マ「へえ、そいつもスポイラーか?」
ジ「いいや、捜査資料を読んだ。マール、火災報知器を鳴らせ。スプリンクラーを起動させろ。特対A対応」
手がかりが転がってきた。視界の先、一人の男の姿を捉える。黒髪黒目、人畜無害な人間の姿をしているが、この『セブヴンスライト』は誤魔化せない。会場が火の海になるまで、あと14秒。上を向けて銃を撃ち、会場の人間に警告する。
ジ「大人しくアンチ・マテリアル・ライフルを捨てろ。勇者エドゾーだな。重要参考人だ。田中薪薪薪子の件で徴発する。着いてきてもらうぞ」
【亡き王女のためのテプセット】
エ「ふざけんじゃねえェェェー!!俺はそんなんじゃねえんだよォォーーーッ!!」
会場を混乱の渦に叩き込んだ張本人、政治家殺しのテロリストとして目を付けられている勇者エドゾーが叫んだ。懐から取り出したアンチ・マテリアル・ライフルを構えあさっての方向に向けて銃撃する。素人の扱い方だ。反動で体ごともっていかれてエドゾーは窓ガラスをぶち破って外に転がっていった。ここまでで2秒。
マ「おい!なんかこっち出てきた奴いるんだけど!?」
ジ「炎ででも閉じ込めといてくれ」
マ「人使いが粗いなァ!」
スプリンクラーが作動した。炎の無い会場に降り注ぐ水は全く水圧が衰えない。銃声とあわせて、集まった参列者が散り散りに会場から逃げていく。ここまでで7秒。
人が減った会場に残る人影は二つ。この俺、ジミー・セヴンスライトと喪主の田中薪^4子。母に似て(というか母が似せたのだろう)金髪のツインテールというあざとい姿をしている。有権者の受けがいいらしい。状況が読み込めていないのだろう。逃げ遅れた彼女を避難させるため、走って近づく。9秒。
そしてもう一つ。先ほどまでは何も無かった空間にひずみが生じた。10秒。ひずみにはアンチ・マテリアル・ライフルの弾丸がめり込んでいた。11秒。ひずみは一瞬で人の形になる。12秒。外からの銃声と罵声と衝撃がそれに降り注ぐ。13秒。
ジ「秘術権能!断絶時空間!!『セヴンスライト』の名の下に!!!!」
?「グオオオオオアアア!!!!!」
ひしゃげた炎魔族が絶叫し会場すべてを炎で多い尽くしたのは14秒後のことだった。
【ネクロファンタジア】
その魔力波形には見覚えがあった。三ヶ月前のメルキセデク銀行連続襲撃事件で見た魔族のものに似ている。爆発的な威力とまではいかないがただの人間にとっては相当な脅威だ。この場に集まっていたはずだったのはただの人間が多かったはずだ。薪薪薪子の熱狂的な支持者は人間が多い。
ジ「間に合ったか」
薪「あ、ありがとうございます……」
会場ごと焼き尽くされるはずだった薪^4子を抱きかかえ安堵する。どうやら無傷で済んだようだ。『セヴンスライト』の一つ、時空間限定操作は時空間を操る程度の魔術で、俺と薪^4子の居場所を一時的に世界から隔離することで魔俗の炎から逃れることが出来た。
ジ「早く逃げて。外に俺の仲間がいる。外見は怖いが安心だ」
薪「は、はい……」
勇者エドゾーを告発したのはこのためだ。スプリンクラーの起動とあわせて事前に全員を避難させて被害を減らすためあえて一芝居撃った。13秒次点での銃撃はエドゾーのものだろう。理由は分からないが、魔族に向けての援護射撃だった。
?「グオアアアア!!!!キサマ!!!炭ニナラナイ!!ナゼダレモイナイ!!!?」
ジ「”鮮血纏い”か?それとも知り合いか?なんにせよ炎熱による無差別虐殺は重罪だ。いや差別虐殺も重罪だけど……詳しい話を聞かせてもらおう」
?「フザケルナアアア!!!!!!」
全身が炭化したような真っ黒で覆われた魔族が両手をめちゃくちゃにふりながら火炎を飛ばしてくるがこれくらいの攻撃ならば法神の『加護』が跳ね除ける。奴(仮にU.N.オーエンと呼ぶ。アンノーン(不明者)じゃ芸がないだろ?)は今現行犯だ。現行犯相手の『方神』はかなり強い。
ジ「公務執行妨害と正当防衛だ。悪いが全力でやらせてもらうぜ、ミスターオーエン」
U「ヌオオオオオオオ!!!!!」
一つ覚えのように炎を薪散らす。スプリンクラーのおかげもあって威力は大分弱まっているが、厄介な事に変わりは無い。だが俺にはリマインズ・ソニックやマールといった炎使いとの戦闘経験がある。弱まった炎を法神の加護を受けた警防で振り払って接近する。ジ「そんなもんかよ!」
U「ナラバドウダアアア!!!!!」
ジ「なっ!?」
あと2mのところでU.N.オーエンが爆発した。衝撃をもろに受け後ろに転がってしまう。まさか自爆魔法を使ってくるとは思って居なかったし、自爆魔法の後に使用者が生存しているとも思って居なかった。オーエンは無傷だった。
ジ「化け物かよ」
U「オオ・・・キサマ!シブトイ!!!!」
受けた傷を治癒(『セヴンスライト』の一つ、左手にはめた指輪型の因果逆性治癒装置を使えばこの程度の傷はすぐに治る)して立ち上がる。近づけば爆発で押し戻される。かといって遠くに居ては手錠もかけられない。どうしたものか。
U「コレデ・・・オシマイダアアアアアア!!!!!」
ジ「ちィッ!しまった!!!!」
悩んでいる時間が隙になった。オーエンは両手に魔力を集中させ、どろどろに燃えた火炎球を作っていた。あんなものを投げられればひとたまりも無い。俺自身はともかく、会場ごと破壊されれば身動きが取れなくなり奴を逃がしてしまう。
U「クラエエエエエエ・・・・!?」
時空断絶を使おうと身構えていたら、オーエンの両手から熱が消えていった。オーエンの両腕は根元からもげ、頭と胴体にも大きな穴が開いていた。
【人物紹介2】
ジミー・”スポイラー”・セブンスライト。
主人公。
能力:『セヴンスライト』
父親、サウザンド・セブンスライトから受け継いだ七つの契約。能力は多岐に渡る。
今判明している契約は未来視、断絶時空間などの時空間限定操作、左手にはめた指輪型の因果逆性治癒装置による回復。
【信仰は儚き人間の為に】
ジ「ふう。なんとかなったか」
U「ガ、ア、オオ……」
声が消えていく。もがれた両腕は消滅し、そこから徐々に肉体も消滅つつあった。この威力はアンチ・マテリアル・ライフルのものだ。外に転がっていったエドゾーの銃撃で助けられた。
マ「へい、スポイラー。連れてきたぜ」
エ「なんなんだよマジで。俺がなにかしたのか?俺はただのciv好きなのに?頼むからその銃だけどっか向けてくれない?」
マ「そういうわけにはいかねェんだな。こんなところであんなもんぶっ放しやがって。ありゃ重罪だぜ」
薪「違うの!やめておまわりさん!!」
逃したはずの薪^4子が走って戻ってきた。面倒なことにならなければいいが。
薪「エドゾーは私を守ってくれたの。三日前、ママと私が謎の覆面を被った一団に襲われた時、どこからともなく現れて以降私のことをずっと守ってくれているの・・・」
エ「よせや。俺は金髪ツインテールなんて別に好きじゃねえんだ」
ジ「そういうことだ。まあ最後の援護は助かったよ。おかげで炎魔族を蹴散らせたし、実際のところあんたがテロリストだってのは信じてない。あんた人間だろ?薪薪薪子は魔術死だ、あんたには出来っこない」
エ「は?俺だってやりゃ出来るっつーの。お前よりブラサバも上手い」
薪「いいの!エドゾー、もういいのよ!」
エドゾーをかばう薪^4子の熱意にほだされたというわけじゃないが、興が削がれたのも事実だった。子供の前で喧嘩腰になるのも馬鹿らしい。
ジ「暗殺の依頼主も見当がついてる。内部の内通者を通じた外からの介入を警察は許さない。今頃同僚がなんとかしてるだろう。だから俺も片をつけなきゃな。法神に笑われちまう。」
マ「けどよスポイラー。あたしには分かんねェぜ。今回の件、犯人は何が目的でこんなことをやったんだ?ただの愉快犯にしちゃァ悪質だし向こう見ずすぎる」
ジ「簡単だよ。なあ、マール・シューケ。炎魔族はお前の手先だろ?」
【運命のダークサイド】
マ「な……何言ってんだよジミー。あたしが?冗談だろ、おとり捜査でもやろうってのか?」
薪「おまわりさん……」
エ「マジかお前最低だな」
マ「ちげえっつってんだろ!なあジミー!?」
ジ「第一の疑問は、奴のやり口だ。田中薪薪薪子は死んだし、暗殺依頼を受けたエドゾーは例の襲撃の時に娘をかばったらしいじゃないか。地盤を継ぐ娘の暗殺か、あるいは支援者の抹殺か。そんなものを警察の前で実行する理由が思いつかない」
マ「意味なく力を使うような気の狂った連中くらい、ここにはごまんといるだろうさ、スポイラー。無能力者を熱殺するのは例の”鮮血纏い”の手口にも似てる。疑うならそっちじゃねェのかよ?」
ジ「そして第二の疑問はエドゾーの援護射撃だ。俺はエドゾーを捉えておけと言ったし、マール、お前がしくじるわけがないと思っていた。それでもお前が拘束していたはずのエドゾーが銃を撃った。らしくないミスだし、特対A対応では絶対にしたことがないミスだった。炎で分身を作る式神術の応用だろうけど、集中しすぎて他への意識がおそろかになってたんだろ」
マールの両手のブレスにあるのは式神由来の浄化石だ。昔潰した犯罪集団からの押収品だが、他にもくすねていたとしてもおかしくはない。炎で分身を作り出すのは高等魔術(ランクB)だ。
ジ「”鮮血纏い”の手口を真似たのも失敗だったな。魔力波長まで似せたのはご苦労だったが俺の目はごまかせないし、お前はあそこまでは非道になれない……結果として誰も殺せていない。俺なんかに構わず外に出た連中を追い回せば良かったんだ。止めてもらいたかったんじゃないのか?俺に」
マールの表情が青ざめていく。いつもの軽快で口うるさいマールはいない。スプリンクラーが作った水たまりの上で、マールはうなだれていた。
ジ「お前だ。マール……少なくとも今回の襲撃に関していえば、犯人はお前しか居ないんだよ」
マ「ジミー。相棒のミスで気づくとはね。流石だ」
ジ「動機が分からない。お前がそこまで追い詰められていたことにも気づけなかった。俺はそんなんじゃないよ」
マ「金だよ。治療費、弟の話はしたことがあったろ?金がべらぼうにかかる。それでも今まではなんとかやってきた。状況が変わったのは一週間前、容態が一変して集中治療室さ。警官の月給じゃ到底無理なんだ……そんな時、前金が振り込まれてた。薪薪薪子の関係者を、とりわけ田中の血を引くものを始末しろという依頼がね。誰の依頼か知らねェが、ジミーのお誘いは渡りに船だった。あたしはにはそれしかないと思った……でも、もうおしまいだ。何もかも」
天井を仰ぎ、マールは大きくため息をついた。観念した笑みだろう。それは危うくも見えた。自死を選ぶかもしれない。
マ「ジミー。あんたからは逃げられない。こうでもしなきゃァな!!!!」
ジ「!!!」
マールの両手から炎がほとばしる。両腕のブレスが叫ぶように光った。灼熱の、先の炎魔族とは段違いの火力だ。周りの水たまりが音を立てて蒸発していく。俺もエドゾーも薪^4子も、全てを焼き尽くして逃げるつもりーーなわけがない。法神の加護だけじゃない、俺の力を知っているマールはそんな事ができるとは思っていないはずだ。だがそんなことを知らないエドゾーは銃で抵抗するだろう。理由をつけて殺されるつもりか。だが。
マ「燃えろ……全て燃えろ!!禁術!!!フィクストスター・フレアシャー「させるかよ!!!!」
術者の命すら燃やし尽くす禁術の発動に介入し、詠唱を狂わせる。時空間限定操作の応用で、詠唱直前まで部分的に時間を巻き戻した。それでもなお燃え盛る炎の中に立つマールに向けて手を伸ばす、伸ばした腕が焼き尽くされる、それを治癒してなお手を伸ばす。
マ「何をする!?やめろジミー!頼む!お願いだ、このまま死なせて」
ジ「俺は気づけなかった!お前の抱える闇に、苦悩に、何にも!!相棒の危機に俺は何もしてやれなかった!!だけどな!!!今回は……今回こそ!!俺がお前を助ける!!!!だから諦めんじゃねえ!!!!マール!!!!!」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
つづく!!
【アルティメットトゥルース】
エ「世話になったな。色々と」
ジ「これも仕事だ。市民を守るのも悪をくじくのも困ってる相棒をを助けるのもな」
暴走を止め後、マール・シューケはそのまま倒れて気絶した。禁術を発動させかけた代償は時間を巻き戻しても残ってしまったので、外傷や命に別状はないが体力・魔力を使い切ってしまったのだった。ドロドロに溶けたブレスは直しておいたので、両腕の火傷も完璧に消し去ってある。
ジ「あてはあるのか?テロリスト呼ばわりしといてなんだけど、そのお嬢ちゃんを連れてくつもりなら厄介だぜ」
エ「それなら大丈夫だ。俺はカウンターライマーに行く。あそこに行きゃ魔力も加護も関係ねえからな」
ジ「カウンターライマーとは考えたな……でもラップなんて出来るのか?」
エ「実は外じゃ米津玄師から襲名を持ちかけられたことがある。天鳳やってたから断ったけど」
ジ「俺の見える未来じゃまだ死ぬような事はなさそうだから安心しろよな」
エ「そうか……じゃ、何かあったら言ってくれや。恩は返すつもりだ」
田中薪薪薪子殺しの犯人はまだ分かっていないが、これは相当骨が折れる事だけが分かっている。俺のスポイラーはまだ事件の解決をスポイルしていない。
エ「ちなみに思い出したんだけど、その炎使いをそそのかしたって奴には心当たりがあるな。俺に薪薪薪子暗殺を依頼したのは日本国のトップだ」
ジ「なんで?薪薪薪子はあの国の特使だろ?自分の国の政治家を殺す必要なんてあるのか?」
エ「知らねえよ。でもなんかあんだろ。じゃなきゃそんな事やらねえっつーの」
ジ「それもそうか……まあいい。ここから先は警察の仕事だ」
薪薪薪子の死で田中の政治力は一時的に失われるはずだったし、薪^4子が地盤を継ぐにしても時間がかかる。それに薪薪薪子本人の暗殺には成功しているのだからマールを使ってさらに揉め事を起こす必要がある連中となれば限られてくる。薪薪薪子自体が日本国の政争に巻き込まれたと考えると、跡目を継ぐものがいることすら好ましくないような奴がいるのだろう。怪しいのは日本国大使館の連中だがそうやすやすと手出しは出来ないし、正式な礼状を取るためには今回の件をすべてシオーヌに報告する必要が出てくるが、マールの件は伏せておきたかったのでそれは出来ない。
ジ「因果な商売だな……警察ってのも」
?「その言葉が欲しかったの!これでやっとピリオドが打てるわね」
ジ「誰だ!?」
声の主は薪^4子だったが、その声は薪^4子のものではなかった。どこからか響いて直接脳に文字を投射するような奇妙な声はやけに澄んでいた。瞳に宿るものが違って見えたのは彼女の目が青白く奇妙なネオンのように輝いていたせいだった。
?「私は村上ハルヒ。超作家。そして真実をオーヴァゼアに記し続けるための作家のハルヒの団の団長よ」
エ「そうか何言ってんだお前!嬢ちゃんをどこやった!?」
村「心配しなさんなってば。私は作家、作家は取材をするもんでしょう?だからこの子の体を一時的に借りているだけよ。害は無いしすぐ返すわ。ああでも、この子結構なところから命狙われてるっぽいからあとはよろしくね」
エ「後はよろしくねじゃねえだろ!大体何言ってんのかさっぱりわかんねーんだよ!」
ジ「仮にそうだとしたらそれは犯罪だ。オーヴァゼアでは他人の意識を乗っ取ることは禁止されている」
村「あら、そう?おかしいわね、それにしては全然法神の罰がくだらないみたいだけど?」
ジ「……法神は直接裁きを下さない。それは俺たち警察の役目だ」
村「それなら楽しみに待っているわ。ジミーとか言ったかしら。それからエドゾー。ただの人間の分際で私を楽しませてくれたのは中々だったわ。私には書くことしか出来ない。終わらせることも。だから……」
エ「とっとと嬢ちゃんから離れろよ。俺はエロくて俺に優しい美少女は好きだけどお前みたいにわけのわかんねーし俺に優しくない美少女は嫌いなんだ」
懐から取り出したアンチ・マテリアル・ライフルを握る手は震えていた。エドゾーに薪^4子を撃てるはずがない。ブラフにしてはあまりにも拙い。
そんなエドゾーを尻目に、薪^4子の体を乗っ取った村上ハルヒは人差し指を突き立てる例のポーズをとった。幻覚だとは思うが、その時確かに俺は彼女背後にビスクドールの傷一つない肌をした謎の美少女の姿を見た。
村「”””真実”””にたどり着きなさい。来ないと、死刑だから!」
ジ「キャットウォーク!?クソッ!オプトは何やってんだ!?」
痕跡すら残さず飛び立った村上ハルヒのキャットウォークに気づけたのはその直前にキャットウォークをスポイラーしたからだ。薪^4子の体からハルヒが抜けた瞬間、薪^4子の体がくず折れる。エドゾーがアンチ・マテリアル・ライフルを投げ出して床に倒れる前にキャッチしたせいでアンチ・マテリアル・ライフルが暴発し物凄い音を立てて窓ガラスをぶち抜いた。その音で薪^4子が目覚める。
薪「あれ……ここは……?私、何をしていたんですか?」
エ「何もねえよ。でもここは危険なんだ。お前も母ちゃんが死んで辛いとは思うけど、悪いが俺と来てもらうぞ」
薪「えっ……は、はい///エドゾーさんは命の恩人だし、私、頑張ります……」
エ「だから俺は子供が嫌いなんだ……」
アンチ・マテリアル・ライフルを因果逆性治癒装置で修理して手渡す。エドゾーは薪^4子の手を引いてというか手を引かれて遊園地を連れまわされる父親のような足取りでカウンターライマー区へ去っていった。