春のはじめのカフェテラス(575文字)
お部屋のテーブルに、チューリップを飾っているの。
スーパーの店先で安売りしていた、二輪の黄色いチューリップ。
細口のガラスの花瓶に差してみたら、思った以上にきれいでね。
寄り添うみたいにすうっと伸びて、見るたびにうれしくなっちゃうの。
花壇で見かけるチューリップは、先がひらいているのも多いでしょ。
でもあたしが買ったのは、先がふんわりすぼまっていて、ひかえめでやさしい感じ。
ふっくら丸くてなめらかなところが、なんだか卵にそっくりよ。
羽毛に包まれた白い小鳥の、おなかの丸さにも似てる。
でも色は黄色だから、見ていると元気をもらえる気がするの。
こういうのをたぶん、自然の、ええと、自然の造形美っていうのよね。
いうのよね? ねえ、聞いている?
うん、聞いてるよ。
ただ、目を上げると馬鹿みたいにきみをみつめてしまうから、いまちょっと困ってるんだ。
卵型の小さな顔や、なめらかそうなほっぺたや、ふっくらとした唇が──。
チューリップみたいにきれいだなとか、チューリップみたいにかわいいなとか。
しかも。
チューリップという名前、なんだか罪深い響きだなあ、なんて……。
そんな本音がうっかりこぼれ出ないように、ぼくはあわててレモンティーを口に含む。
甘酸っぱくて熱い紅茶が、かわいたのどを潤していく。
春のはじめのカフェテラス。
向かい合ってすわるぼくらを、そよ風がふわりとなでて通り過ぎた。
お読みいただき、ありがとうございました。
(作者の呟き)
スーパーで買ったチューリップがあまりにきれいだったので、エッセイにしようと思い書き始めました。
でも途中で、詩にすれば企画に出せると気づきジャンル変更。そしたらなぜか恋のエピソードになりました。詩にしては長すぎたため、結局現恋ジャンルで投稿しています。
たった575文字ですが、心をこめて書きました。楽しんでいただけたらうれしいです。




